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このように彼女の両親とはすっかり打ち解けている。

 

「起きてください」


 聞き覚えのある声がする。

 俺は確か……。


「兄さん、起きてください」

「……ん?」

「もうすぐ金石(かないわ)ですよ」

「……ああ」


 空席が目立つバスの車内。

 外から太陽の光が差し込んでいる。


 バスの二人掛けの席で窓にもたれかかって寝ていた俺を、真後ろに座っていた鷺宮が起こしてくれたみたいだ。


「もう、しっかりしてくださいね」


 金石(かないわ)とは俺たちが下りるバス停である。


(このバス停は終点だから別に起こしてくれなくていいんだけどな。どうせ車掌に起こされるし)


 まどろみながら、停車したバスから降りると、外の冷気を肌に感じて一瞬で目が覚めた。


 バス停から家まで10分少々歩かなければならない。


 沈みかけの太陽の方へ、とぼとぼと歩いて帰る。

 当然同じ場所に帰るので鷺宮も後ろに付いてくる。

 しかし特に何かしゃべるわけではない。

 ただ黙って付いてくるだけ。


(なーんか、違和感あるんだよなあ……)


 鷺宮本人の外面的変化とかではない。もっと別の何か。

 なんとなくいつもと違うというか落ち着かない。


 信号に引っかかって足が止まる。

 必然的に横に鷺宮が並んだ。


 大きな瞳と端正な横顔。華奢な身体に合っていない少し大きめのコート、そしてそのコートの下のから僅かに見える学校指定のチェックのスカート。


 その時、違和感の正体に気付いた。


「──どうして今日、学校で話しかけてきたんだ?」

「急にどうしたんですか?」


「いや……俺らって家の中以外で話したことってない、よな?」


 違和感の正体は制服姿の鷺宮だった。


 記憶の限り、学校では一度も会話したことがない。

 今日の昼休み──あれが初めての会話だったと思う。


「……ふふっ、やっと気づきましたね?」


 いたずらっぽく蠱惑的に鷺宮は笑う。


 鷺宮はどうか分からないが、少なくとも俺は周囲にはいとこ同士であるということは言ってない。兄弟ならまだしもいとこ程度ならわざわざ隠すことでもないが言うほどのことではないこの微妙な立ち位置。絶妙と言っても差し支えないな。


 それに、一緒に住んでいることがばれたら全男子生徒から殺されかねないので、学校やバス停でも関わらないようにしている。

 できることなら鷺宮も周囲に漏らしていないと願いたいところ。


「どうしてなんだ?」

「気になりますか?」


 ふいに鷺宮がこちらの顔を覗き込んできたので、とっさに目をそらしてしまう。


 ……何故か負けた気分だ。適当に話題を変えるか。


「やっぱいいわ。……そういえば俺のマフラーどこにあった?」

「──っ!?」


 鷺宮の肩が跳ねる。


「昨日確かに俺の部屋に置いたはずなんだけど今日の朝なかったんだよなあ……」

「き、昨日お母さんが洗濯してたんですよ……」

「あーなるほどそういうことか。うーん……柔軟剤変えたか? 香りがいつもと──」

「ごめんなさい! 先に帰ります!」


 と、俺が身につけていたマフラーをひったくって走り去っていく。


「え? 寒いんだけど……」


 夕日に照らされたせいか、ちらっと見えた頬は真っ赤に染まっていた。



 ◇



 鷺宮凛の母親──鷺宮(めぐみ)と父親──鷺宮雄示(ゆうじ)とはかなり打ち解けている。


 夕食後、鷺宮凛が風呂に入っているすきにリビングでいつもの定時報告が始まる。


「凛空、今日も凛は学校でしっかりやっていたかい?」

「おじさん、もちろんっすよ」

「そうかそれは良かった。うちの子に手を出す輩がいるかもしれないからね」

「……」


 二宮先生といい、おじさんといい、俺はなぜ周囲の人間の動向を報告しなければならないのだろうか?


