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15 拒否するジョナ

 砂の刃は、ジョナの目の前で赤黒い龍を大地へと叩き落した。それは、ジョナにとってレビたちに従わされることを意味しかねなかった。

「もうやめてくれよ。沢山だ」

 ジョナは落とされた赤黒い龍の前に立ちはだかって、砂の刃とそれを制御しているに違いないレビたちを睨みつけた。

「龍は僕を守ってくれているんだ。こんなことをしても僕はそちらに行かないから」

 そのジョナの言葉に、レビは色をなした。

「なぜだ。なぜ逃げだすんだ。避けられない道だぞ。いくら逃げたって......」

「いやだ。それでも僕は逃げ続けるつもりだ」

 ジョナは自分に自信がなかったのだろう。勿論、沙流土での経験は、今の人類に警告と悔い改めの機会が必要であることを示していた。しかし、子供にすぎない自分が大人に対して何が言えるのだろうか? その疑問が彼を躊躇させ、使命から逃げ出す動機となっていた。

「僕は、警告なんてやりたくない」

「しかし」

「くどいよ。たとえ、この龍を叩きのめしたところで、僕が従うと思ったの? 冗談じゃない。いやなことは嫌だ」

 ジョナはそういうと、ジョナは龍に声をかけた。

「すまない。僕を守らせたことがこんなことになるなんて」

「ぐるぐるぐる」

 龍は、声を出そうと身じろぎした。だが、ダメージがひどいのか、龍は立ち上がるのが精いっぱいだった。そして、翼を広げると、谷底へと落ちるようにして飛び去ってしまった。残されたジョナは、もう一度レビとナナの方を振り返った。

「僕もあの街へ帰るよ」

「あの街も警告すべき対象だぜ」

 レビは指摘した。それを聞いたジョナは怒りを込めて返事を返した。

「なんだよ、それ。僕に命じたって、僕は嫌だ。ごめんだね」

 彼はそういうと、谷底の街へと駆け下りていった。それを見ながら、レビはため息をついた。それらのシーンをナナは黙って見つめていただけだった。

「彼はまだまだなのかな」

 そういうと、ナナはレビを促して自分たちが設置している臨時ベースへと戻っていった。

「ナナ、それではだめなんだぜ」

「でも、彼は準備ができていないんでしょ? あなただって、僕がいろいろ考えたのに、ダメ出しばかりしていたじゃない。僕も準備ができていないように、彼も準備ができていないんだよ。僕なんかよりよほど謙虚だよ」

「いや、彼も、君も傲慢だ。明らかなことを受け入れない。なぜなんだ。なぜわかろうとしないんだ」

 レビはそういうと、肩を落としてナナの後を追った。


 ジョナは、母親が待つであろう自分の宿舎へ戻っていった。落ちるようにして飛び去った赤黒い龍のことが気になった。龍の気持ちはわからなかったが、少なくともジョナの側に立ってくれたと思いたかった。

 ジョナは自分たちの宿舎に戻った。だが、宿舎の中に母親はいなかった。仕方なく自分の部屋に戻ると先ほどまでの出来事を振り返った。



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 ジョナが飛び出したのは、夜になってから星空の下を龍が哨戒飛行をすることに気づいたからだった。これほど早くから、なぜ哨戒しているのか、不思議だった。だが、それがこの谷あいに何かが近づいていることを意味していると思い当たった時、ジョナは自宅を飛び出していた。以前、何度か上った山裾に登っていった。そのジョナに呼びかける者たちがいた。それが先ほどのレビとナナだった。その呼びかけからジョナをかばうように龍が地に足を下ろしたのだった。

 その後、龍もレビも、無言のまま突然に争いを始めたのだった。龍が雷のような咆哮とともに飛び出すと、それに対抗するように、いつか見た砂の刃が現れた。そして何度か衝突した末に、龍が叩き落された。

 そのあとは、ジョナがレビたちを拒み、それを見届けた龍は傷だらけの体のまま飛び去ったのだった。


 ふと、帰宅する音が聞こえた。母親ナスターシャに違いなかった。疲れ切ったような足取りで、彼女はシャワールームへと向かった様子だった。

「そんなに疲れたのか。仕事が大変なのかな」

 ジョナはそう思いながら、そっとバスルームに入った母親の様子を、ガラス越しに一瞥した。目の前に飛び込んできたのは、いくつもの損傷のある服だった。母親に何があったのか。ナスターシャはカリスマのある指導者のはずだった。彼女にはボディガードもいるはずなのに、ズタズタにされたのだろうか。バスルームの曇りガラス越しに見える母親の姿にも、明らかに傷があった。

 ジョナは見てはいけない姿だと感じて、そのまま自室へと戻った。だが、母親がけがをしてまで何をしたのか、謎だった。


「ジョナ、リビングに来てくれる?」

 疲れた低い母親の声がドア越しに聞こえた。ジョナは驚いてリビングへと走りこんだ。リビングのソファに座った母親はローブ姿であり、傷を負っているようには見えなかった。ただ、非常に疲れた様子であることは明らかだった。

「私は、あなたを守り切る自信があったわ。ただ、私の持つ力も及ばないことがこれからあるかもしれないわね。でも、あなた自身も自分の意志をしっかり持っていることも分かったわ。だから、二人で守り合えればこの先ずっと大丈夫よ」

「何があったの?」

「心配しなくていいわ。ただ疲れただけよ。私は今まであなたを何とか導いてきたでしょ。これからも導いていけるわ。それを忘れないでくれればいいの」

 ジョナは母親がなぜ疲れ切った様子なのか、わかりかねた。母は何かを隠していると思われた。だが、ジョナの周りにはジョナに近づくレビやナナを寄せ付けないための守りがあることだけは、はっきりしていた。今はそれだけで十分だった。

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