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第一印象が大事だと理解した今はきっと第387印象くらいなのでもう取り返せない。


 二宮先生から逃げるように学校を出てバス停に向かう。



 普段であれば学校前のバス停は部活に所属していない生徒でごった返すのだが、先生に呼び出されていたので上手く時間をずらすごとができた。ほとんど人がいない。


(これは僥倖というべきか……ん、あれは……)


 バス停にはシックな黒いコートに身を包んだ鷺宮が立っていた。

 さっきまでは雪が大振りだったのか、彼女の肩は雪で白く染まっている。まるで()()()()()()()()()()()()()()


 鷺宮がなぜこんな中途半端な時間にいるのかは分からないが、距離を明けてバスを待つ。



 地方の路線バスあるあるの一つ、時刻表とは全然違う時刻にバスが到着する、という都会育ちはびっくりな状況に慌てずバスに乗り込む。いつから時刻表通りに運行すると錯覚していた?



 俺が住んでいる家には一本では帰れず、バスを乗り換えないと帰れない。

 いつものように途中の小さなベンチ一つしかない無人のバス停に降りる。


 このバス停に降りる他の生徒はほぼいない。自分の住んでいる地域の生徒が少ないこともあるが、わざわざこのバス停で降りなくともしばらくバスに乗っていれば街の中心のバス停に着くのでそこで乗り換える生徒が多い。大型商業施設があるので俺も用件があるときはそこで乗り換える。


 わざわざここで乗り換えるのは絶対にバスの座席に座れるからだ。俺はどこでも寝られるので基本バスの中で寝ながら家路につく。立ちっぱなしで帰るのは苦痛だ。


 バス停に降りて一息つくと、吐いた息が白く染まる。暖房の効いた車内から外に出たのでより一層寒い。

 ベンチに小さく縮こまって座って寒さをしのごうとしているその時。


 バスから鷺宮も降りてきたのが見えた。


「……」

「……」


 ベンチに座る俺と目の前に立つ鷺宮。

 気が付けば雪は止んで、雲間から日光が差し込んでいた。


 束の間の静寂の後、


 ブーー!


 バスの閉扉を告げるブザーが二人の静寂を破るように鳴り響いた。

 そして轟音と共にバスは二人を残して去っていく。



「……」

「……」


 鷺宮は何も言わず俺の隣に座る。そして──


「今日、マフラー忘れていったでしょう」

「……あ、そっか、ごめん」

「もう。しっかりしてくださいね──兄さん」



 ◇



 俺──山市凛空と鷺宮凛は同じ家に住んでいる。しかし血がつながっていない義理の兄弟という二宮垂涎の関係ではなく、ただのいとこである。ちなみに実の妹はちゃんと存在しているのでご安心を。


 多少の血のつながりがあるのなら、鷺宮凛の容姿を形成するDNAがあるはずなのでもう少し整った顔に生まれたかった、と思わなくはないこともないとも言い切れない。つまりめっちゃ思う。


 同じ家に住んでいるのは今年の春からである。別に俺の親が死去して鷺宮家に引き取ってもらったとかそういう悲劇の主人公っぽい背景があるわけもなく、ただ単に自分たちの海外出張に際して、息子の生活を不安に思った俺の両親が鷺宮家に面倒をお願いしたというだけだ。

 ちなみに妹はそのまま親と共に海外へ旅立っていった。俺とは違って幼少期からインターナショナルスクールに通っていたので海外でも余裕とのこと。優秀過ぎて言葉を失ったとは当時の本人談。


