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初めまして、人間

目の前に男が倒れている。

彼の名はイージス。禁忌である人体改造に手を出し、その実験で二人の人間を殺した。

彼がやって来た事は世間的に見れば許される事じゃないだろう。


彼が与えてくれた知識はそれを裏付けている。


しかし、僕は彼を尊敬する。


彼は僕を救ってくれた。


僕に全てを与えてくれた。


五歳の時に親に捨てられ、ただ、無気力に死を待っていた僕とは違う。


彼は諦めなかった。自身の境遇に対して最後まで抗った。


そして彼は、僕の父親だ。


僕は父の亡骸を施設の裏に埋め、簡易的な墓を作った。


【至高の魔術師イージス ここに眠る】


目を閉じ、墓の前で父さんの遺言を思い出す。




『すまない、ギメル。老いぼれた儂の体では、改造には耐えられないじゃろう。置いて逝く事を許して欲しい。』


『ああ……そうじゃな、そうじゃ。十分じゃ。

真竜の討伐に、そなたという最高の息子。儂は十分幸せじゃ。じゃがな……』


『儂は初めて魔術を目にした時から、進む事をやめんかった……。そして今も、儂は止まれないで居る』


『頼みがある、ギメル。儂が死んだら、ここを出て、普通の人間として暮らして欲しい。これは我儘な儂の、保護者としての最期の願いじゃ』


『もし儂が生き延びたら……儂は研究を辞めよう。老後の楽しみは色々考えていたんじゃが……世界を回る旅なんかも面白いかもしれんのぉ……ふぉっふぉっふぉっ』


『ギメル、さよならじゃ。そなたが思うままに生きなさい。そなたにはその力がある……』





(万一の事を考えると施設は破壊しておいた方が良い……か。)


そう考えて僕は施設を眺める。


十年間過ごしてきた場所だ。


目を瞑って、自身の中にある龍の魔力を感じる。


それを一点に集め、施設の中心まで飛ばし、解放する。


「【シャイニングピラー】」


それは光の柱という現象として現れ、地を抉り、空を貫いた。


雲に穴が空く。


改めて自身が化け物である事を実感し、思う。


(最後だから最高威力の魔術を使っちゃったけど、完全にやり過ぎた……)


ここが人類の生息圏の外側、通称「魔界」であると言っても、冒険者がこの光で調査しに来てしまうかもしれない。


(さようなら、父さん)


僕は最後にお墓に手を合わせてから、十年ぶりに人の住む街に歩き出した。






施設は、サラデイル王国の最北端の街ティボンと、龍が住むと言われている山脈を隔てた場所にあった。


その龍はイージスによって討伐され、ギメルと同化しているので実際にはもう居ないのだが。


ところで、ギメルは龍と同化した事によって、色々な事が出来るようになっている。


その一例が、魔力を噴出する事による飛行だ。


(うーん、街の近くまでは飛んで行こうと思ったけど、雲より上だと結構寒いな……)


因みに普通の人間なら凍死するレベルである


(仕方ない、見つかるのは怖いけど、山は越えたし高度を下げるか……)


雲を抜け、下に広がる大森林が見えて来る。


(方向は……山脈との位置的に合ってる……かな……?)


彼は地図を頭の中に叩き込んでいるのだが、まあ久しぶりの外出なので自信が無いのは仕方ないだろう。


その時だった。


(ん?獣の咆哮が聞こえたような)


風を切る音に混じって聞こえる音をギメルの優秀な耳は拾った。


(いや、森林で獣の咆哮が聞こえるのは何もおかしくない、おかしくない筈なんだけど……なんだこの違和感)


彼は高度を下げて聞こてくる場所を探す


すると、森の開けたところ三人の冒険者らしき集団と大きな獣が交戦しているのが見つかった


(あれは……ブラッディベア!?こんな街の近くでは普通出ないぞ……)


ブラッディベアは通常の熊の二倍程度の大きさで、鉄をも切り裂く爪と、鉄程度では切り裂けない毛皮を持つ非常に厄介な魔獣だ。


視界に、赤い物が入る。どうやら冒険者が負傷したらしい。


彼は思わず近くに寄り、地面に降りた。


(助けるべきだろうか?しかし、あまり力を見せて危険視されるのは不味い……)


なんせ禁忌の力である。バレてしまえば国や教会から狙われるのは想像に容易い。


「クソッ、なんでこんな所にB級の魔物が出るんだよ!」

三人の中でリーダーらしき斧使いが言う。


「最悪だ……」

槍使いがも同意したように、やはりブラッディベアは珍しいようだ。


交戦している冒険者らしき者達の声を聞き、ギメルは決意する


(いや……僕が普通の人間である為には助けるべきだ)


腰の剣を抜き、走り出す。


「大丈夫ですか!?今助けます!」


「なんだこのガキッ」


「早く逃げろ!死にてぇのか!」


どうやら、彼の見た目が幼いため、森を彷徨く子供だと思われたらしい。


ギメルは改造をされてから外見の変化が緩やかになったため、十二歳くらいに見えるのだ。


「ガ、ガキとは何ですか!これでも成人してるんですからね!」


彼は気にしていたようだ。


「と、とりあえず【ライトブレード】!」


「うおっ!?魔術師か!頼もし……」


ギメルの剣が光を帯び、驚いた斧使いの男が言い終わらない内にブラッディベアの腕が切り落とされる。


「グォオオオオオオオオ」


「一発で切り落とすだと!?」


(初撃で倒すのは不味いと思って腕にしたけど、やはり怪しまれるか……彼らを少し危険な目に合わせてしまうが仕方ない)


「すみません!とっておきを外しましたッ」


「ああクソッ、次はいつ使える!それまで耐えるぞ!」


「無理をすれば一分で行けます!合図するのでそしたら離脱して下さい!」


「おお!命懸けであの魔術師を守れば行けるぞ!」


「うぉぉおおおおおお」


ブラッディベアは冒険者には目も向けず、憎き魔術師を倒そうと走り出すが、剣使いがブラッディベアの足に切り込み、切る事は出来ないものの転ばせる事に成功する


「今だ!目を狙え!」


「うぉぉおおおおおお」


槍使いがブラッディベアの目を目がけて槍を突き出す。


「グォオオオオオオオオ!!」


「ぐッ」


しかし、刺すことには成功したものの、残った腕で吹き飛ばされ、近くの木にぶつかって崩れ落ちる。


「ガルム!!」


「倒れた奴は気にするなッ!俺達は死んでもアイツから魔術師を守るんだッ!!」


「クソッ、うぉぉおおおおおお」


(不味い……一分は長すぎたか?幸い吹き飛ばされた彼はまだ生きているようだが……)


ブラッディベアが眼から槍を抜き、吼える


「グォオオオオオオオオ!!!!!」


腕を切られ、目を潰されたブラッディベアは大変お怒りのようだ。


「これでも喰らいやがれ!!」


なんと、斧使いがこの隙に木に切り込みを入れて置いたらしく、思い切り蹴ってブラッディベアの方に倒す。


「グォオオオオオ!」


幅1メートル、高さ20メートルはあろうかという木の大質量は流石に効いたらしい。


……そして。


「準備出来ましたッ!【ライトブレード】オオオオオ!!」


その剣は倒れた木の下敷きになっているブラッディベアの首を精確に捉え、戦いは幕を閉じた。


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