5 やるからにはお遊びでも徹底します
「きゃあああ! クローネ、素敵っ!!」
興奮したルピアがクローネの周りをぴょんぴょんと跳ねる。
クローネは現在――ルピアの着せ替え人形となっていた。
街へ出るとルピアは侯爵家の支援する劇団へクローネを引っ張り込んだ。
そして、クローネは片っ端から舞台衣装を着させられたのだ。……男性用の。
王子様や騎士のほか、砂漠の民だの魔術師だの、ありとあらゆる衣装に身を包むたび、ルピアと劇団員たちに黄色い悲鳴が上がった。
今着ているのは執事服だ。
「あ~ん、このままわたくしの執事にしてしまいたいわぁ……」
うっとりとこちらを見上げるルピアに、クローネの笑顔がひきつった。
「ちょっとルピア……私そろそろ疲れたんだけど……」
「あら、ごめんなさい! お茶にしましょう! さ、こっちへ来て。美味しいチョコレートがあるのよ」
「着替えさせないんかい」
「だってもうしばらく執事のクローネを堪能したいんだもの。……ダメ?」
うるうると上目遣いでお願いされるとクローネは弱い。あざといお嬢様め! 可愛い! などとキュンキュンしつつ、そのままの服装でお茶をいただく。
「はぁ~本当に素敵だわ……。“初恋は虹色に染まる”のアルバート様みたい……」
ぶふっとクローネが紅茶を噴く。
“初恋は虹色に染まる”は女性向けの恋愛小説で、アルバートというのは主人公に愛を囁くヒーローである。執事の身でありながら、実は隣国の第三王子でした~という超人気キャラだった。
「ちょ、わ、私なんかがアルバート様になれるわけないでしょ! 失礼よ!」
クローネも実はアルバートのファンであった。クローネだって恋愛小説大好きっ子なのだ。
「せめてプラチナブロンドのカツラをかぶれば、もう少し似せられるかもしれないけど……」
ポツリと言ったが最後、ルピアの目がギラリと光った。
「誰かっ! プラチナブロンドのカツラを持ってきてちょうだい! どうせなら徹底的にアルバート様に近づけるわよっ!」
「「「「ラジャー!!」」」」
劇団員たちがザザザッと小道具をかき集めてくる。
プラチナブロンドのロングヘアのカツラに、藤色の髪紐、護身用の短剣などなど。
「ああ……! アルバート様……!!」
ルピアがうっとりとアルバート仕様になったクローネを見つめる。
鏡を見て、うむうむと頷いたクローネは、これなら合格点かしらと満足げに微笑んだ。
楽しくなってきたので、ついルピアへアルバートのセリフを再現してしまった。
「……お嬢様。私以外に目を向けたら、お仕置きですよ?」
「「「「「「ぎゃあああああ!!」」」」」
至近距離で推しに囁かれてしまったルピアは、その場でバタンと気絶した。
劇団員たちも、腰砕けになりよろよろと倒れこむ。
「えええええ!? ちょ、ルピアっ!? みなさ~~ん!?」
クローネだけが自分の破壊力を分かっていなかった。