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数字の見えるフットボーラー  〜世界一の選手を目指して〜  作者: シャーロック
第1章 U20ワールド杯カタール大会(95年)編
9/10

⑧U20ワールド杯 inカタール

@ジャシム・ビン・ハマド・スタジアム (対ブラジル戦 ナイトゲーム)

レオン・龍馬・エドワーズ


 スタジアム上空で夕焼けのオレンジと星空輝く夜の闇がコントラストを作り出している中、満員のジャシム・ビン・ハマド・スタジアムのフィールドは決勝戦を観に来た観客たちの熱気が充満していた。


 フットボール発祥の地であり、フィジカルコンタクトを得意とするイングランド。サッカーの国と言われるほど国民的スポーツとしてサッカーが盛んで、ドリブル技術や独創的なスタイルが得意なブラジル。


 U20ワールド杯においてブラジルは過去に3度の優勝を誇る一方、イングランドは3位が最高位。ちなみにフル代表においてもイングランドが優勝したのは過去に1度のみ(自国開催の時)、ブラジルは5度の優勝を誇っている。


『勝って気持ちよくオフシーズンを迎えたいなぁ……』


自陣で試合前の円陣を組もうと集まったところでそんなことを俺がボソッとつぶやくと、


『もうオフシーズンのこと考えてるのかい? うち(イングランド)の司令塔はハートが強くて嬉しいね。ハッハッハ』


俺の横で肩を組むクリステンセン(ST)さんに突っ込まれてしまった。試合に集中してないわけではないんだが……


『ポートの代役ってことで浮足立っているかと思ったがそれなら大丈夫そうだな』


『レオンなら大丈夫だ。最年少だがそのプレーぶりは誰もが認めているからな』


 キャプテンウルク(右CB)さんやガリア(右OMF)さんが俺に声掛けしてくれる。二人は決勝戦で司令塔という大役の俺のことを、ここのところずっと気遣ってくれているのが分かっている。

 

 クリステンセンさんだってからかっているようだが、俺のことを笑わせようとしたりテンションを上げてくれようとしていることを知っている。


 今日はベンチ入りしているポートさんも自分が出場したかったはずなのに、ギリギリまで俺にアドバイスや指針をくれてエールを送ってくれている。


 俺が参加した期間は短かったがこの代表チームは全員が優しく、気持ちよくプレーできるチームだった……。


 必ず勝って先輩達にトロフィーを掲げさせてあげよう。


 全員が円陣を組み終わり、キャプテン・ウルクさんが口を開く。


『さあ時間だ。このメンツでは最後の試合だ。この先、フル代表に呼ばれるかはわからない。呼ばれてもこのメンバーでプレーできるかもわからない。俺たちはこれが決勝戦だから頑張るんじゃない。今日出場しない奴らも含めて、このメンバーのために頑張ろう。勝ってみんなでトロフィーを掲げよう。お前ら、試合開始だ……』


 キャプテンの掛け声で全員が一斉にポジションへ散らばってゆく。


——————

エドゥアルド・ダ・シウバ 視点(18歳・LW・背番号【9】・所属FCバルセロナ・能力「80」)


 試合が始まって40分以上が経過したが、両チーム拮抗した状態で前半を終えようとしている。


 うち(ブラジル)は4-3-3(ボランチ1人の4-1-2-3)のフォーメーションで守備が厚いイングランドに対して攻めの姿勢で挑んでいる。まぁ、肝心の得点が決まらないんでは意味がないが……


