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ほんとうに勇者パーティは必要なのか?

気になって見て頂けた方、目に留めていただきありがとうございます!

俺は勇者として生まれた。


だから魔王を倒しに行く。


それは当たり前のことだ。


魔族は村を襲い、人々を苦しめる。


元凶の魔王を倒せば平和になる。


だから勇者は選ばれ、魔王を倒す。


当たり前のことだ…。



今日は旅立ちの日。


母親に見送られ、町の中央に位置する城に向かい、王と謁見して戦いの準備をする。


薬草を何個か買える程度の支度金と町で売ってる大したことはない剣と盾をもらい、酒場にいきパーティを組む。


勇者は過去にも今でも、俺ひとりで勇者の登場は世界初のことだ。


なのに儀式的に決まっているような流れ、誰も疑問に思うことはない。


勇者として生まれた俺だが、何をもって勇者と決められたのか正直分からない。


確かに剣技や魔法は他の者より得意だが、生まれた瞬間からその才能があるかなんてわからないはずだ。


だが母親も、周りの人たちも俺を勇者として育て、見てきた。だからか自然と俺は勇者と、疑問に思わず育った。


16歳の誕生日に勇者として旅立つことが定めで、それはどうやらこの街の決まりではなく王国全体の決まりのようだった。


そんな大事そうなことなのに、旅立ちで国からもらえる品が薬草数個分のお金だけとは…正直期待外れだ。


しかも王座の横にある宝箱を勝手に開けて持って行けと。


王も国も、それでいいのか。魔族を倒す気が本当にあるのか。

王国が何百年かけても倒せないという魔族を倒す者に、そんな程度の手土産でよいのか。



酒場に入ると旅の剣士やら魔法使いといった、どこから来たのかも分からない人々が座っている。


母親に言われてきたが、旅立ちの日にはパーティを4人で組むことになっている。


なぜかは知らないが、酒場で声をかける決まりで、軍人や騎士といった、もっと適任であろう人たちは対象外とされている。

軍人を誘ったほうがいいだろうに。


俺は言われるがまま育ってきた。


なのにどうしてこんなに今日に限って疑問が沸くのか分からなかったが、それはきっと旅立ちという節目だからなのだろうか。



「すみません、旅のお方ですか」


魔法使いらしい人に声をかける。


「いかにも」


堅物そうだ。態度から初老にも見えたが、意外と若く20代くらいのようだ。


「勇者のパーティに加わって頂けませんか」


「よかろう」


こんな簡単でいいのか。

商人たちはモノを売ったりお店の契約をするとき、侃々諤々の議論を延々と交わしていたはずなのに。

勇者パーティなんて、世界初の出来事でしかも今まで何百年と倒せなかった魔族を討伐する命がけの旅だぞ。


まあ、加わってくれるならそれに越したことはない。

だましているようで、少し気が引けるが。


次に聖職者と思われる若い娘に声をかける。


やはり二つ返事でパーティに参加した。


最後に剣を携えた屈強な男に声をかけ、パーティに誘った。


こうして、勇者の俺と剣士、聖職者、魔法使いの4人パーティができた。


初対面なのに、彼らは勇者を支えることが使命で生まれたかのように、パーティ加入に文句のひとつも言わない。


まるで何か操られているかのようで怖かった。


それでも彼らは人間であるから、笑ったり、怒ったりする。


最初の街で装備を買う時も、剣士は品揃えの悪さに「もっと在庫あるだろ、出してくれよ」と悪態ついてたし、聖職者の子は「あはは、笑えるー」と苦笑いしていたり。


正直、彼らは弱かった。少なくとも、王国に務めている軍人や兵隊よりも弱い。


王国の騎士らは、剣士からジョブチェンジして就いているらしい。つまり剣士は騎士の見習いみたいなポジションだ。


それなら最初から騎士を引き連れて、それも4人なんてケチつけないで大軍で進めばいい。


なぜ、それは許されないのか。


こんなこと、剣士に言うと気を悪くするかと思ったから、言わないでおいたらむしろ剣士のほうから俺に言ってきた。


「正直、勇者さまが俺を選んでくれるとは思わなかった。もっと騎士さまとか強い人間を誘うのだと思ったが」


「それなんだけど、酒場にいるタンク役があなたしか居なかったからだ。気を悪くしないでくれ、君を弱いと言っているわけではなくて…」


「別に構わない。単純な疑問だ。魔王軍を倒すならそっちのほうが手っ取り早いだろうとな。酒場でしか募集できない理由はあるのか?」


「いや、そういう決まりというか、そう言われてきたから。だけどなぜそうなっているのかは俺にも分からない」


剣士に言われて、はっとなる。なぜそうなのか、なぜ酒場で集めることが重要なのか、その目的は何なのか…