 しかし、一方は担任の先生、もう一方は住まわせてもらっている家の主人。どちらも無下にできない。

 まあ、おじさんはまだいい。親としてあんな娘を持ったらそれは心配にでもなるだろう。

 しかし二宮先生に至っては少々愛が行き過ぎている。さすがにこれ以上は控えてもらいたい。


「しかし困ったな……」

「どしたんすか?」

「明日から僕はしばらく出張で家を空けるんだよ。つまりこのミーティングができない」

「そうなんですか。残念っすね!」


 よし! しばらくこれから解放される!


「というわけで、はいこれ」


 紙切れを渡される。

 そこに書かれたのは11桁の数字……。


「これ僕の電話番号。毎日この時間に電話でミーティングを行うからよろしく。おっと、仕事の電話だ、じゃあ今日の会議は終了だね」


 おじさんが席を外す。


 おじさんの電話番号を手に入れた!

 おじさんに連絡を取れるようになりました!

 おじさんの好感度が──


「やめろぉぉ! そのルートは止めてくれぇぇ!」

「どうしたの凛空、そんなに叫んで」


 不安げに鷺宮の母がこちらを見ている。おじさんとすれ違いでリビングに入ってきたようだ。


「聞いてくださいよおばさん、おじさんが出張中毎日、娘の動向を報告しろって言うんすよ!?」

「……今なんて言ったかしら?」

「だから! おじさんが出張中──」

「その前。」

「え? 確か……聞いてください──」

「その後。」

「……あ。」

「幻聴かしら、私のことをおばさんって言ったように聞こえたのよね」


 おばさ──お姉さんがにっこり笑いながら俺に視線を浴びせる。

 しかし全く目が笑っていない。


「……(ガタガタガタガタ)」


 体中が震えだして冷や汗が噴き出す。


「私、凛を生んだのは23で、今は39なのよ……これっておばさんかしら?」

「いえ! まだまだ現役です!」


 光の速さで即答する。

 鷺宮凛はこの人に似たんだなと誰が見てもわかるぐらい、鷺宮母は美人だ。しっかり化粧をすればおそらく20代半ばにも見えるはず。

 しかしどんな名選手においても、寄る年波には勝てぬというもの。つまり何が言いたいかというと(以下略)


「そうよね。いやいいのよ。おそらく聞き間違いだったと思うから。それで?」

「いえ、めぐさんのお手を煩わせることは何も。」


 鷺宮母の下の名前は(めぐみ)。そこからめぐさんと呼ばせていただいている。

 機嫌を損ねたエマージェンシーの際には、めぐ姉様、と呼べばvery goodというデータが長年の研究成果として提示されている。


「めぐ姉様、肩が凝っていませんか。不肖、この私めが肩凝りに効くマッサージなるものをやらせていただきたく……」

「あら、ありがたいわね。お願いしようかしら」


 素早くめぐさんの後ろに回り全集中でマッサージを行う。


「お加減はいかがでしょうか?」

「ちょうどいいわね」

「それは何よりです」

「ただ、一ついいかしら?」

「何でしょうか? 何でもお申し付けください!」

「一つ簡単な質問に答えてほしいのよ」

「何でしょう?」


 と、めぐさんは肩に置いていた俺の手をぐっと掴む。

 そして俺に向き直り、微笑を浮かべて──


「どうして私が肩を凝っていると思ったのか知りたいのよね」

「──っ!?」


 大失態を演じてしまったことに今さら気付いたが後の祭り。

 年相応、という言葉を口にしなかっただけましだっただろう。


「この時期の野宿は冷えるでしょうね……」

「そう、ですね……」



 このように、鷺宮父と鷺宮母とはすっかり打ち解けている。



不定期更新のノリと勢いだけの本作を、


『面白くね?』

『つーか続きまだ?』

『応援しとくか……』


という方はぜひブクマと評価をしていただけると嬉しい……っ!

励みになります……まじで!

嬉しくなって更新が早まるレベル。


ひとつよしなに!

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