ヤンデレ幼馴染とクリスマス
クリスマスといえば純愛ですね。なので純愛を書きました。はい、これは誰が何と言おうと純愛です。
12月24日、いつもなら気が落ち込み、周りのカップルたちに妬みをぶつけるこの時期だが、 今年の僕には彼女がいる。最近ダメ元で好きな人に告白してみたら意外にもあっさりと了承されてしまったのだ。
そんな彼女とデートの約束で待ち合わせ場所に……
「あっ、ごめんなさ……って君か」
「久しぶりだね」
彼女はみゆ、小さい頃からいつの間にか近くにいるいわゆる腐れ縁というやつだ。
「こんなところ通るなんて珍しいじゃん。それに最近喋ってくれないからちょっと寂しかったんだよ。なんかあったの?」
「そうだ、まだ言ってなかったね。最近彼女が出来たんだ」
そう言うと彼女はひどく驚いた様子で
「え……彼女が出来た? 君に? 嘘? へえ~意外、君告白する勇気とかあったんだ。ふ~ん」
明らかに動揺しているみゆに違和感を覚えながらも
「ひどいなぁ、僕だってやるときはやるのさ」
と得意げに告げる。するとみゆが、
「ねぇ……その話詳しく聞きたいしさ、ちょっとそこでお茶しない?」
急な誘いに正直びっくりしたが、
「いやいや、僕彼女いるんだよ!? 付き合ってすぐ浮気でも疑われたら嫌だよ!」
「え~別にいいじゃん、もう10年ぐらいの付き合いだし誰も疑ったりしないよ~」
冗談っぽくみゆは言っているがその瞳の奥には確固たる意志を感じた。
「でもなぁ」
「あ~もしかしてその彼女さんとどっかで待ち合わせでもしてる感じ?」
みゆは少し上目遣いで寂しそうな顔をして見せる。みゆお得意の『寂しそうな演技』もう飽きるほど見た。
「ん~、でもその顔は急いでるときの顔じゃないな~」
彼女の洞察力には敵わない。
「そこまで言われたら……しょうがない、ちょっとだけだよ」
「マジ!?やった!それじゃあ、行こ行こ!」
みゆは足軽に僕の後ろにつき、背中を押す。
「あと……」
「『お前から誘ったんだから、奢ってくれよ』でしょ?分かってるって」
「……ほんと君には、敵わないや」
**
「はぁ~、しかし君にも彼女が出来るなんてねぇ~」
喫茶店の席に着くなり彼女がつぶやく。
「何?そんなに変?僕に彼女が出来たこと」
僕が気になって聞くと、
「いやほら、君ってさ……ちょっと失礼だけど、なんかぱっとしないというか……なんというか……どちらかというと、モテない側の人間じゃん?」
「ひどいなぁ」
僕が少しムスッとすると、みゆは笑いながら、
「ごめんごめん、君反応が面白いからついついからかいたくなっちゃうんだ……」
その顔に少し寂しさを感じた気がした。
「って話がそれちゃったね。で、彼女ってどんな人?」
彼女は明るく振る舞う。気のせいかな?と思いつつ僕はみゆに彼女の写真を見せる。
「……ふ~ん、この子、クラスでもかわいいって評判の子じゃん。よく付き合えたね」
「ダメ元で告白してみたら簡単にオッケーもらっちゃって」
ふと見た彼女の顔は、嫉妬にまみれていた。
「でもその子遊び癖があるとかないとか、いろいろ噂になってたような……」
テーブルに届いたコーヒーを手に取りながら言う、しかしその手は少し震えていた。
「嫉妬してるね、その顔」
みゆは顔が一瞬引き攣り、コーヒーに向けていた視線をこちらに戻す。
「君には全部お見通しだよね。君が近くにいなくなると思うと寂しくなっちゃって……」
みゆは肩を落とすと、何か覚悟を決めた様子で語りかけてくる。
「こんな時に言うのはちょっとずるい気がするけど、今言わないと後悔しちゃう気がするから 言うね。私、君のことが好きなんだ」
正直、予想外の言葉だった、みゆが僕に対してそんな想いを寄せていたなんて気づきもしなかったし、もう僕には彼女がいてみゆの願いはかなえてあげられない。
「……そうだよね、私だってわかってる、君がこれ以上の関係を求めてないし、彼女がいる君にこんなこと言ってもどうすることもできないのにね……もう私なんて居なくなった方がみんな幸せになるのかな……」
みゆは静かに涙を流しながら、心の内を吐露する。僕はみゆの手に自分の手を添える、こうすると彼女は少し落ち着くのだ。
「……ありがと、君に甘えたいが為にこんなこと言っちゃって……こんな自分が嫌になっちゃ うよ」
「ずっとそばにいたのに気付かなかった僕も悪かったよ」
そう言った瞬間みゆは、虚を突かれた顔をした。
「ダメだよ、君にはもう恋人がいるんだから、そんな思わせぶりなこと言っちゃ。って君もそろそろ時間じゃない?」
「いや……まだ時間あるし、家まで送っていくよ。今の君を放っていくとどうなるか分かったもんじゃないしね」
「……ありがと。ホントに君は優しいね」
「……うん、ここまででいいよ」
「そっか、じゃあ僕もそろそろ……」
そう言い踵を返した僕の背中に、みゆがいきなり抱き着いてきた。
「ねぇ、最後に私のわがまま聞いてくれない? ほら、明日クリスマスだしさ」
「……いいよ、どうせ断っても離してくれないんでしょ」
みゆは少し怒ったような顔をして
「別にそこまで強制するつもりなかったんだけど。まぁいいや、じゃあこっち向いて?」
