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光なき球


 休憩は終わり。茶会を切り上げ、コーネリアの部屋へと向かう。これから、コーネリアとエリアナは、マルガレータから礼儀作法の授業を受ける予定。

 エリアナも受けるのは、一応、パレードという人前に出ることが決まった為。立ち方や歩き方、挨拶の仕方などを教わることになった。


 しかし、エリアナは先ほど気が付いてしまった可能性に頭の中を占められている。うまく授業が頭に入って来る確証はない。

 いつまでもうじうじと悩むのは、エリアナの性に合わない。授業前にクロードを探し出し、単刀直入に聞いてみようか。

 いや、もし、愛しているの意味が親愛ゆえだと言われたら、立ち直れない。せめて、人前に立つパレードが終わるまで保留にしておいた方がいいのではないか、とも考える。


「こっちを通りましょう。近道なんです。人通りも少ないので、並んで歩いても、たぶん大丈夫です」


 コーネリアが大きめの廊下から、脇にある細い廊下へと入る。エリアナはその背を追いかけつつ、難しい顔で唸った。


「うおぁっ!?」


 しかし、前方から大声が聞こえたことで、一時、悩みが吹き飛んだ。


 廊下の角を曲がると、文官らしき男性が少し先にいた。彼はおかしな格好で立ち止まり、足元を見下ろす。


「なんでこんなところに変なボールが……」


 ぶつぶつと言いながら、立ち去っていく。

 なにか不審物があるのではと、護衛の騎士が先に様子を見に行った。


「これは……魔導具?」

「ドロテア姫のものでは?」

「え?」


 騎士達の会話が聞こえた。自分の名前が出たことから、エリアナはそちらへと駆け寄る。

 そして、騎士の足元にある物を見て、驚いた。


「お父さん!?」


 金の飾りがついた、透明感のある橙色の球体が床に転がっている。エリアナは慌てて拾い上げた。


「お父さん? どうしたの? 大丈夫?」

「どうなされたのですか?」


 エリアナが声をかける横へ、マルガレータとコーネリアも近寄って来た。


「お父さんってば!」


 球体を乱雑に叩いても、揺らしても、無反応。光ることも、声を上げることもない。


「なんで……」


 エリアナは動揺した。一体、サイラスになにが起きているのか。


「とりあえず、わたしの部屋に行きましょう」


 数は少ないものの、廊下には通行人がいて、人目がある。コーネリアの提案に、エリアナは頷いた。


 母、セシリアには言えない。そのものではないといえど、サイラスの人格と記憶を持つモノになにかあったとなれば、どう暴走するかわからない。


「クロードは?」


 エリアナはサイラスに問いかけた。少なくとも、中庭にいた時は一緒にいたところを確認している。だが、サイラスはなにも答えないまま、沈黙を続けるばかり。


 コーネリアの部屋に着いた後も、叩き、揺らし、投げた。しかし、うんともすんとも言わない。


「どうなってるの……?」


 エリアナは泣きたくなった。セシリアが正気を戻したことを見届けたからと、父親の残留思念は消えてしまったのだろうか。別れの挨拶も、助けてくれたことへの感謝も告げていないのに。


「発言をよろしいでしょうか」


 不意に一人の騎士が手を挙げた。セシリアがエリアナにつけた者だ。宿にエリアナ達を迎えに来た者でもある。


「えー……デビッド? ……いいわ」


 エリアナは彼の名前を捻り出す。なんの訂正もないので、合っているようだ。


「そちらの魔導具ですが、封印状態、ではないでしょうか」

「封印?」


 エリアナは目を瞬かせた。


「壊れてるとかではなくて?」

「はい。なんらかの術で、力を封じられているのではないかと。であれば、宿る人格も、冬眠状態に近いのではないでしょうか」


 エリアナ達は知らないが、この騎士デビッドの実家は、代々、優秀な魔導士を輩出している名門貴族。彼自身は魔導士ではないものの、魔法や魔導具に関する知識などは、一般的な魔導士並みにある。


「封印……」


 エリアナは閃いた。


「そうだ!」


 ドレスの横についているドレープに隠されるように、ポケットが付いている。エリアナがそこに手を突っ込み、取り出したのは、細く短い杖。

 この杖は、エリアナの翼を加工した魔導具。つまり、セシリアが持っていた王笏。しかし、セシリアに返してもらった後、サイラスとクロードから教示を受けながら、エリアナが作り替えた。普段から持ち運びやすいように。


 杖を握り締め、先端の石を球体に押し付ける。その様を凝視する瞳が、蒼天に座す太陽が如く輝く。


「――新しき太陽から、旧き太陽へ」


 太陽の力を宿す杖を媒体に、かつて太陽の力が宿っていた球体に干渉する。エリアナがセシリアの騎士達から逃げる際、サイラスの翼に残っていた太陽の力を借りたように、今度はエリアナの翼に残る力をサイラスに分け与える。


 すると――


「あっ!」


 球体は眩く光り輝く。エリアナは大丈夫だったが、この場にいる人間達は皆、反射的に目を瞑った。


『復っ活ーーーーッ!!』


 本体の輪郭もわからないほどの光を放つ球体は、エリアナの手から離れる。宙に浮かぶと、室内を縦横無尽に飛び回った。


「お父さん!」


 そして、再びエリアナの腕の中に戻って来る。

 なにがあったのかとエリアナが聞く前に、


『エリアナ、大変なんだ!』


 切羽詰まった声で、サイラスの方から話し出した。


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