『こっちにパースッ!! モレイラさーんッ!! 』


 今日はイングランドの背番号【20】、たしかレオン君って名前だったが……そのレオン君のマーク担当としてモレイラさんは前半忙しそうだ。


『よっとな! 俺だってドリブルで魅せられんだぜぇ』


 モレイラさんからボールをもらうと、ゴールまで30メートルほどの左サイドをジンガ(ブラジル特有ステップ)を織り交ぜながらボールを持って駆け上がる。


 近寄ってくるRB(イングランド)をそのままステップオーバーで交わしてPA(ペナルティエリア)まで辿り着いた。


 そのままエリアへ侵入しようとするが、後ろからさっき抜いたRB(イングランド)が追い縋って俺のユニフォームを軽く引っ張っているな……


 そのまま強引にシュートまでいけないこともない気はするが、引っ張られ相手の脚がかかったタイミングで、俺は逆らわずにフィールドへ倒れ込んだ。


『ピッピーー!! PK(ペナルティキック)!! 』


『そんなぁ! 今のはクリーンだったでしょう!? 』


 巨体のイングランドキャプテン(メッシュ・ウルク)を始めイングランド選手達が審判に対して詰め寄っている。


『大丈夫か、エドゥー。ナイスドリブルだったな』


 俺を助け起こしてくれるのはブラジル代表キャプテンのチアゴ・オリヴェイラさん(ST・所属FCバルセロナ・20歳・能力「81」・背番号[11])だ。


『あざっす。シュートまでいけそうだったすけどねぇ』


『無理することはないさ。お前にケガされても困るしな。どうする、PK蹴るか? 』


『俺が蹴っちゃっていいっすか? 』


『お前いま、大会10得点だよな。得点王狙うなら蹴った方がいいんじゃねぇか? 2位のクリステンセン(イングランドST)が8点だから余裕はあるけどよ』


『じゃ遠慮なくいただくっす。その代わりしっかり決めるんで』


 審判からボールを受け取り、少し時間をかけてセットを確認しながらGK(イングランド)を窺う。


 肩に力が入って気合い入ってそうだなぁ、と思えるくらいには自分がリラックスしていることを確認し、ゆっくり助走距離を取り、独特の細かいステップからボールを蹴り込んだ。


 『『……ウォーー!!!!! 』』


 ジャシム・ビン・ハマド・スタジアムの観衆が一瞬の静寂の後、様々な雄叫びや歓声で空気が揺れるなか、俺は観衆へ向けてゴールパフォーマンスを行いに駆け出していった。


『ナイスゴールだ!! エドゥー!! 』


『ど真ん中に蹴り込む度胸!! さすがだなッ!! 』


『よッ!! うち(ブラジル)の至宝!! 』


 メンバーが次々と俺の後ろから駆け寄って賛辞を掛けてくれる。ゴールを決めたこの瞬間が堪らなく最高だからストライカーはやめられないんだ。


『よし、みんなッ!! 踊るぞ!! 』


 ブラジル人はサンバを代表に音楽やダンスが大好きだ。嬉しいとき、気分が高まる時、踊りたくなるのはもはやブラジル人のDNAに刻まれていると言っても過言ではない。


 『フューー! 最高だなぁ。このまま後半もやっちまおう! 』


『『おぉうッ!! 』』


 こうして最高の気分のまま、俺たちブラジルは前半を終えたのだった。


【前半終了】

イングランド 0-1 ブラジル


・エドゥアルド・ダ・シウバ 1G(ゴール)


——————

レオン・龍馬・エドワーズ


『クソッ。自由にッ! ハァッハァ。動けなくてッ! ハァッハァ。フラストレーション溜まるッ! なぁぁ!! 』


 現在後半20分過ぎた頃。ブラジル代表ロナウド・モレイラ選手の俺への徹底的なマークを振り切れず、俺は前半からフラストレーションが溜まりっぱなしだ。


『ハァッハァ。さすがは能力「80」でレアルマドリーのスタメン選手なだけあるな……』


 なんとかビハインドを覆そうと突破を試みるが、いまのところ準決勝の時のようにはうまくいかない。


 だがこの人(モレイラさん)が俺の運動量にだんだん着いてこれなくなってきている気がする。ここで一気にマークを引き剥がすしかないか……


 ボールを持った俺は1度、左サイトのハモンド(左OMF)さんへパスすると、相手(モレイラさん)の背中側へダッシュ、ワンツーパスでモレイラさんを一気に引き剥がしPA内へ侵入した。