体をうまく捻りみゆと抱き合う形になる。
「もうこんな機会ないと思うからさ、頂戴、君のファーストキス」
「えっ」
気づいたときにはみゆの唇が僕にあたっていた。
驚いたのも束の間、僕の体に雷が落ちてきたような痛みが走り、膝から崩れ落ちてしまった。 残った力を振り絞り、声を上げる。
「何……これ……」
段々と視界が揺れ始め、耳鳴りの中にみゆが僕に話しかけてきているような気がした。
「ごめんね? でも……君が悪いんだよ? 君が思わせぶりなこと言うから……我慢できなくなっちゃった」
「あれ?気絶しちゃった。君の寝顔、いつ見てもかわいいね♡」
**
……目が覚めるとそこは見覚えのある部屋と自分の手足に縛り付けられた縄のような物、まるで別人のような冷酷な顔をしたみゆが椅子に座っていた。
「……あ、起きた?遅かったね、結構効果あるんだ。このスタンガン」
みゆは手に持っている黒い『何か』を眺めながらつぶやく。状況がうまく飲み込め切れていない僕は、「(とりあえず逃げなきゃ……)」
と思いドアの方へ這いつくばりながら向かう。
「……暴れてもロープは外れないよ。あと、あんまりこそこそ動かないでもらえるかな?」
そう言いながら、みゆは僕の上に跨り、『何か』を僕の首筋に当てる。
「もう一回おねんねしたいのかな?」
彼女がそう言いながら微笑む。だがその笑顔にはいつものような無邪気さはなく、ただただ冷たく、怖かった。
「なんで……なんでこんな事………」
僕は涙目になりながら、みゆに問いかける。
「しょうがないじゃん、君が思わせぶりな事いうから、もう……耐えられなくなっちゃった……♡」
みゆは自分の手を頬に這わせながら恍惚な表情で語りだす。
「君の体温、君の匂い、君の心臓の鼓動、君を身近に感じた時、君を手放したく無くなっちゃっ たんだよね……。元はといえば君が悪いんだよ?君には私がいるのに他の女に手を出すなんて」
僕はどうにかしてここから抜け出すため、言葉を捻り出す。
「……待ちあわ」
「君の彼女には君の携帯から連絡したよ。君が寝てる間に、ちょっと君の手を借りてね」
そう言い、みゆは僕の携帯に写ったメッセージアプリの画面を見せつけてくる。
「ちょっと風邪ひいちゃっていけそうにないってね。あと別れも切り出しといてあげたから」
メッセージの内容をよく読んでみるとそこには冷酷に別れを切り出す自分がいた。一瞬で全て を失った絶望感に泣くことしかできなかった。
「どうしたの?そんなにあいつと別れたくなかったの?」
完全にタガが外れたみゆが僕の胸倉を掴み、僕を問い詰める。
「何!? そんなにあの尻軽女の方がいいの!? あんな奴、清楚ぶってるけど裏では男をとっか えひっかえしてるような奴だよ!? どうせ君の事なんて飽きたらすぐ捨てるような奴だよ!?」
みゆはひとしきり喋り終えると魂が抜けたかのようにうなだれ、僕に語り掛ける。
「ねぇ、なんで私じゃダメなの? 私の方が君の事よく知ってるよ? 私の方が君のこと愛してるよ? 私のどこが不満なの?」
「もういいよ」
僕は自暴自棄になっていた。
「お前のせいで僕は付き合ってすぐ別れ話を出すヤバイ奴ってレッテルを貼られたんだ! お前のせいで!」
みゆは一瞬呆気にとられた顔をしていたがすぐに、
「なんだ、ずっとそんなしょうもないこと考えてたんだ」
と言い放ち、僕の方へ優しい笑顔と共に手を広げ近づいてきたかと思えば、僕を抱き寄せ、頭をなでながら、
「よしよし、大丈夫大丈夫、どれだけ君がクラスで孤立しようとも、絶対に私がそばにいるから」
彼女の温もりに身も心も溶かされてしまった僕は全てがどうでもよくなり、緊張の糸が切れ強 烈に眠くなってきた。
「どうしたの?……そっか……眠くなっちゃったんだね。色々あったもんね、疲れたよね、このままゆっくりお休みしちゃおっか」
そのまま僕の意識はまどろみの中に消えていった。
**
朝の光に照らされ、目を覚ますと顔がみゆの太ももの上に乗っていた。
「……おはよう、よく眠ってたね。君の寝顔見てるとこっちまで眠くなって寝ちゃった」
そうみゆがお茶目に笑う。
「……返事をまだ聞いてなかったね……私と付き合ってくれる?」
「もう僕には君しかいないから……」
「……うん、ありがと。君ならそういうと思ってた。クリスマスの日に付き合えるなんてとってもロマンチックじゃない?」
僕は静かにうなずく。
「君もそう思う? やっぱりお似合いだね、私たち。」
「メリークリスマス、私の彼氏君。ずっとずっと大好きだよ。」
end.
ここまで読んで頂きありがとうございます。物語自体初めて書くので、右も左も分からないですが何とか形にして皆さんに届けることが出来ました。最初は普通の純愛を書こうと思いましたが、いつの間にかヤンデレになっていました。まぁこれも一つの純愛のカタチだと僕はそう思ってますので、きっとこれもクリスマスにぴったりの題材ですね。ラストのその後については皆さんのご想像にお任せします、この先を想像しながら別の作品を読むなりしながら、楽しいクリスマスをお過ごしください。
若本ルーミアン