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ティボンの街1

そのまま四人で門まで進むと、ヴァルクたちの三人が門番の兵士の前で立ち止まり、一歩遅れてギメルも立ち止まる。


「おう、ヴァルク!ずいぶんでけぇ荷物だな!」

門番らしき男が言う


「おうよアキム、聞いて驚け……こいつの中身はな、ブラッディベアだ!」


「は?……は?」

アキムと呼ばれた門番は、理解が追いつかない様子である。


「こいつの中身は、ブラッディベアだ」

理解が追いつかないアキムを揶揄うようにヴァルクが繰り返す


「あぁ?つまり……お前らがブラッディベアを……?いや、おかしいだろ。ブラッディベアだぞ?正直言ってお目らが勝てる相手じゃない。しかもお前らが門を出たのが朝で、まだ昼だ。そんな近場にブラッディベアが出現するはずがない」

アキムはまるで自分に言い聞かせるかのように早口でそう言う。


「おいおい、それはないだろ?ただでさえ最近魔物が街の近くに出現するようになってて、更にあの光柱だぞ?恐ろしいことだが……光龍が関わっているとしたら、何が起きてもおかしくないぞ」


(あのシャイニングピラー、やっぱり見られてしまっていたのか。このままなら光龍の仕業ってことになりそうだし、不幸中の幸いかな?どちらにしろ、これからはもっと気をつけないと……)


「まあ、お前のもう片方の予測は当たってるがな。残念ながら俺たちじゃブラッディベアには勝てなかったさ」

ガルムがそう言い、大柄な三人の後ろに隠れて見えていなかったギメルを見せる

「紹介するよ、この人が助太刀してくれた旅人のギメルさん。簡単に言うと……魔術師だ」


「なにっ!?これは失礼しました……」アキムが体をギメルに向き直し、かしこまったように言う。


(あれ、これってどう対応したらいいんだ……?魔術師ってだけでここまで畏まられるとは思っていなかった……)


困っているギメルを気遣ってくれたのか、ガルムが小声でフォローする。

「ああ、アキム……彼の様子を見ればわかるだろ?旅人、って言ったじゃないか。何か事情があるんだろうし、困らせないでやってくれ」

「とりあえずギルドに報告しないと。はい、ギルドカードだ」そういってガルムがカードをアキムに差し出す。


「おっと、職務を忘れるところだった。ほい、ほい……確認したよ。通ってよし。えーっと、旅人さんは?」


(え、もしかして……門を通るのに何か必要なのか?そんなの聞いてないぞ!?)

またしても想定していなかった事態に、冷や汗が走る。


しかし、またしてもガルムがフォローを飛ばす。

「おいおい、魔術師に身分証明も何もないだろ?市民権も持ってない奴が魔術なんて使えるはずがない。さっきから慌てすぎだぞ、しっかりしろ」


「あ、あぁ……それもそうだな。引き止めてすまなかった」






四人は門を抜け、街の中に出る。門の先は真っ直ぐ大きな道が正面に続き、その奥には貴族街に続くと思われる二つ目の門が見える。道の脇には露天が並んでおり、様々な食べ物や物品が見やすいように売られており、とても香ばしい匂いが漂ってくる。そして道を行き交う人。馬車。

人々の営みを十年ぶりに目の当たりにしたギメルは言葉を失った。


(うわぁ……)

(なんて美しいんだろう。父さんに話としては聞いていたけど想像以上だ……)


「……い」

「おい、聞いてるのか?ギメル」


名前を呼ばれて初めて、ギメルは自分がヴァルクに呼ばれていたことに気づく


「は、はいっ、なんでしょう?」


「はぁ……まあいい。俺らはギルドに行くからここで一旦お別れだ。宿屋はあっちの方に固まってるから行けば一つくらいは見つかるだろう。じゃあ」


「ありがとうございます。ではまた一週間後に」

(親切な人たちだったなぁ……改めて、助けてよかった。さて、宿屋を探さなきゃ……ところで、ヴァルクたちは簡単に言ってたけど、そもそも宿屋ってどうやって探すんだ?)