 鷺宮凛とは幼い頃から親戚同志の集まりで何となく見たことある程度の間柄で、両親曰く、俺が幼いころは一緒に遊んだことがあるらしいが、さすがに昔すぎて全く覚えてない。

 そのため、鷺宮家に厄介になるまで鷺宮凛とろくな会話もした記憶がなかったので、最初はどう接していいか分からずとても気まずかった。


 しかしそれは鷺宮凛も同じだったと思う。急遽見知らぬ男と一緒に住めと言われたら誰だって戸惑うだろう。俺だってごめんだ。

 初めてこの家に来た時、借りてきた猫並みに大人しくしている俺を見かねて、


「何てお呼びすればいいですか?」


 と、優しい笑顔で尋ねてくれた。


 今なら質問の意図ははっきり分かるんだけどなあ……。

 当時の俺をぶん殴りたい。


 確かにいとこ同士で苗字で呼ぶのはちょっとおかしい。しかし急に下の名前というのも助走が立ち幅跳びというもの。


 つまり鷺宮にとってこの問いかけは、互いの相手の確認を取ってから下の名前を呼び合うというコミュニケーションのつもりだったと思う。


 しかし、他人の家庭に土足に上がり込むほど顔の皮が厚くなかった当時の山市少年はえげつないくらい緊張していた。


「べ、べ別になんでも! お前でもてめえでもゴミでも下僕でもお兄ちゃんでもなんでも!」


 口に手を当てて少し驚いた様子を見せた後、鷺宮はくすっと笑うと、


「じゃあ、お兄ちゃん、に決まりですね」


 と、はにかんだ。


「いやちょっと待って! さすがにお兄ちゃんは……」

「そんな、お兄ちゃんがそう言えって言ったのに?」


 と、なんやかんやあり、結局は兄さんで落ち着いた。

 もちろん弁明しておくが、とっさにお兄ちゃんという言葉が出てきたのは妹がいたからであって、断じてあの妹バカに影響されたわけではない! 絶対! 俺は妹より姉の方が好きだ!(混乱)

 まともな選択肢が一つしかない問題を相手に与えた時点でおそらく、俺はとんでもないヤバイ奴認定されたかもしれない。無理やり相手にお兄ちゃんと呼ばせる……二宮並みの妹バカだと思われていたら最悪だ。


 最初の会話でやらかしたこともあり、今年の春に住み始めてもう12月だが、今でも多少の気まずさがある。

 しかし、別段仲良くなる必要もないという自明のことに最近気づいた。

 最低限生活できるほどにはコミュニケーションが取れているのでこのままで問題ない、そう思うようになってからはだいぶ楽になった。


 ちなみに俺が携帯を持っていないのは買う機会は完全に失ってしまったからだ。両親がいる間に契約諸々済ませておけばよかったのだが、忙しそうだったので後回しにした結果、気付いた時にはもう両親は海外にいた。

 当然あんなにも高い料金を学生が毎月払えるわけもない。ただ、その支払いを親戚とはいえ居候先の保護者に頼むのはなかなかハードルが高い。

 それに、ノートPCを中学生の頃に買ってもらったので意外に困らない。家の中にWi-Fiが飛んでいるので基本何とかなる。


 しかし大問題が一つある。

 それはクラスの情報が全然俺に回ってこないことだ。

 係や委員会の情報伝達とか、打ち上げの日程決めとか、誰が誕生日とか、時間割やテスト範囲の確認とか蚊帳の外。悲しすぎる……。

 別にPCでLINEはできるのだが、4月に


「俺携帯持ってねえんだわ。よろしくな!」


 と言ったインパクトが少々強かったようで、クラスのグループに誘われなかった……。

 結果として同じ高校でLINEのやり取りをしているのは二宮だけ。


 今さら、「グループ入れてくんね?」とか、恥ずかしくて言えないのが思春期男子。

 12月の今となっては、多分みんな俺がグループにいないことを忘れている可能性すらある。


 ねえ、誰か気付いて……一人いないよ……。



不定期更新のノリと勢いだけの本作を、


『面白くね?』

『つーか続きまだ?』

『応援しとくか……』


という方はぜひブクマと評価をしていただけると嬉しい……っ!

励みになります……まじで!

嬉しくなって更新が早まるレベル。


ひとつよしなに!

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