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バグ

(『敵前逃亡チキン・ハート』が発動しなかっただと・・・)

 俺は動揺を隠し切れなかった。

 今までこんなことは一度もなかった。

「どうだ! お前のスキルは見えなければ発動しないんだよ!」

 先輩は勝ち誇ったように言った。

 『敵前逃亡チキン・ハート』は、他のスキルと違い永続的に発動しているから、所有者が見ていなくても発動するはずなのだが・・・。

 一応、スキルがなんらかの理由で不調だったということも考えられるが、さすがにこんなタイミングよくなることはないだろう。

 つまり、先輩の言うように、『敵前逃亡チキン・ハート』は、攻撃を見ることが出来ないと発動しないようだ。

(そうだとすると、かなりやばいな・・・)

 今までは、相手はこっちに攻撃することが出来ないという安心感があったが、そんなものは今さっきなくなってしまった。

 それに、見えていないと発動しないということは、俺が後ろを向いている場合に発動しないということだ。

 つまり、ヘタに接近戦をして、後ろをとられた場合は発動しないということだ。

「それより先輩、対戦相手にそんなこと教えてもいいんですか?」

 こちらの弱点を知れば、なんらかの方法で対策をすることぐらい先輩もわかりきっているだろう。

「何を今更、これもお前へのハンデだ。それに、これで勝ち目がないと思ったら、俺は降参してくれたって構わないんだぜ?」

 先輩は弱点をあえて教えることで、こちらを戦意喪失させようとしているようだ。

(ここで降参なんてしたら、また姉貴の情報がなくなってしまう)

 先輩は遊びでこのトーナメントに参加しているかもしれないが、こちらは違うのだ。

 だから絶対に降参なんかしない。

「降参する気がないなら、そろそろ本気でお前を倒すか」

 先輩はポケットに入れていた小粒の瓦礫を大きくし、そしてピコピコハンマーで叩いた。


 ピコッ!!


 再度、屋上はコンクリートの煙で埋め尽くされてしまう。

(くっ、相変わらず何にもみえねぇ・・・)

 目の前にいるはずの、先輩の姿も、自分自身の足元すらも薄っすらとしか見えない状況だ。

(どうすれば・・・)

 俺は取り敢えず、今いる位置から離れることにした。

 多分相手は、始めに見た位置からこちらの場所を推測して攻撃を仕掛けるはずだから、始めの位置から離れれば攻撃するのは困難だ。なんせ、相手もこっちを見ることが出来ないのだから。

 俺はすぐにその場から離れた。

 煙が無くなるまで動き続けるつもりだったが、どうやらそうもいかないらしい。


 ピコッ!!


「イッ!!」

 俺の左手に何かが当たった。

 痛みこそ感じなかったが、音と、そして薄くなった煙がその正体を明かしてくれる。

「なんだ、はずれたか・・・」

 先輩は俺のすぐ左にいた。

 どうやら左に当たったものは、先輩のピコピコハンマーのようだ。

(どうやら気絶はしていないな・・・・!!)

 その瞬間、左手の違和感に気づく。

(おかしい、左手がまったく動かない)

 まるで俺の左手が存在しないかのように動かなくなっていた。

 その他の部分は動くことから、『木っ端微塵ぶちこわし』は、人に当たった場合、その当たった部位が動かなくなるようだ。

「あーあ、気づいたか。頭に当てるのが難しいから、出来れば降参してほしかったんだが・・・」

 こちらに降参を催促した理由はそこにあるようだ。

 先輩の発言で、頭に当たったら、今度こそ気絶をしてしまうようだ。

 逆に言えば、頭に当たらなければ気絶をしないということだ。

 だが、足に当たってしまえば移動が困難になる。攻撃自体は『敵前逃亡チキン・ハート』で避けれるが、煙幕を張られている状態で動けないとなると・・・。

 今の状態で一番いい手は、取り敢えず先輩に煙幕を張らせないことだ。

 それには瓦礫を大きくして、叩く時間を与えないこと。

 つまり、

「うぉぉぉお!!」

 俺は先輩に向けて殴りかかる。

 出来るだけ相手に後ろをとらせないように、そして後ろをとっても、攻撃をされる前に攻撃を見ることが出来るようにしなくては。


 スカッ


 しかし、そんな中途半端な攻撃など簡単に避けられてしまう。

「そんなに倒されたいのなら、大人しく寝てろ!」

 先輩は片手でハンマーを持ち、俺に向かって振り上げる。

 しかし、『敵前逃亡チキン・ハート』により、2m後ろに移動。攻撃を避けることが出来た。

 そう、攻撃は・・・

「あっ・・・」

 先輩は、攻撃を仕掛けることにより、俺を先輩から離し、ハンマーを持っていない方の手に持っていた瓦礫を大きくし、俺を追い払う為に振り上げたハンマーをそのまま瓦礫に当てた。


 ピコッ!!


 またも屋上を煙幕で包み込む。

(やっぱり、何にも見えないか・・・。それにしても、さっき先輩は何で俺を攻撃できたのだろうか)

 さっきは、移動することにより場所の特定を防いだはずだった。

 しかし先輩は、こちらの位置を把握して、攻撃することができていた。

(これじゃあ、移動することが安全とは限らなくなってしまった)

 俺はその場にいるべきか、それとも攻撃が来ることを覚悟して移動すべきが悩んだ。

 すると、あることに気づく。

(煙が不自然な動きをしている)

 今まで意識していなかったが、目の前の煙が明らかに不自然に動いていた。

(先輩は、この煙の動きで俺の位置を把握していたのか!)

 移動すれば、当然煙も動く。

 ならば煙が動いているところを攻撃すればいいだけだ。

 その為、正確に頭を狙うことができなかったのだ。

(なら、逆に煙の動きを見たら、先輩の攻撃がわかるのか)

 これで『敵前逃亡チキン・ハート』の弱点もなくなった。

 左手こそ動かないが、これで開始時とほとんどかわらなくなった。

 しばらく煙を見ていると、目の前の煙がこちらに動いてくるのがわかった。

(くる!!)

 その瞬間、『敵前逃亡チキン・ハート』が発動した。

 それにより、俺は2m後ろに下がる、

 その瞬間・・・

『えっ・・・』

 先輩が俺から見て右の方向から飛び出してきた。

 スキルが発動中でそのまま後ろに下がって攻撃を避けることは出来たが、それでも不自然な動きだ。

 攻撃の方向の逆に移動するはずが、右から来る攻撃に対応せずに移動したのだ。

 しかも、前からくると思っていた攻撃は、実際には存在しなかったのに発動した。

「おい、お前のスキル、不調なんじゃないか?」 

 先輩が訊いてくる。

 先輩も今の動きをおかしいと考えたのだ。

 しかし、俺の一つの仮説を思い浮かんだ。

(まさか・・・。だけど、これが当たっていれば、俺は勝てるかもしれない・・・。)

 

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