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(ゆるキャラに)中の人なんていない!

作者: スプライト

「俺はみんなの人気者。だから諦めるわけにはいかないんだ……っ」

 公園で一人ポツンと座り込み、頭を抱え——ようとしたが、腕が短すぎる上に頭がでかすぎて無理だった。諦めてまっすぐ座っているに留める。……全然、自分が追い込まれているのだと説明できている気がしない。

「……はぁ。ほんと、なんでこんなことに……」

 そう呟いた時、遠くで元気な声が上がった。

「ああっ! きぐるんがいるっ!」

 その声を聞いた俺は勢いよく立ち上がり、そして、こなれてしまった裏声で明るく挨拶を返した。

「きぐるん、参上きっぐ〜! こんにちはきっぐ〜お嬢さんっ。元気っぐ? きぐるんはいつも元気っぐよ〜っ」

「わぁ〜! ほんものだぁ! ほんもののきぐるんだぁ!」

 そう……これが俺の現状リアルだ! 俺は今、地域密着型ゆるキャラ——『きぐるん』としての活動真っ最中なのだ!

 デフォルメしたクマみたいな、愛くるしい短すぎる腕、愛くるしいでかすぎる頭、愛くるしい左右のバランスが異なる瞳。愛くるしいまるで継ぎ接ぎだらけのボロ人形みたいな容姿には『ものを大切にしよう!』というスローガンが込められている。

 ならばなぜ、名前が『リサイクマ』とかじゃないのかは……だれも知らない謎だけど。

 そして今、俺はあり得ない状況に追い込まれている。

 俺はさっきまでここからいくらか離れた場所で、きぐるんがメインのイベントに出ていたのだ。そこまではいい。だが……気付けば俺を取り残してロケバスが帰ってしまっていたのだ!

 ……ほんと、信じられなーいっ。あはは、は……はぁ。

「きぐるん! あれやって! あれ!」

「いいきっぐよ〜っ。それきっぐ!」

 期待にお応えして俺はブレイクダンスを披露し始める。まじでキツい! だれだこんな設定考えたヤツ!

「きゃぁ〜! きっぐるん、きっぐるん、きっぐるんるんっ!」

 小さな女の子のお歌に合わせて回る、回る、回る。求められれば答えるのがゆるキャラのさだめ!

「きっぐるん、きっぐるん!」

 回る。回る。

「きっぐるん、きっぐるん!」

 回る。回る。

「きっぐるん、きっぐるん!」

 回る。回……ばたっ。

「き、きぐるんがたおれたっ!?」

「だ、大丈夫きっぐよ〜。元気っぐ〜」

 なんとか平静を装いながら立ち上がる。

「よ、よかった〜。きぐるんいきてた〜っ」

「きぐるんはこれくらい平気っぐ〜!」

 ほっとした様子の女の子だったが、『はっ』となにかに気付いたかのように顔を曇らせた。

「でも……きぐるんにはひとがはいってるって、おにいちゃんがいってた。きぐるんはへいきでも、なかのひとは……」

「中の人なんていないきっぐよーっ! いるわけないきっぐよーっ!」

 全力アピール。

 お兄ちゃん、なに言ってくれちゃってんの!? 妹ちゃんの夢を壊そうとしないであげてっ! 

 いやそう言えばこの間、ゆるキャラの中身を暴こうとするテレビ番組がやっていた。……悪いのは結局テレビか!? テレビなのか!?

「……ほんと?」

「ほんときっぐ、ほんときっぐ!」

「えと、じゃあ……せなかにあなも、ない?」

「……な、ないきっぐよ〜」

 ほんと、なに吹き込んでくれやがってんだ!? ほんと、なに吹き込んでくれやがってんだ!? ほんと(ry

「みても、いい?」

「……い、いいきっぐよ〜」

 女の子が背中へと回る。俺はゆっくりと腰をその場へ下ろしていく。

 地獄のような数秒の後、女の子が正面へと回ってきた。その表情は——

 ——まるで花が咲いたかのような笑顔だった。

「ほんとだ! おにいちゃんまちがってた! きぐるんはきぐるんだ!」

「も、もちろんきっぐよ〜」

 俺は苦い表情が表に出ないように……って、着ぐるみを着てるからどうせわからないんだった。

「おにいちゃんにおしえてあげないと! きぐるん、ばいばい! ……あ。ママ! さっきね——」

「ばいばいきっぐ〜」

 あっという間だった。子供の行動力恐るべし。去ると決めたら一切の躊躇いがなかった。

 ……はぁ〜。

 再び一人きりになった俺は腰を下ろしたまま、安堵の息を吐く。

「よかった……。この着ぐるみが、『ちぐはぐ』の部分から着脱するようになっていて、本当によかった……」

 きっと女の子は、模様と実際に開くジッパーの違いがわからなかったのだろう。今回ばかりにおいては、このデザインに感謝せざるを得ない。

 だが問題は依然、残ったままだった。

 着ぐるみから腕部分だけを抜き、胴体へと引き入れる。ダンスを習う際に鍛えた柔軟力を以てして背中へと腕を回す。

 ……そこには、本来あるべきジッパーの取っ手がなかった。かといって、着脱口が開いているわけでもなかった。指でなぞるも、ぴったりと閉じている事が伝わってきた。……つまり、壊れている。


「……脱げねぇよぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」




 後日、俺を雇っていた人から一通の連絡が入っていた。

 ——『先日のドッキリ番組「ゆるキャラの生態っ!」の給料は、別途支払いになるが構わないか?』と。


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