最強の仕草。
ああ、周りも全員ヤバい奴だからしっかりカモフラできてるわ。
やっぱ頭いい奴って大概頭おかしいんだよな。
「あ! そうだ、忘れてた」
更科はカバンから1枚の紙を取り出した。
「これ、山市君に渡してなかったね」
更科から受け取った用紙には部活動入部申請書と書かれていた。
「この入部届を私か顧問の二宮先生に出せば、晴れてカードゲーム部の部員です!」
更科が嬉しそうに言う。
「オレはもう書いて出したからな。副部長の座はもうすでにオレのものだ」
「別にいらねえよ」
これを出したらいよいよ入部か……。
「……」
「おい、どうした?」
「いや、思ったんだが──俺別に入る必要なくね?」
俺はあくまで二宮の部活動設立のために半ば強制的にここまで付き合ったが、二宮が既存の部に入るとなると俺は用済みということになる。
肝心のカードゲーム自体もそこまで興味はない。どうしても運要素が強いゲームは好きじゃないんだよなあ……。
そして、同じ部活に入るとなると二宮先生からの情報開示の要求がもうそれは止まらないだろう。それは流石にきつい。
俺と二宮は互いの顔を見合わせる。
「……確かにな。むしろオレたち兄妹の甘い空間にお前は邪魔だ。とっとと失せろ」
「急に辛辣だなおい。まあそれなら俺は弓道部に戻るだけだから別に──」
「ええっ!? どういうこと!?」
更科が大きな声を上げる。それにつられて周囲の視線が一斉に集まる。
「いや、その、説明が難しいんだが……」
部室で入部希望者を一人寂しく待つ日々を送っていた更科。
そんな中、彼女の部室を訪れた期待の入部希望者。
しかし一人は冷やかしだった……。
そんな心が痛む思いをさせるわけにはいかない。
「せっかく部活見学に来たのに、入らないの?」
「……」
何と言えばいいんだ……?
何とかこの場を切り抜けなければ!
「えっと、俺はそもそも別の部活に……」
「ええっ!? じゃあ部室に来たのは……遊びだったってこと?」
「いや遊びとかじゃないよ!? 言い方おかしいよな!?」
物凄い悲し気な顔をする更科。
……気のせいだろうか。
いたずらに周囲の生徒たちの注目集めている気がするんだよなあ。
男子生徒からは羨望と嫉妬が入り乱れた視線、そして女子生徒からはシンプルな軽蔑が俺の両肩にのしかかっている感覚がある。
気付いてくれ更科! 俺らの後ろの生徒めっちゃこっち見てるから! 誤解招くようなこと頼むから言わないでくれ!
「でも、本気じゃ、なかったんだよね……。ごめん、ね、無理、させて……うう……」
「待て待て一旦落ち着け!! こんな所で泣くなよ!」
『おい、どういうことだ?』
『痴話喧嘩みたいよ』
『男が別れを切り出したっぽい』
『本気じゃなくて遊びとかなんとか……』
『え? 何それ。サイテーじゃん』
『クズだな』
ああ頼む! 早くバス来てくれよ!?
(おい二宮、頼む! お前から何とかフォローしてくれ!)
(……仕方ない。お前には妹ボイスの大恩があるからな!)
(後腐れなく、良好な関係を維持したまま自然消滅みたいな感じで頼む!)
(それ結構むずいな!? まあオレに任せておけ!)
二宮は俺に目配せをすると、
「更科、山市はオレの付き添いで来ただけなんだ。無理を言ってついてきてもらっただけなんだよ」
「な、なんだ、そうだったの……」
二宮は更科に優しく語りかける。
おお! 結構いいフォローだ!
「でも、せっかく来たんだから……入部してみない? ね?」
こちらに向き直って、フードの奥から上目遣いでためらいがちに聞く更科。
あまりの超絶可愛さに、
『……(ごくりっ)』
『おっふ……』
『天使だ……』
後ろの男どもが魅了されてしまっている。
かくいう俺もかなり危なかった。もう少しで一生入部宣言をしてしまうところだった……。
鷺宮と二宮先生のおかげでこの手の耐性がついたのかもしれ──
「二人より、三人の方が楽しいと思うし……だめ?」
「──っ!?」
女の子の最強仕草ランキング堂々の第1位(俺調べ)である
──男の服の袖を引っ張る
という最強ムーブが俺の精神が直撃した。
ああ……そんな反則技を見せつけられたら……もう──
「駄目だ!!」
何とか俺は理性をフルに呼び覚まして入部を断る──ことはできずに思いっきり頷きかけてたところに二宮が割って入ってくれた。
(二宮! 今のはまじで助か──)
「オレたち兄妹だけでゆっくりと愛を営むのにこいつはいらないだろ!?」
あ、これフォローとかじゃなくて本心だな。
と、遥か遠方にバスのシルエットが見える。
あと数十秒でバスが着くだろう。
よし、ここはいつもの二宮の暴走に身を任せておけばそのまま話は流れるだろう。
大してこちらの印象を下げずに自然消滅という目下の目標を達成することができ──
「それにこいつは黒髪清楚な女子しか受け付けない歪んだ人間なんだ! だから金髪の更科から誘いを渋ってるんだよ!」
二宮は更科のフードを下げる。綺麗な金色の髪が日光に反射する。
「え、ええ!? そんな理由なの!?」
「違う違う!! んなわけねえだろ!?」
突然何を言う出すんだこいつは!?
「更科、山市はお前を傷つけまいと必死に否定してるだけなんだ。本当はお前のことなんてその辺の虫けら以下としか思っていないんだ。それでもお前のためを思って……くぅ、泣けてくるっ!」
「ひどい……この髪、ママ譲りの地毛なのに……うぅ……」
瞬く間に更科の瞳がうるうると潤んでいくのがはっきり分かる。
「いや待て待て! そんなあり得ない話に耳を傾けるなよ!?」
「山市、お前はもう元の部活に戻ってもいいんだ。オレたちに気を遣わなくていいんだぞ……ほら、お前の部活、何だったっけ?」
……唐突になんだ?
質問の意図が全く読めないぞ!?
「え、いや……弓道部。」
「うわーん!! 黒髪清楚だぁああ!!」
更科はダムが決壊したかのように泣きだした。
「ほら、オレの胸で泣きな」
二宮は更科に胸を貸す。
「てめえ最初からそれ狙いだっただろ!?」
「さて、何のことだ?」
絶対嘘だ。こいつの顔が緩み切っている。
ちくしょう! こいつの誘導尋問に引っかかった自分が情けない!
つーか更科も偏見だけどな!?
『おい、あいつ更科さんを泣かせたぞ!?』
『金髪が無理なんだと』
『容姿を理由にフるって最低だな』
『女の敵ね』
俺の周り、敵しかいねえ……!
リアルで四面楚歌って初めてなんだが!?
──そして。
二宮の腕にしがみつきながら、更科がぼそっと放ったとんでもない一言が俺の運命を決定づけた。
「うぅ……私、全然遊んでないのに……ちゃんとまだなのに──」
「分かったとりあえず黙ろうか!? 入るから! 俺カードゲーム部入るからぁあああ!!!」
カードゲーム部入部が決定した瞬間だった。
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