魔王を倒す理由は分かる。しかし魔王を倒すための段取りはあまりに非効率的、理不尽ではないか。


「国のやることなんてそんなもんだよ。伝統だとか文化だとか、そういうのに平民は押しつぶされてるのさ」


そう言ったのは聖職者の子だった。14歳から18歳くらい、まだあどけない少女の面影もある聖職者。


その口から出たのは意外な言葉だった。だいぶなんというか、やさぐれている。


「そ、そうですよね…はい…わかりますよ」


相槌を打つのは魔法使い。堅物かと思いきや、意外と引っ込み思案かもしれない。


見た目で判断するのは良くないが、見た目通りなのは剣士くらいな気がする。


いやしかし、俺はなんてことをしてしまったのか。命を預ける大事な仲間を、職業だけで見て決めてしまった。


そう考えると、恐ろしくなった。


近所のお店の商人でも、従業員を募集する際には何度も面接して、親にまで会いに行って素行を確かめたりしていた。財貨を盗まれたりしないように。


俺は財貨ではなく、より取り返しがつかない命をやり取りする仲間を、出会って5秒で決めてしまったのだ。


それに、まだ名前すら聞いてない。


はっとなり、俺はそれぞれに自己紹介を求めることにした。



「ところで、あなた方の名前が知りたい。自己紹介もしてほしい」


募集の段階ですべきだろう、順番が逆だなと思いつつ、いまさらながら提案した。


「良いだろう!そもそも俺も勇者さまの名前を知らないのだ。まず最初に勇者さまから、ぜひ」


と剣士。


「分かった。俺は…勇者、名前は…勇者。王国の都の周辺の村で生まれ、勇者として育てられてきた」


「勇者…って名前なんですか?私てっきり職業名かと…」


「そうだよ?確かに、俺の名前が勇者なの、なんか変な気がするな」


「ま、オンリーワンだし悪くないと思う!やっぱ勇者として期待されてるんじゃないか?」


と剣士。


「次は俺だ、俺は剣士やってるノラだ。鉱山の街で生まれて剣の修行の旅をしている」


「私は王国の聖職者見習いで、リズです。語ることはあまり多くないつまらん一般職だよ」


「僕は魔法使いの…名前は…ケンジ…よろしく」


やはりというか、職業軍人で前線貼ってるようなメンバーはいない。

というか勇者である俺自体がそうだ。


勇者として育てられて訓練は受けてきたが、それも弱いモンスターが出る王国の都の周辺だけの話で、他の地域のことはほとんど知らない。



幸いというか、みんな旅には慣れているようだった。


野宿も余裕で、数日間風呂に入らなくても文句を言う人はいなかったし、とにかくサバイバルスキルはあるようだ。


そんなこんなで彼らと旅をして数日。次の街である港町についた。


ようやく、ベッドで寝られそうだ。


「だが、まだ日は高い。装備を整えたり、情報収集を行おう」


俺の提案で、ひとまず港町を見て回ることにした。


勇者は町長にまず会うことが求められる。そこで港町を見るついでに、町長に挨拶した。


「おや、勇者さま。ようこそいらっしゃいました。早速ですが、この街では毎月同じ日にサイクロプスが現れて困っております。それはちょうど、明日の夜です」


「…私たちに討伐しろと?」


俺が聞くより先にリズがいう。


「そ、そうですが、何か」


「何かじゃなくて、人にもの頼むときはなんかないの?」


「え、勇者は困りごとを解決してくれるのではないですか…」


「解決しないとは言ってないよ。私たちになんかないの?って言ってんの」


「あ、ではお願いしますと」


「そうじゃなくて、コレ、準備必要でしょ?ただでできると思ってるの?」


リズは人差し指と親指で円を作る。カネを要求するポーズだ。


「な、なんと、そうでありましたか、それでしたら、後ろの宝箱のものをお使いいただければ…」


リズが宝箱をグイっとつかんで開けると、中には薬草が5個買える程度の貨幣と、銅の剣が入っていた。


「はあ?」


「いやいやいや、分かりました、サイクロプス討伐、お任せください」


俺はリズを止め、腕を掴んで退散した。


「何止めてんの?安請け合いし過ぎは身を亡ぼすよ?」


「リズ、気持ちはわかるけどこれは勇者の仕事だから」


「ふん、まあ勝手に行動してごめんだけど、勇者って損な役回りよね」


「まあ…でも…サイクロプス討伐の依頼なんて騎士団やら傭兵に頼めば1000ゴールドくらいは余裕で掛かりますよね…」


「でしょ、ケンジもそう思うよね?」


「考えてみればあの王様だって怪しいもんだわ。だって、この港町のほうが交易するにも有利だし都もこっちにすべきじゃん?でも実際に都があるのって、街道から微妙に外れたところで、しかも家だって100軒程度しかないのに、王様はあんな巨大な城に住んでるのよ?どうやって維持してるの?なんか裏がありそう」


