12 あなたと私とジョバンニくんと
「クッ! クローネッ!? 君が君の婚約者候補!? どういうことだ!?」
完全にパニックに陥ったレアルの叫びで、クローネは何となくレアルの勘違いを察した。
「お~い! レアル! やっと追いついた!」
「ケンカはダメだぞ! 話し合いをするんだ!」
バタバタと走ってきたペソとユーロが、クローネたちの前で立ち止まる。
「……えっ!? クローネ嬢!?」
「ル、ルピア嬢とうちのクラスの女の子たちも……?」
オロオロと混乱するペソとユーロを、ルピアたち乙女小説同好会メンバーが取り囲んだ。
「事情は後で説明しますわ。今はクローネとシュケルさんを見守らなければ!」
「さあ、こっちへ!」
すささささ、とクローネとレアル以外の関係者は二人から距離を取って見守る態勢に入った。
「……レアル。本当に私のこと愛してる?」
「もっ、もちろんだ!! クローネしか愛してない!!」
「……ジョバンニくんよりも?」
「ジョバンニよりクローネの方が大事だ! 当たり前だろ!」
大声で語り合う二人は気付いていないが、ここは王都公園。
つまり、周りには人目がある。
公園に来ていた関係者以外の人々は、男性同士のカップルがジョバンニくんという男と三角関係を繰り広げていると勘違いした。好奇心を刺激されまくった人々は、足を止めて二人の様子をこっそり伺っている。
「私がジョバンニくんに似てるから、好きになったんじゃないの?」
「そんなわけないっ! ジョバンニは確かに美形だけど、クローネとは似てないよ」
え、あいつの言い方だとジョバンニの方が美しいってことにならないか? と、何も知らない野次馬たちがヤキモキする。
「クローネは、この世界中の誰よりも可愛い!!」
「っっっ!!」
レアルが絶叫する。
その言葉は、クローネの心臓を刺し貫いた。
可愛いと言われた。レアルにとって、この世界の誰よりもクローネが可愛いのだと。
嘘がつけないレアルの言葉は、破壊力がすさまじかった。
クローネは言葉を発することができず、顔を真っ赤にして瞳を潤ませる。
そんなクローネの身体を、レアルがガバリと抱き締めた。
「クローネ……愛してる。僕を捨てないで……」
「レアル……」
少しずつ二人の唇が近づいていく……が。
「おべでどう~~!!」
「よがっ、よがっだな、レアル~~!!」
ずびずびと涙と鼻水を垂らしながらペソとユーロが駆けてくる。
「クローネ! おめでとう! シュケルさんに可愛いって言われたわね!」
「ギャップ萌えですわ~!」
「どうしましょう……薔薇の世界に目覚めてしまいそう……」
ルピアと乙女小説同好会のメンバーたちもゾロゾロとやってくる。
「兄ちゃんたち、幸せにな!」
「大丈夫よ! 王都はマイノリティにも優しいからね!」
「王都にはパートナーシップ制度ちゅうのがあるからのう。手続きをするんじゃぞ」
周りで見ていた野次馬たちも、祝福の言葉をかける。とんでもない勘違いをされているが、それを指摘する者はいなかった。
「……レアル。仲直りのデートは、イーストマウンテン動物園に連れて行ってね?」
「ああ! 最高の1日にするからな!」
盛大な拍手が二人を祝福する。王都公園は一時的にすごい人だかりとなり、翌日のゴシップ誌にはとあるスキャンダルが掲載された。
―― シュケル家長男、男に走る! 婚約者に捨てられた反動か!?
王都公園での熱い抱擁!! ――
「レアル~~~っ!! この記事は何だあああ! お前、まさかクローネちゃんを裏切ったのかぁぁぁぁっ!?」
鬼のような形相でテンゲがレアルに殴りかかったのは、また別のお話。
※ ※ ※
「まぁ、素敵! カッコイイわ! こっち向いて、ジョバンニく~ん!」
檻の前ではしゃぐクローネの手をレアルが握る。
約束通り、レアルはクローネをエスコートしてイーストマウンテン動物園へデートに来ていた。
「……クローネ。一緒に行きたいと言ったのは僕だけど……あんまりジョバンニに夢中になられると嫉妬してしまうよ」
「あら! 先に嫉妬したのは私の方なんですからね! レアルってばゴリラばっかり褒めるんだもの。そもそも、男らしいところが好きだなんて、割とひどいこと言われたし」
「あっ、あれは急にクローネの好きなところを聞かれたからでっ……。クローネは強くて凛々しいなって思って……。クローネが可愛いことは、僕にとって当たり前すぎてとっさに出てこなかったんだよ」
「ほぁっ!?」
ぼんっと音が出たようにクローネの頬が赤く染まる。
「すぐ赤くなるところも可愛い。クローネは全てが可愛い」
「ほわぁぁぁぁっっ!」
レアルはあれから嘘のようにクローネに愛を囁く。自分の愛があまりクローネに届いていなかったことにショックを受けたレアルは、積極的に言葉にすることにした。
もし誤解させて怒られたとしても、クローネは自分を見捨てないと分かったレアル。
もう怖いものなんてないと、クローネを溺愛した。
――結婚式は、薔薇の咲き誇る庭園で盛大に挙げる予定である。
余談だが、イーストマウンテン動物園の入場者数が右肩上がりになっており、特にジョバンニくんの人気がさらに高まった。
飼育員のアラン・モーケンは首を傾げつつも、今日もジョバンニくんを愛情持ってお世話するのだった。