ギメルはとりあえずヴァルクの言った方向に進むことにしたが、彼は気づかなかった。ガルムが先ほどから義メルを注意深く見つめていたことを……








ギメルが道を進むと、中央の道と違い、曲がりくねった道が現れる。道行く人も町民と言うより、旅人や冒険者のような風貌の者が増えてきて、方向が正しかったことがギメルにもわかった。


「へいお兄さん!うちに泊まって行きなよ!宿を探してるんだろ?」

宿屋の客引きと思われる女性に声をかけられる。


「は、はい……とりあえず一週間ほど泊まろうと思ってます。なんで僕が宿を探してるってわかったんですか?」


「そりゃあ、旅人の装いをした見たこともない顔がキョロキョロしながらここら辺を歩いてたら誰だった気づくに決まってるだろ?うちは一泊二食付きで銀貨1枚だよ!他より質が高いからね!」


そこに別の客引きと思われる男が割り込んでくる

「おいおい、一泊に銀貨1枚もとるボッタクリ宿になんか泊まるなよ!俺のところにしておけ。こっちは同じ条件で銅貨8枚だ!」


二人が言い争い始め、更に他の者が入り込んでくる。

「テメェの宿はぼろすぎて銅貨8枚の価値もねぇよ!こっちはここらで一番新しくて綺麗な上に一泊銅貨9枚だ!」


「あんたのとこは食事ナシだろ?完全にボッタクリじゃないか!」


「なんだと!?」


…………………。

ギメルの前で口喧嘩を始める三人に、ギメルは途方に暮れる。

(これが街の普通……?銅貨1、2枚でこんなに争うものなのか……?)

育ての親が貴族だったため、ギメルは金銭感覚が平民基準ではなかった。


そこで、ギメルは少し離れたところから少女が自分を見つめていることに気づいた。

なんだろう、と思って近づくと、遠慮がちに少女が言う


「お兄さん、宿を探してるの?」


「そうだけど、なぜか喧嘩が始まっちゃって困ってるんだ」とギメルが正直にいう


「あ、あの……うちに泊まってくれない?お母さんが調子悪くて、食べ物も出せないんだけど、それでいいなら……」


ギメルは、少女がとても困っているのを感じた。恐らく、経営に困り、子供を客引きに出さなければいけないほど働き手が足りなくなっているのだろう。ギメルは、かつての自分と少女を重ねて見てしまった。

(困っている人がいたら、助けてあげたい。)

それは、ギメルが研究所から出て初めて見つけた、「やりたいこと」だった。


「じゃあ、君のところにするよ。案内してくれるかな?」


「いいの……?ありがとう!」少女は顔を輝かせてそう言った。






少女の案内してくれた宿は、道を少しーーいや、かなりーー進んだところにあるらしい。

歩きながら少女が楽しそうに教えてくれる。

「あそこの店の料理は安くて美味しいって、お客さんが言ってた。お母さんの方がおいしいけど、今は無理だから……」

「あ、この店は旅で使う道具とかが売ってるから、旅人さんも行ってみるといいかも」

「こっちの店は野菜とか売ってるとこで、時々分けてくれるの」


ギメルは「へー」とか「ふーん」などと相槌を打ちながら進む。



(結構前から働いてるのかな)

「もしかして、お母さんの病気って長いの?」


「あ……うん。半年くらい前から。ちょっと前までは働いてたんだけど、今はもう立つのすら辛いらしくて……」

今度は一転して辛そうな表情になって少女が言う。

そこから着くまでは、少女は黙ってしまった。


(父さんがくれた本の薬草で直してあげられないだろうか……)

ギメルは何も考えずに、助けられるなら無償でーーそもそもお金を取るという発想すら出ずーー助ける気でいた。


そうして、宿に着くのであった。


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