「リズ、俺たちは曲りなりにも王様お抱えの勇者さまのパーティメンバーだ。悪口は控えようぜ」


「ノラ、悪口じゃないよ。率直に疑問に思うことを述べただけ」



俺は確かに、と思った。

安請け合いせざるを得ない立場というより、この国のこと、システム

何もかもが非合理的というか、なぜそうなっているのか疑問に思ってきたのだ。


その日、俺たちは宿に泊まり、久しぶりの風呂とベッドを堪能した。


次の日は港の市場で、モンスターから出た素材を売り、それで薬草などを仕入れた。


「ここはモノが豊だな。せっかくだから剣も新しくしたいがカネがない。あの船を1つ借りて外国へ直接いい剣を揃えたいものだ」


「あの船…外国から来てるんですよね…外国ってどんなところなんでしょう。魔法が豊かな国とかあるんでしょうかね…」


外国か、俺は船に乗って外国とやらを見てみたいと思った。


だがよく考えてみたら、この王国以外の国を知らない。


「なあ、この中で外国に行ったことがある人はいる?」


…だれも手が上がらない。


「じゃあ外国について何でもいい、少しでも知ってることがあったら教えてくれ」


やはり誰も具体的なことは知らないという。


「…外国から品物がやってくる。王国と貿易をしている…確か大昔には戦争もあったとか…だけど僕もだけど、誰も名前すらも知らないよね…」


「確かに…ところでケンジ、あなたの名前、あまり見かけないよね。だったらそれが外国の名前なんじゃない?あんがもしかしたら外国人かもよ?」


「リズ、それはないよ。確かに名前はすごく珍しいんだけど、僕の親もそのまた親も、森の街で育ったって聞いてるし。というより森の街自体、出ていく人も入ってくる人もほとんどいないんだけど」


「森の…たしか鉱山の街の次にある街だったか?俺の街の隣だから知ってるぞ」


「次…なんですか次って」


「いや、それは…王国の都から数えてだが…」


「それは分かるよ。だけどなんで次なんだろう。勇者さまのパーティの旅って、めぐるべき街の順番って決まっているのでしょうか?」


「そういえば、決まってないはずだけど、不思議と行先が定められているような気がする。王国の都からここまでの道だって、商人の街への道ががけ崩れで通れず来たから…まるでコントロールされているような…だって、商人の町の周辺のモンスターって、かなり強いらしいって聞くし…俺たちが行く先々でだんだんモンスターの強さが上がっていくよね」


「単純に疑問なんだけどさ…」


「リズはいつも疑問だらけだよな」


「うるさい、何も考えてない剣マニア!」


「まあまあ…二人とも」


「私たちってレベルの高いモンスターに囲まれた街から来てるよね…どうして暮らせてる?」


「街を守る衛兵が強いからだろ。街道はアクティブモンスターいないし、移動はできるではないか」


「剣マニアは脳みそ空っぽなの?よく考えてよ。最後の塔の街の衛兵、相当強いよね?彼らはなんでここのサイクロプス討伐に派遣されないの?この街が相当脅かされてるのに、王国は何をしているの?」


「人員が足りないからでは?」


「塔の街の衛兵は1人でこの辺のモンスターに対して無傷で対応できるくらい強いはずよ?」


「確かに…」


「勇者さまはどう思う?おかしくない?」


「…確かに、おかしい。おかしいよな。少なくとも何かあるのは確かだ。旅を続ければ、分かるのかも」


「そのためには、まず我々が強くならないとなりませんな?勇者どの。早速、剣の素振りをするぜ」


「…今は考えるより、ノラのような頭空っぽのほうが救われるかもしれないわね…」



俺たちは、サイクロプス討伐の準備を進めた。


夜は山から迫ってくる。夕日は海の向こう側へ、何があるか分からないほうへ姿を隠していった。


お読みいただき、本当にありがとうございます!

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