蕾
大変遅くなってしまって申し訳が立ちません。
DOGEZA致します。
チャキッ
刀が鞘に収まる音だけが静寂の中でやけに大きく響き渡る。
彼は刀を鞘に納めると残心を解き、閉じていた眼を静かに開く。
ガイナス「……っは!? 鉄甲灰色熊はどうなったの!?」
先程までの悟りを開いたような表情が嘘だったかのように、彼は取り乱す。
ガイア「目標の殲滅を確認しました、以降安全の確認が取れ次第待機モードへ移行します。」
ガイナス「殲滅? って事は倒せたんだよね? よかった……それで、鉄甲灰色熊は今何処に?」
ガイア「宿主の背後5メートル程の位置に血抜きの終わった良質な状態で存在します。」
ガイナス「血抜き!?」
ガイア「頸椎から足の指先まで全ての関節を全て切断致しましたので、今頃心臓の動きによって全ての血液が排出されている頃でしょう。」
ガイナス「結局結構物騒だった!?」
ガイア「雪血花は、4代目の宿主の剣聖なる人物が、仕留めた獲物の血抜きも兼ねて編み出した技とのことです。」
ガイナス「じ…実用的なんですね。」
ガイア「剣聖は質実剛健な方と評判でしたから。」
ガイナス「は、はぁ……」
ガイア「あれは良質な肉で、毒もないので食用として有用でしょうから、時間の無駄を省くためにもこの技が一番都合がよかったのです。」
ガイナス「さようですか。」
ガイア「それよりも、鉄甲灰色熊の素体より装甲部を回収したいので向かって頂けますか?」
ガイナス「あ、解ったけど、装甲部なんて堅くて何にも使えないのにどうするの?」
ガイア「百聞は一見に如かずとも言いますし、まずは回収を優先させてください。」
ガイナス「あ、はい。」
ガイナスは殆どの血液が地面に染み込んで泥濘になっている中を歩き、鉄甲灰色熊の前に立った。
ガイナス「ひえぇぇ、僕こんなのと戦ってたのか。」
ガイア「肯定します、そんなことはいいので鉄甲灰色熊の胸部装甲に触れていただけますか?」
ガイナス「解ったよ、これでいいの?」
ガイナスはそう言いながら鉄甲灰色熊の胸部装甲に手を触れた。
ガイア「該当敵性体の完全な活動の停止を確認、これより甲合成を開始致します。」
そう聞こえたと思った次の瞬間ガイナスの右腕の装甲から髪の毛ほどの細さの糸が伸び、鉄甲灰色熊の頭を含む全ての装甲部に刺さっていく。
そして、刺さった糸から右腕に向かって光が集まった。
ガイア「Growing」
ガイアから今までと少し違う、ブレるような声が響き、光が体中に広がる。
すると、今まで腕までしかなかった装甲が光に導かれるように広がって行き、両腕は肩まで、両足は膝まで、そして胸部と腰部にも軽鎧のように装甲が広がった。
最後に頭部には仮面のように装甲が広がって行き、採光部だけが、他の装甲とは違い黒曜石のような質感の物質で視界を遮らないように変化した。
ガイナス「お、おぉぉぉぉ!?」
ガイア「成長終了、まだ装甲の量が足りていないので不完全形態で変化を終了しました。」
ガイナス「な?何これ!?」
ガイア「鉄甲灰色熊から装甲を回収し主の装甲の成長を促しました。」
ガイナス「成長って……」
ガイア「能力制限の解除を確認、空間把握機能、起動。」
ガイナス「うわぁぁぁぁ!?何だこれ!?何だこれ!!??」
ガイナスは半狂乱になって眼を瞑って頭を左右に振ったり、眼を両手で押さえたりするが、それだけでは彼の異変は収まらないのか、暴れ続ける。
ガイア「説明が遅れましたが、空間を把握することでご自分の今の状況を確認して頂こうと思ったのですが。」
ガイナス「うえぇぇぇ、気持ち悪い……」
ガイア「通常の視覚に加えて慣れない空間把握により過負荷が起こった様ですね。」
ガイナス「何かやるなら先に言ってよ……」
ガイア「申し訳ございません、それよりも現状の把握は出来ましたか?」
ガイナス「うわぁ…絶対反省してないよこの人…」
しかし、段々と落ち着いてきたのかガイナスは現状把握に努める。
ガイナス「うわぁ、これって慣れたら凄いね、自分が見えるよ、今こうなってるのか……」
今の彼には、自分を全方位から見たような感覚があった。
先程はそれが視覚情報と重なってしまい、酩酊感のような感覚に襲われてしまったのだ。
ガイア「今はまだ完全ではないために、この状態は蕾のようなものです、開花するにはあと少しの養分が足りない、といった所でしょうか。」
まだ完全ではないとは言えど、ガイナスにしてみれば、今まで装甲が少なくて碌に獲物も狩れなかった自分が鉄甲灰色熊を狩れた事や、装甲自体の成長によって他の新人類よりも多くの装甲を持てた事にこの時彼の精神は静かに高揚していた。
6/4 10:57
ガイア「空間把握機能、起動。」
↓
ガイア「能力制限の解除を確認、空間把握機能、起動。」
あまりにも展開が急だったので、少しだけ文章を追加しました。