3 鈍感な彼と友人たちの奔走
「いいか、レアル。女の子ってのはな、好きな人には可愛いと思われたいものなんだよ。それをお前、男らしいって……」
「そうだぞ! 動物に例えるにしたって、ゴリラは無い! もっと犬とか猫とか……小鳥とかリスとか、可愛い小動物はたくさんいるだろ?」
クローネが去った教室内では、正座をさせられたレアルが友人たちに説教をされていた。
「……二人とも、恋人いたことないのによく分かるな」
「「うぐっっっ!!」」
レアルの発言が二人の精神に若干のダメージを与えたが、レアルに悪意は全くなかった。
ただ純粋に、すごいなと思っているのだ。
「お、お前、そういうとこだぞ!」
「こいつは言葉選びが壊滅的なんだよなぁ……」
「……僕はいつも人を怒らせてばかりだ。クローネからも、口を開く前に相手がどう思うか考えろと言われているんだが、どうにも治らなくて……」
しょんぼりと落ち込むレアルを見て、ペソとユーロは顔を見合わせる。
少しばかり正直すぎるところはあるが、悪いヤツではないのだ。
「とりあえず、クローネ嬢に謝りに行こうぜ」
「……分かった」
「クローネ嬢ってお菓子好きか? 菓子折り持っていきたいんだけど」
「だったらチョコレートがいい。クローネはチョコレートが大好きなんだ」
「よっし! じゃあゴディーブのチョコレート買ってこーぜ」
かくして三人は高級チョコレート専門店ゴディーブでチョコレートの詰め合わせを購入し、フラン家へ向かった。
「……え? まだ帰ってない?」
フラン家の応接室。レアルたち3人の前で、クローネの兄であるディルハムが優雅にお茶を飲んでいた。
「ドール家に寄ると連絡がきた。……まあ、いつものことだな」
ニヤリと笑うディルハムに、レアルは頭を下げた。
「時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。これからドール家へ向かいます」
立ち上がろうとするレアルを、ディルハムが引き留める。
「やめておけ。どうせ今から行っても行き違いになるだけだぞ」
「これまでもクローネをドール家に迎えに行くことはありましたけど……?」
いつものこと、とディルハムが言うように、ケンカした後にクローネがルピアの元へ行った時にはレアルが謝罪のために迎えに行くという流れだった。
なぜ止められるのか分からず、レアルは困惑した表情でディルハムを見た。
「今回は少しばかり今までと違うみたいだぞ。クローネはルピア嬢と一緒に街へ出かけるそうだ。……君の顔を見たくないんじゃないのか?」
「なっ!?」
面白そうにニヤニヤ笑うディルハムの言葉に衝撃を受け、レアルはその場で固まった。
顔を見たくない? 嫌われた? クローネに?
レアルの脳が機能を停止する。
「レ、レアルっ! 戻ってこーい!」
「ま、まだ間に合うかもしれないだろっ!」
ペソとユーロの言葉に、レアルがはっと覚醒した。
そうだ。こんなところでぼーっとしている場合ではない。
「クローネっ!!」
愛しい人の名を叫ぶと、レアルはダッと駆け出した。唖然とするペソとユーロをその場に残して。
「……まったく、いつも世話の焼けることだ。巻き込んでしまってすまないね、君たち。どうも私の義弟は女性の扱いというものを分かってないらしい」
やれやれと肩をすくめるディルハムに、ペソとユーロが苦笑した。
「でも、あいつはいいヤツですよ」
「正直すぎるけど、優しくて誠実です」
「ふふっ、そうだね。少なくとも彼は友人には恵まれているようだ」
残された三人は和やかにお茶を飲みながら、レアルのクローネに対するポンコツ具合について情報を交換したのだった。