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ご存じの通り、舞台は金沢です。

 

 ひとまず落ち着いた俺たちは部室中央にあるデスクに腰を掛けた。


「とりあえず入部したはいいけど、カードゲーム部って何をするんだ? カードゲーム自体に惹かれて入部したわけじゃないから正直かなり不安なんだが」


 カードゲームと言われてもそもそもトランプとかメジャーなものしか知らない。そして正直カードゲームは運要素が強くて好みじゃない。

 それよりも俺はプレフォーやスウィッチなどのハードで遊ぶゲームが好きだ。

 特にスマヴラが一番好きなんだよなあ……。オンライン対戦で強者と戦えるのがマジで最高。しかもキャラごとに違った立ち回りで別々のレートがあるから楽しみが無限大。時間が溶ける溶ける。まじで沼。


「うーん、実は私もそんなに詳しいわけじゃないんだよね」

「「え?」」


 俺と二宮が綺麗にユニゾンする。


「私がこの部に入ったのは、中学の頃から仲良しの一つ上の先輩がいたのがきっかけだったの。だから私もそんなにカードゲーム詳しくないの」


 そうだったのか。

 更科とカードゲームのつながりがピンと来なかったけどようやく腑に落ちた。


「ふう……よかったあ……」

「どうした二宮?」

「いや、オレたちが最初、この部室に来たとき焦っただろ? カードゲーム部なのに一人しかいないって」

「あー! そういえばそうだったな」


 その後のインパクトが強すぎてすっかり忘れていた。


「オレはてっきり、妹が一人何役も兼ねて一人寂しくババ抜きとかポーカーとかやってるんじゃないかと……」

「それは闇が深すぎるだろ。……さすがにそれはないよな、さらし──な?」


 更科は気まずそうに俯いている。


「……」

「……」

「……」


 え、なにこの地獄みたいな空気。


(おい二宮!? お前地雷踏み抜いてどうすんだよ?)

(まさかこんな時間差で地雷が埋まってるとはお前も思わなかっただろ!?)


「ぜ、全然っ! 大丈夫だから! 暇だったからやってみたら面白いかなって試しにやってみただけだから! それにやってみたら結構楽しかったし──」

「やめろ妹よ! それ以上傷口を広げるなくていい!」

「……」


 俺、入る部活間違えたかもなあ。


「と、とにかく! 私たちの活動内容は別に無理してカードゲームをしなくちゃいけないってことはないから。楽しいことなら何でもやろうよ!」

「ふむ……それはつまり何をやってもいいってことだな?」

「んなわけねえだろ」

「まあまあ、怒られない限りは何でもやろうよ」


 相変わらずぶっ飛んでいる二宮に呆れていると、更科が思い出したかのように、


「あれ? ちょっと待って。今何時?」


 そう言えばこの部屋には時計がない。俺は腕時計があるから問題ないが。

 えっと、今の時刻は──


「4時半だな」

「え、嘘!? やばいよ! 急がないと!」


 更科は急に立ち上がると部室を飛び出していく。


「よし、俺たちもついてくか!」

「いいだろう! これがオレたちの記念すべき初めての部活動だな!!」



 ◇



「はあ、はあ……えっと、ここで、いい?」

「はいはいあんやとね。やっぱり若い子は力があるさかい楽やわいね」

「はあ、はあ、はい、どうもっす」


 全身の筋力を使い果たした……。


「おお、二宮、そっちは、終わったか。はあ……」

「ああ、なんとか、な、はあ……」

「二人ともお疲れ様!」



 ……記念すべき最初の活動はただの肉体労働だった。

 更科についていくと、そこにはおばちゃんこと佐藤先生が職員室で待っていた。


「あらま、男手があるなら、ちょっこし頼んどこ」


 と言って、普段あまり生徒が立ち入らない特別棟の小さな一室に連れていかれた。


「ここにあるもの、職員玄関まで全部運んでくれるかいね」

「……え?」


 そして、訳も分からず言われるがままそこにあった机やら椅子やらを全部運ばされる羽目になった。

 そして現在、職員玄関で疲れ果てて座り込んでいるというわけだ。


「これ、一体何だったんだよ?」

「そうだぞ、こんな肉体労働するなんてオレは聞いてないぞ」


 更科に尋ねる。


「二人が入部する前に、佐藤先生にちょっとしたお手伝いを頼まれてて──」

「全然ちょっとしてねえよ」

「階段の往復が地獄だったんだが」

「さらちゃんだけじゃなくて、あんたたちがおったさかい、いいがいねえ。いじっかしいことばっか言っとると単位あたらんぞ」

「おばちゃん、だらなこと言うとんなま……」


 おっと、おばちゃんの金沢弁につられてしまった。

 フッ、方言がきついと何を言っているか分からないだろう?

 ちなみにこの暗号文が分からない金沢育ちの人は皆無。


「気になっていることがあるんだが、更科とおばちゃんの繋がりって何かあるのか? 1組の国語って現文も古典もおばちゃんじゃないだろう?」


 二宮が更科に問う。よくそんなこと把握してるな。


「佐藤先生は去年の担任の先生だったから。留学のことで何回も相談してたから仲良しなの!」


 なるほど、去年の担任ということか。


「さらちゃんは優しい子やしねえ。何でも頼みたくなるわあ。こないだの放送もあんやとねえ」

「えへへ、どうもですー」


 ここでも更科の持ち前の天真爛漫なキャラクターが発揮されているんだな──


「はあっ!? ちょ、ちょちょ待ってくれ!! おいまじか!?」


 二宮は突然叫び出す。


「……昨日の昼、部活連の連絡してたのって」

「え? 私だよ? 時々佐藤先生が忙しい時は私がやってるんだよね」

「い、いいぃぃいい泉ちゃん!?」


 ああ、なるほど。言われてみれば確かに面影あるな。

 あの癒しボイスの主は更科だったのか。


「その、泉ちゃんって何?」


 更科が不思議そうに聞く。


「……」

「えっと、二宮君? 聞いてる?」

「……」


 二宮は完全に思考停止している。

 まさか自分の推しがこんな近くにいるとは思わなかったのだろう。


 まあ推しならもっと早く気づけって話だけどな。


「更科、とりあえず二宮はこのまま放っておいて大丈夫だ。じきにこっちの世界に帰ってくるから」

「そ、そうなの?」

「あらあ、それは困ったねえ。もう一つ運んでほしいものがあるんやけどねえ」


 まだあったのかよ……。

 このおばちゃん俺たちを便利屋か何かと勘違いしてるんじゃないだろうな?


「といっても、あんたらにあげるもんなんやけど」

「私、たちに……?」


 俺と更科は互いに顔を見合わせた。


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