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29 high school 編入

「新たな校長はこの俺だ。今日からここは俺が仕切ります」

「お父さんが校長をするの? それってどういうことなの?」

 あまりのことにアンヘルは絶句しつつナサナエルを睨みつけていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ジョナは、イワンとミラ、ナナたちとともに族長たちが村々の長老たちが設立したの会堂付属中高等学校に通い始めていた。

 それほど大きくない学び舎は、教会堂と同じクルスの繰り返しで描かれたオベリスクで埋められていた。木造二階建てに合わせて立つ尖塔の頂上に校長室があった。そこから見える広大な校庭の向こうに、さらに谷いっぱいに広がる熱帯雨林が広がっていた。

 イワンやミラ、ナナが入学を希望したのは、友人のジョナが入学を言い出したからだった。ジョナが希望したのは、その学校の教師陣にアンヘルが加わったからだった。ただ、素直に入学が許可されたわけではなかった。反対者の主張で、彼らには特別な編入試験が科されていた。ただ、彼らは試験の全てを無難にこなしていた。


「それでは、成績の良かった4人全員の2学年編入を許可しましょう」

 校長がそう宣言した時だった。

「待て、こいつらをそんなに簡単に入学させたことは、完全な失策だ。本日からここの校長を教頭に降格する。そして、新たに校長を任命したから、そのつもりで」

 校長室に入り込んできたのは、族長のナサナエルだった。驚いた校長は反論した。

「族長、いくらなんでも急すぎますぞ」

「俺が決めた人事だ。文句あるか」

「い、いいえ。わかりました」

 降格された形だったが、目の前に族長が直接来ていたために、皆一様に無理難題を受け入れざるを得なかった。だが、あまりの強引さにアンヘルが我慢できずに大声を上げていた。

「お父さん、急に何なの?」

「これは、教育の上での特別な配慮なのだ。特別な編入の手続きを行なうことも考えた上での処置だ」

 そう言われては、さすがのアンヘルも受け入れることにした。

「それで、新しい校長先生は誰なの?」


・・・・・・・・・・・・・


「それで、新しい校長先生、編入試験の結果、この四人が編入することになっています。文句はないですよね」

 アンヘルが父親を睨みつけながら、念を押していた。

「よし、イワンとミラ、ナナは編入を許す」

「どうしてジョナは許可しないの?」

「ジョナは、アンヘルがここの教師になったから、ここに編入したいだけだ。どうせ、試験の成績もろくなものではないだろうが…・・」

 強引な校長の勝手ないいぶりに、アンヘルが食い下がった。

「そんなことはありません。見てください。この点数を。彼が4人の中でトップですよ」

「それは......、そうだ、お前がえこひいきをしていい点数を付けたんだろう。そうだ、そうに違いない」

「お父さん、それならお父さんが採点してみなさいよ!」

「そ、そうか、それなら俺が採点してやる」


 ナサナエルの採点した結果でもやはりジョナがトップだった。

「やはり、ジョナがトップね」

 アンヘルの笑顔を見て、ナサナエルは苦虫をつぶしていた。

「わかった、4人の仮の編入を許す。だが学年でトップでなければ、正式な編入は許さん」


 こうして学年生活が始まった。そして、間もなく来たのが秋の中間テストだった。

「ジョナがトップ、イワンもミラもそれに続いているわ。ナナも学年平均の上に来ているわ」

「わかった、正式の編入を許そう。だが、今日から俺がこの高等学校の校長になる」

「なんでよ」

「編入した生徒が美人の可愛い新任女性教師に手を出すことを防止するためだ」

「何よ、それ、お父さんが勝手に決めつけているだけでしょ。つまり、ジョナが入学して、教師である私に手を出すことを阻止するため、とか、考えているんでしょ」

「ど、どうしてわかったのだ」

「もう、いい加減にして」

 こうして、校長になったナサナエルだったが、このことがあって以来、アンヘルがナサナエルを校長室から出さなかった。

 

 こうして、ジョナたちの編入は確かなものとなった。ところで、確かに、ジョナが編入を希望したのは、アンヘルがいたためでもあった。だが、ジョナが入学を希望した理由にはもう一つあった。これは、彼がはっきりと意識していたわけではないが、それはジョナがマリアナの民たちに対立して追い出されたヤップの民たちの学びを希望したからだった。


 ヤップの天裂地羅ティアテラ)の会堂では、彼を導いてきた言葉、つまり『あなた達は私が示す地に行きなさい。あなた達の行く手に立ちはだかるものはないであろう。私は、モーセとともに居たようにあなたとともにいる。あなたを見放すことも、見捨てることもない。強く、雄々しくあれ』という言葉を与えてくれた者の臨在を、ジョナは感じたのだった。それは、この村の民たちがジョナの生い立ちの謎と深い何かの関連を持つに違いないという直感に繋がった。そして、この村をはじめとしたヤップに対立したマリアナの民たちは、コントラクター微鬼の下で呪詛学と詛読術とを発展させ、それがコントラクター微鬼と対立者との激烈な戦いをもたらしたことから、ヤップの民たちの教えを知る必要があると感じていたのだった。

 

 ある日の歴史の授業は、ジョナのまさに聞きたいことだった。それは、ヤップの民たちの生い立ちを教える歴史の授業だった。そして、その内容は、マリアナの詛読巫の歴史と重なっていた。

「このヤップを含むマリアナは、かつての帝国の版図にありました。帝国は滅びました。しかし、長白山から東瀛へ逃れた末裔たちは、東瀛の民たちとともに沙流土を建設し、そしてボニンの谷の辺留賀茂を建設し、さらにマリアナの詛読巫(ソドム)(Sodom)と御裳羅(ゴモラ)(Gomorrah)を建設しました。しかし、沙流土は壊滅して今に至り、マリアナの詛読巫や御裳羅(ゴモラ)(Gomorrah)も滅びました。それでも、帝国の国術の神髄である霊剣操、そしてそれに対立する霊刀操が伝わり、今に至っているのです。

 一つには、不特定のたくさんの刃の間で発動される霊剣操の共鳴です。これは、たくさんの刃というものをたくさんの不特定の人間に置き換えて教えが今に伝わっています。それは呪詛と詛読術によって不特定の人間に堕落した快感と共鳴を生じさせる祭礼となりました。この堕落した祭礼が、各都市の滅びの原因となったのは、ヤップの皆さんがよくご存じのことです。このヤップに来た避難民がこれを信奉していました。

 もう一つ、伝わったのが二つの刃、真刀の刃と空刀の刃という二つのペアが司る霊刀操の思想でした。そうです、これはヤップの谷で特定の誓いあった二人の間の結婚という習慣に結実しています。それゆえ、多人数による愛の交換を否定したのです。それが私たちが追放されたきっかけとなったのです。ヤップとマリアナではそれが決定的に異なったのです。

 それでも、二つは互いに対立しながらも、いつか共存することになりました。ヤップの民たちは許す心を覚えましたからでした。だから、今回も避難民たちを受け入れたのです」


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