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二宮陸の受難1

 ──とある放課後。


 今日の放課後は委員会の集まりがあるので、部活は休むと伝えてある。

 集まる場所は確か理科室とかだった気がする。


「鷺宮、今日の委員会の場所って理科室だっけ?」


 着席してプリント類をまとめていた鷺宮に話しかける。

 同じ委員会に所属する鷺宮ならもちろん知っているだろう。


 鷺宮に話しかけると、彼女は少し目を見開いた。


「ふふっ、間違ってますよ。今日の集まりは特別棟の3階の講義室です」


 危ないところだった。

 委員会とかの集まりって遅れていくと結構入りづらいからな。

 上級生とかいるからなおさらだ。


「おっけー助かった。じゃあ先に──」

「せっかくですから一緒に行きましょう」

「え、いや、でもプリントの整理が──」

「行きましょう」

「……はい」


 そういえば、学校で俺から鷺宮に話しかけるのは初めてだったかもしれない。


 ささっとプリントをファイルに入れた鷺宮は席を立つ。

 俺たちは廊下に出て、特別棟の講義室に向かって歩き出す。


 相変わらず廊下は寒い。

 まだ12月の初めとはいえ、この寒さ。

 地球温暖化の影響で年々雪の量は減っているが、かつて雪国と謳われた金沢はいまだに健在だ。


 この時期の外の部活は大変だろうなあ……。


「そういえば弓道部はどんな感じ?」

「そうですね……」


 と、鷺宮はこちらを見上げて、


「突然誰かさんが何も言わずに退部したせいで、色々大変ですね」

「わ、悪かったって。色々理由があったんだよ」

「泣いている部員もいたぐらいですよ」

「えっまじで!? 俺って意外に人望が──」

「部室が広くなったって」

「嬉し泣きかよ」


 まあ二宮に俺と鷺宮の関係を口止めするには退部するしかなかったからな。

 あいつが暴露していたら、おそらく俺は今頃、リアルに全男子からタコ殴りにされていると思う……。


「そういう兄さんはカードゲーム部で楽しい日々を送っているようですが」


 鷺宮が細目でこちらを睨んでくる。


 ああ……なんかS級美少女からそういう視線を頂くと、俺の情操教育上、非常によろしくない。アブノーマルな何かに目覚めそう。


 っていうかまたもや、ナチュラルに兄さんって言ってるんですが。

 まあ、周りに人がいないからいいか。


「まあまだ何もしてないけどな。でも退屈はしなさそう。ほっとけないからな」


 二宮と更科は、目を離した隙に何かとんでもないことをやらかしそうで怖い。

 二宮は言わずもがなだが、更科もなかなかの地雷臭がする。


 それに、二宮先生から監視するように命じられている。拒否権は我が手中にない。


「ふーん、そんなにあの更科さんっていう子がいいんですか? 確かにつんとしてる私なんかより可愛いですよね」


 鷺宮さんのジト目が強まる。


「いやそんなことは一言も言ってないよな?」


 今日の鷺宮はやたらと絡んでくるな。

 何かあったのだろうか?


「そうですね、更科さんは一つ年上ですし、兄さんは()()()()みたいな子が好きですからね」

「いやそれは二宮だろ」


 珍しい。

 鷺宮が冗談を言うなんて。

 やはり今日はどこか様子が──ん?


 ……鷺宮が固まっている。


「……兄さん、今なんと?」

「いやだから、年下が好きなのは二宮で」

「え、嘘……だって兄さんの好みは……」


 鷺宮が呆然と呟く。


「俺の好み? 強いて言えば年上に甘えてみたい──」


 って何言ってんだよ俺。

 いとこに自分の好みをカミングアウトしてどうすんだよ……

 これ相当やばいんじゃ──


「兄さん。」

「は、はい……」

「急用を思い出したので今日の委員会の集まりはお任せします。」

「……は?」

「それでは。」

「え、ちょっと、え? どゆこと?」


 鷺宮は足早に去っていった。



 ◇



 コンコン、とノックして、私は初めてその部屋の扉を開いた。


「もう委員会終わ──鷺宮?」


 二宮君が怪訝な顔をしてこちらを睨む。

 彼はこたつの上でノートPCを開いている。


 都合のいいことに、更科さんはいないようだ。


「山市なら委員会で今日は……というか鷺宮も委員会では?」

「そうなんですけど、ちょっと至急確認したいことがありまして。私もこたつに入ってもよろしいですか?」

「あ、ああ。構わないが……」


 靴を脱いで二宮君の向かいに座る。


「それで、至急確認したいこと、というのは一体……?」


 恐る恐る言葉を口にする二宮君。


「山市君──兄さんのことなのですが、二宮君は私と兄さんの関係は聞いているんですよね」

「まあ、いとこ同士で一緒に住んでいると聞いたが」

「それなら話が早いです」

「はあ、そうか……」

「単刀直入にお聞きしますが、兄さんはどういった女性が好みなんでしょうか?」


 兄さんの好みは一番付き合いが長い二宮君に聞くのが最も確度が高い情報が得られる。


 私が知る限り、兄さんの好みは()()()()()()()()()()()()()()()()()()、のはずだから。



 ◇



 あれは、泉入学が決まった春休みに、家族で山市家にお邪魔した日のこと。


 当の本人である兄さんは二宮君の家に遊びに行っていたけど、兄さんがこちらの家に住むという話を親同士が相談するのが目的だったので、兄さんがいなくても差し支えはなかった。


 せっかく兄さんに会えると思って残念がっていた私は親同士の会話に混ざるわけにもいかず、適当に兄さんの部屋で時間を潰していた。それはそれで()()()非常に最高の時間ではあったけど。


 そこで、色々な可愛い女の子のステッカーが貼られたノートPCを見つけた。どうやら兄さんの私物のようで、幸いにも(不運にも)パスワードが設定されていなかったので、私はPCを開くだけでその中身を見ることができた。


 そこには可愛い女の子とイケナイことをする、18禁と呼ばれるゲームのプレイ画面が映し出されていた。


『お兄ちゃん……ねえ、しよ?』


 というボイスが一瞬大音量で流れたので、私は大慌てで音量を最小にした。


 この手の耐性がほとんどなかった私はすぐに画面を閉じた。でも、


(これはもしかして──好みを知れるかも……?)


 と思い直して、再び画面を開いてそのゲームをプレイすることにした。


 たくさんの女の子が登場するゲームと向かい合って数時間かけて分かったのは、兄さんが一番やり込んでいるヒロインが主人公の義理の妹の女の子ということだった。


 その子は偶然にも凛の旧字体である凜という名前で、長くて艶やかな黒髪で、妹だけど少し大人びた口調で主人公に接するキャラだった。


(これが好みかあ……私と同じ名前だし、どことなく似てる……?)


 幸いにも他のキャラとは違い、割と現実的な見た目をしていて、私との相違点は少し大人びた口調くらいだった。(二次元特有の非現実的な胸部は除く)


 そのPCのインターネットの検索履歴も、妹関連で埋め尽くされていたので、兄さんが妹のような対象に好意を抱きやすい、ということは明らかだった。


 その日以降、私は意識的か無意識なのかは定かではないが、凜の影響を受けて私は大人びた言動をするようになった。たまに自分のことを凛と呼ぶ癖もなくなり、


「そういえば、中学を卒業してから凛は急に大人っぽくなったね。今のお淑やかな凛もいいけど、子供の頃の無垢で可憐な凛も良いよなあ……」


 と、お父さんに言われるまでになった。




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