招集/PM 1:00
事務所に戻ると何故かショーンは姿を消していた。普段なら外出することなどほとんどないはずなのに。まあ、一人分作らなくていいのならばそちらのほうが良いのかもしれない。
食後の紅茶を堪能していると事務所の外が騒がしい。何度か銃声も聞こえ物々しい雰囲気に包まれている。通り側の窓から外を窺う。すると、魚人のような人間が外を走り回っていた。ハロウィンでもないのにご苦労なことだ、そう思いながら残りの紅茶を堪能する。クラリッサが青い顔をしていたが、いつものことだと言って宥める。
乱暴にドアがノックされる。まったく誰なんだ、そんな疑問から警戒なしにドアを開ける。すると大柄の男たちが立っており、一番近くの男が動いたかと思うと、目の中に星が光り、そのまま意識を失った。
誰かの話し声が聞こえる。記憶の片隅に似たような声の持ち主を知っているが、その人物と僕はまったく接点がない。このまま寝続けようと思い意識を沈ませるが、顔にかけられた冷水により無理やり意識を覚醒させられる。
そこは奇妙な部屋だった。部屋の広さは10畳ほどだろうか。四方を黒い壁が覆っており、天井と床も同じ色だ。天井に付いているライトの光が弱々しく部屋を照らしている。床にはなぜか溝が細かくほってあり、部屋の隅にある排水口と思われる場所につながっている。
周りを見渡すと目の前に一人の女が立っていることが分かる。鋭い切れ目、サファイヤのような瞳、黄金比率によってもたらされる完璧な身体。まるで、ミケランジェロの作品が人間になったのかと見紛うほど美しい。後ろから二人近づいてくる、乱暴に腕を持つと無理やり立たせられた。おそらく体格的に二人共男だろう。
「あなたを呼んだのはとある話を耳に挟んだからよ。あなたの知っていること、包み隠さず教えてもらうわよ」
目の前にいる女が高圧的に話しかけてくる。話とは一体何だ。それとこいつらは一体何なんだ。そんなことを考えていると、目の前の女が一歩こちらへと近づいてくる。
「あなた聴きこみをしていたみたいね。ドラッグについて」
脳裏に電流が奔る。彫刻のような女、計画的な犯行、そしてこの街でドラッグについて情報を求めている、この情報から求められるのは。
「お前らアカプルコか、一体なんの用なんだ」
「あら、聞いてた話とは違って鋭いのね。でも、聞かれた質問以外に答えるだなんてよっぽどお馬鹿なようね」
女の右ストレートが顔に突き刺さる。なんだか今日は女に殴られてばっかな気がする。それはさておき、クラリッサと街を徘徊していた時言った麻薬が乱用されていない理由、それがアカプルコの存在だ。彼らはこの街がまだ名も無き村だった頃から支配をしている。それがなぜ麻薬を取り締まることになったのかは全くの不明だが、この街で彼らを通さずに商売をすることは死を意味する。
「さっさと話して頂戴、私もヒマじゃないのよ」
「なんのことだかさっぱりだ。他のやつを当たったほうが早いんじゃないのか」
僕の答えが気に入らなかったのか、テレフォンパンチではなく腰の入ってものを何回か入れられた。更に、美しい美脚を誇る長い足が容赦なく僕を蹴り続ける。どれくらい暴行を受けただろうか。部屋をノックする音が響き渡る。目の前の女は不機嫌そうに顎をしゃくり指示を出す。部屋の隅の方にもう一人男がいたらしく、その男が小さな覗き穴から話を聞いているようだ。
やがて話が終わったのか女へと耳打ちをする。それを聞き一層不機嫌さを増した顔で僕を睨みつけてくる。
「マダムのお呼びだ、ついて来い」
どうやら僕の受難は終わりを告げたようだ。