 迫ってくるCB(ブラジル)から距離を取るようにドリブルをしながら、体勢を崩しつつも左脚で角度のない位置から俺はシュートを放つがGKに弾かれてしまった。


『ナイスガッツ! レオンッ!! 』


 弾いた先には俺のシュートを信じてゴール前に走り込んでいたクリステンセンさんがいた。


『ごっつぁんですッ!! 』


『『ウォーー!!!!! 』』


 クリステンセンさんのごっつぁんゴールが決まり、会場が前半のシウバ選手の時と同じように盛り上がりを見せる。


『よくやったレオンッ!!! 』


 気づいたら俺はゴールを決めたクリステンセンに飛びつかれ、そのままゴールパフォーマンスへ。観衆の前で2人で笑顔で手を振って応えたのだった。


 後半も残り20分を残して、イングランド反撃の狼煙が上がった。


 その後、ブラジルのキックオフ後も俺たち(イングランド)はハイプレスで積極的にボール奪取を仕掛けていく。前半はブラジルが攻撃する時間が多かったが、今はその逆の状態だ。あまりラインを下げずにクリステンセンさんや俺も積極的にプレスを掛けまくる。


 疲労が溜まってツラいが、ここが勝負どころだとハモンド(左OMF)さんが相手RB(ブラジル)がセンターサークル付近のCDM(モレイラ)へ出したパスをスライディングでインターセプトに成功したのが見えた。

 

 すぐさま俺はモレイラ(ブラジルCDM)さんの背後から駆け出し、ハモンドさんへパスを要求した。


『ハモンドさんッ!! 』


 立ち上がったハモンドさんがすぐさま俺にパスを出し、並走するように駆け出した。


 俺の前方で、相手(ブラジル)CBの最終ライン付近にいたクリステンセンさんと合わせて3人で攻め上がる。


『ハッハッハァ!! 』


 俺に追い縋ってくるモレイラさんの息遣いが後ろから聞こえる。


 そろそろ運動量が落ちてきていると思ったが、全然引き剥がせねぇ……


 俺はこのままでは追いつかれると判断し、斜め右前方のクリステンセンさんにグラウンダーの鋭いパスを出し、そのままゴール前へ走り込んだ。


『レオンッ!! シュートだッ!! 』


 クリステンセンさんは俺のパスをワンツーパスでそのまま走り込んだ俺へ返してくる。


 左前方からは相手(ブラジル)CB、右後方からはここまで俺に追い縋ってきたモレイラ(ブラジルCDM)さん。


 前後を挟まれた俺は、ゴールに向かって右脚をスライディングするように懸命に伸ばした。


 『届けぇぇぇーーー!!! 』


 トゥーにボールが当たった感触がありボールは俺の差し出した脚の方向へ鋭く飛んでいった。


『……ポスッ……』(ゴールネットの音)


 掠れたような音と共にボールはゴールネット右隅に転がった。


『おっしゃあ!!! 逆転しましたよ!! クリステンセンさんッハモンドさんッ!! 』


 いやぁ、最後は間に合うかヒヤヒヤしたが届いてよかったぁ。けっこうギリギリだったなぁ……


 試合終了間近のゴールということもあってジャシム・ビン・ハマド・スタジアムの観衆の盛り上がりは最高潮を迎えている。


 後ろにいたモレイラさんも最後は横で脚を投げ出していたから、あと何センチか俺が届かなければシュートはモレイラさんに阻止されていたかもしれない……


『最後までよく走り切ったレオンちゃぁーんッ!! 』


『最高のワンツーでしたねクリステンセンさんッ!! ハモンドさんもナイスインターセプトでしたッ!! 』


『ボールを託して正解だったよ。ナイスランッ、レオンッ!! 』


 俺たち3人で今日1番の盛り上がりをみせる観衆へガッツポーズでアピールしていると、後ろからイングランド代表メンバーが全員集まってきて労ってくれた。


 その後、ブラジル代表のモレイラさんが選手交代でベンチに下がると、代わって出てきた選手(ブラジル)は能力が「74」とそこまで高くなく、俺はここまでの80分より楽にプレーできるようになったこともあり、得点に変動はなく、難なく試合は終了を迎えた。


——————

エンリク・クリステンセン 視点(イングランド代表・マンチェスター・U・20歳・背番号[9])


