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曇天の摩天楼  作者: 徳田 進
6/6

対決 21:00

 部屋に満ちた光がゆっくりと引いていく。激しく発光していた魔法陣は、今や仄かに部屋を照らすほどの光量しか残っていなかった。部屋にいる人物の表情を見る限り、困惑が9、驚愕が1の割合で占めている。

 驚愕の表情で満ちている男、魔法陣の中心地点にいた男だ。そいつは細かく震え始めると、突然奇声をあげ髪の毛を掻きむしり始めた。傍から見れば駄々をこねる子供のようだが、目は血走り、奇声をあげ、さらに口からヨダレをまき散らしながら髪を掻きむしるという精神異常者さながらの姿だった。

 それが突然ピタリと止まり、熱に浮かされたようにうわごとつぶやき始めた。何かに祈るように、唄うように、赦しを乞うように、必死な様子で何かを紡ぐ。耳を澄ますと微かに、神がやら、罪をやらを呟いている。

 首がグルリと回りこちらを血走った目で睨みつけてくる。瞳孔が開き、焦点があっていないがこちらに対する憎悪にも似た感情を発しているのがよく分かる。

「分かりました神よ、あなたの欲しているものが。生贄が、血が足りなかったのですね。安心してくださいませ、あなたの考えはよく理解しております」

 男はブルリと震える。段々とその震えが大きくなり、間隔が短くなっていく。体の端から少しずつ人間ではないものに変化していく。肉体が、細胞が少しずつ変質していく。それは人間が決してしていいはずもない冒涜的な出来事だった。

 ひと通り変化を終える。その姿は古くから言い伝えられているワーウルフそのものだった。大きな咆吼を一つあげるといきり立って暴れだした。


 僕は銃を抜くのと同時にクラリッサを後ろへと突き飛ばす。先ほどの咆吼で正気に戻っていたものの呆けていたので突き飛ばした。取り出した銃は9mmベレッタ、この街では金さえ払えば子供でも買えるありふれた銃だ。奴に銃口を向け無茶苦茶に連射する。だが、ヤツの強靭な筋肉で作られて鎧は豆鉄砲は受け止められてしまうようだ。アサルトライフルの連射音が連なるように聞こえる。鋭く尖った殺意は確実に奴の鎧を削るが、それでも遥かに人間を凌駕した運動能力が回避を可能にしていた。

 奴はクラリッサをかばいながら戦っている僕を狙いに定めたらしく、僕の方にいきり立って襲いかかってきた。奴の顔に向かってトリガーを引くが、スライドが動きを止め弾薬を吐き出すことを放棄した。奴の大砲のような拳をまともに避けることもできずに正面から食らう。

 殴られた部位が激しい熱を発し、それが稲妻のような早さで痛みへと変化する。奇妙な浮遊感。天地がランダムにシャッフルされ三半規管が悲鳴を上げる。ボロ雑巾のようになった僕は床に無残にも叩きつけられた。潰されたカエルのような無残な声を出して動けなくなった。かたつむりが這うような早さで目玉を動かす。そこには壁際まで後退したクラリッサが見えた。野蛮な獣がゆっくりと歩みを進めている。背中にライフル弾を連続で受けているのに全く答えた様子がない。最初に受けた傷はすでに治癒しているらしく、無尽蔵の体力とスタミナは改めて彼が形容できない化け物になっていることを語っていた。

 僕は彼女に近づこうとするが芋虫のような愚鈍な動きしかできなかった。このままでは彼女のところに辿り着く頃には美味しく調理されてい待っているだろう。その風景が脳内に鮮明に映し出される。スピードをあげようとした時左の腰から小さな金属音がした。視線を向けると2丁目の拳銃、ピースメーカーが銀色の光を鈍く放っていた。力を振り絞りベルトから抜き出す。震える手でゆっくりと銃口を化け物へと向ける。片手はすでにイカれており役に立ちそうにない。痛みによって目がかすむが頬の肉を噛みちぎることで無理やり意識を覚醒させる。奥歯を噛み締め覚悟を決める。

 おそらくだがショーンは事務所にあった状態そのままで持ってきているはずだ。トリガーを引く、つんざくような発砲音が闇を駆け抜ける。着弾した瞬間人狼から絹を裂くような悲鳴があがる。賭けに勝つことができた。奴に今はなったのは銀の弾丸、シルバーバレット、エース殺し。様々な呼び名があるが唯一共通していることは邪なる者や、お伽話に出てくる怪物に確実に効くということが知られている。

 バケモノが悲痛な叫び声を上げながらライフル弾によって蜂の巣にされるのを最期に、僕の意識はブラックアウトした。

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