11 謎の修羅場になりました
「オイオイ。おめーら、何見せつけてくれちゃってんの~?」
「通行の邪魔だぜぇ? お嬢ちゃんたちは、俺らとイイところに移動しようか~」
ニヤニヤと笑いながら寄って来るガラの悪い男たちをクローネは一瞥した。
そしてため息をつく。
鼻ピアス、モヒカン、大きなドクロのタトゥー。
「テンプレみないなごろつきかぁ……。面倒くさい……。ルピアたちは下がっててね、危ないから」
女の子たちを背にかばいながら、クローネは前に出た。無詠唱ですでに身体強化の魔法はかけてあるので、あとはごろつきどもをボコボコにするだけである。実はこれまでにも似たようなことが何回かあったので、クローネはもう驚きもしなかった。
モテない男の僻みには困ったものだ。
クローネが男たちとの距離を詰めようとすると――思いもかけない人物に邪魔をされた。
「何をやっている! 暴力沙汰なら自警団を呼ぶぞ!」
息を切らして走ってきたレアルの姿に、クローネは固まった。
(え? 何でここにレアルが? お兄様はしばらく接近禁止にしたって言ってたのに……って、今私変装してるんだったわ! レアルは私だって気づいてるのかしら?)
混乱するクローネをよそに、テンプレごろつきたちがこそこそと逃げて行く。優男には因縁をつけられても、自警団を相手にするつもりはないらしい。予想以上に小物だったなとクローネは呆れた。いやいや、今はそんなことより目の前のレアルだ。
クローネがドキドキしながらレアルを見つめていると、レアルはこちらをキッとにらんできた。
「今後一切、クローネに近づかないでくれ!」
「……は?」
「君の行動は不誠実すぎる! クローネには相応しくない!」
「え、えぇ~~?」
いきなり自分に近づくなと言われ、クローネは混乱する。
(ど、どういうこと? ここにいる私がクローネだと気付いてないのよね? 相応しくないって、何が? 私を誰と勘違いしてるの!?)
「これでも、僕はまだクローネの正式な婚約者だ! 君のように複数の女性と親しくするような男に、クローネは渡せない! 僕は君なんかよりもずっとクローネを愛している!!」
「!!」
レアルの渾身の叫びが、クローネの魂を震わせた。
“愛している”レアルは確かにそう言った。
「それ……本当……?」
「当たり前だ! 僕は三年前からずっとクローネだけを愛してきたんだ!」
「……レアル……」
「え? 何で僕の名前を……」
呆然と自分を見つめる相手の顔を、ようやくまともに見たレアル。
「クローネ!?」
――恋のライバルは、自分の愛する婚約者だった。