 今は表彰式の真っ只中。あの年中澄まし顔のポートの野郎が満面の笑みで、トロフィーを掲げたレオンをぶっ叩きまくってるのがめちゃくちゃウケるぜ。あとで今日の記念写真の画像でポートをいじらないとな。


 それにしてもレオンはポートの代役(イングランド司令塔)を見事に成し遂げたな。年齢が俺たちより低いことを加味すれば、レオンはいずれ確実に俺やポートより優れた選手になるだろう。まぁ、負けるつもりはないけどな……


 俺やポートは確実にフル代表にステップアップするし、レオンもそうなるだろう。また一緒にプレーするのが楽しみだ。


『それでは個人タイトルの表彰に移ります。イングランドからは、エンリク・クリステンセン選手、レオン・龍馬・エドワーズ選手です。こちらにお集まりください』


『お!俺とレオンか。おーいレオンッ行くぞ!トロフィーはポートに預けとけ〜』


『はーいッ! 今行きますッ! 』


 俺は大会9G(ゴール)シルバーボール(得点2位)トロフィーってことは、レオンは大会MVPか……。まぁ、今日の決勝点や準決勝での魅せるプレーなんかを考えたら今大会で目立った選手の1人だから妥当だろうな。


『優勝おめでとう! いやぁ最後逆転されちゃうとはねぇ』


 俺達に笑顔で話しかけてきたのは大会11G(ゴール)で得点王のブラジル、エドゥアルド・ダ・シウバ選手。


『シウバさんも得点王おめでとうございますッ! 』


『ありがとうレオン君。準決勝と決勝、どっちも痺れるプレーだった。特に君のドリブルが俺は好きだね』


『シウバさんの1点目のジンガも興味深かったです! あの独特なステップはなかなかできない……』


『ハハハッ。あれはブラジル独特っぽいからねぇ。真似する人はいるけど、やっぱり本物は僕らじゃないとね』


 ドリブル談義に花を咲かせていると6G(ゴール)で得点ランク3位のスペイン代表のロドリゲスもやってきた。


『決勝お疲れ様でした。ナイスガッツでしたね』


『ロドリゲスさん! ありがとうございます。けっこうヒヤヒヤしましたけどね』


『これでレオン君は若手注目株ですね。来シーズンはどこでプレーするのやら……』


『おん? レオン君は移籍先探しとるんか? ならスペインリーグにこいやッ! バルサなら技術とパスワークでもっと成長できるぜ』


『いやぁ、まだ決まってないですから……』


『マンチェスター・Uでプレミア優勝を目指すのも面白いぞ』


『クリステンセンさんまで! とにかくまだわかりませんから! オフシーズンにオファーがあれば考えますッ! 』


 こうして俺達3人によるレオン勧誘合戦は表彰式が始まるまでしばらく続いたのだった。


『選手の皆さん、静粛にお願いします……では表彰を始めます。まずは、大会得点王から……』


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


 そんなこんなで表彰式は無事終了した。6月初旬から始まった約1ヶ月の開催だったU20ワールド杯はイングランド代表が初優勝で締めくくられた。


 大会MVPはチーム最年少のレオン・龍馬・エドワーズ。準決勝で魅せたロングドリブルや決勝での逆転弾。


 どれもが同世代のワールドクラスの活躍だった彼は、彼の自己評価以上に周りからの注目度が高まることになった。


 そしてイングランド2部リーグへ陥落した所属先のノッティンガムフォレストは、未来あるレオンをプレミアでプレーさせようと模索しているらしい……


 8月から始まる新シーズン。U20ワールド杯で成長したレオン・龍馬・エドワーズはどのようなキャリアを進んでゆくのか。


 周りの注目、心配をよそに、レオン・龍馬・エドワーズは短い7月のオフシーズンに向けてドーハ国際空港から日本へ飛び立つのだった……



U20ワールド杯編 お読みいただきありがとうございました。

よろしければブックマーク・いいね・評価もよろしくお願い致します。



『数字の見えるフットボーラー(監督編)』もご覧ください。

【https://ncode.syosetu.com/n1103ib/】


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