携帯のセキュリティは厳重に。
あ、ごめん二宮。これバットエンドルート確定しそう。
「せ、先生、とりあえず一旦落ち着きましょう! ここは穏便に大人の対応というものを……」
「大人の対応?」
二宮愛海はゆっくりと小首をかしげる。その仕草だけは普通に可愛いのが実に反則的。
「そっかあ。なるほど……」
ぶつぶつと何やら呟いている。
この人が弟に関することで暴走しないわけがねえんだよなあ……
すまん二宮。後で骨だけは拾っといてやるから。
今までありがとう。楽しかったぞ。
と、心の中で悪友に別れを告げていると、
「確かに山市君の言う通りかも。私もいつまでもこのままじゃ、りっくんに迷惑かけちゃうよね。じゃあ、あたしはこれで」
「!?」
やけに明るい声で二宮愛海はすたすたと職員室の方へ戻っていく。
(何もしない……だと!?)
今までなら抱き合う弟を見た瞬間、我を忘れて部室に乗り込んでいたはず……。
もしかして……先生はたった今……ついにブラコンを卒業したのか!?
俺は今まで二宮愛海という人間を誤解していたのかもしれない。
彼女のことを、先生という皮を被ったただのブラコンヤンデレ重症患者だと思っていた。
弟のためなら何でもやりかねない要注意人物だと。
しかし、実際は違ったのだ!
二宮愛海はちゃんと先生だったのだ。
弟といえど一人の生徒として扱う優秀な教師だったのだ。
彼女は確かにブラコンを卒業したんだ! なんて素晴らしい日なんだ!
「そうだ、ちょっと手伝ってほしいことがあるからついてきてくれる?」
「はい! 任せてくださいよ!」
俺は先生の後を追って並んで歩く。
「どうしたの? やけに嬉しそうじゃない?」
「いや、なんか先生の成長を感じて生徒ながら色々と思うところがありまして……」
「えー、なにそれ? もしかしてあたしが部室に乗り込むと思ってた?」
「その通りですよ。心臓止まるかと思いましたよ」
「あはは、あたしはそんなにお子様じゃないよー。あたし、教師だよ?」
「先生もやっと良識ある大人になれたんですね……」
やばい。先生の成長を感じてなんか泣きそう……。
さすがにここで泣くのはみっともない。話を変えなければ。
「ところで、手伝いって何ですか?」
「ああ、そのことね。手伝いって言っても簡単なことで、ちょっと証言してもらうだけでいいの」
「証言、ですか?」
一体何の話だろうか?
「そう、更科さんがりっくんを襲ってたという証言。」
「……は?」
二宮愛海はいたって真面目に語る。
「名前だけ貸してくれればいいよ? 後はこっちで色々やっておくから」
「え、いやいや……何を言って──」
「りっくんに色目を使う子はちゃんとお仕置きしないと駄目でしょ?」
何故そんな自明のことを聞くのかと言わんばかりに不思議そうな表情をする先生。
く、狂ってやがる……。
口調が元に戻らないのは何故かと思っていたがそういうことかよ!?
「いや、い、一旦落ち着きましょう。それにそんなでっち上げ誰も信じるわけ……」
「いや、そんなことないよ? さっき、りっくんの携帯で写真撮ってたよね?」
と、先生は自分の携帯の画面を見せる。
そこには先ほどの俺が撮ったはずの抱き合う二人が写っていた……。
え? もしかして二宮のスマホ……いや、これ以上考えるのはよそう。この先が怖すぎる。
「山市君という証人も加われば間違いなしだよ? それに更科さん本人が否定しても一介の生徒と教師のどちらの言うことに信ぴょう性があるかは明白だよ?」
「……」
「ありがとう。これで害虫を万に一つの言い逃れもできないように完璧に仕留めることができるよね! 大人の対応ってこういうことだよね? 山市君のおかげだね!」
澄み切った可憐で眩しい笑顔の二宮愛海を見て俺は、色んな意味で彼女の成長を感じて色んな意味で涙が出た。
そして、スマホを買った暁にはセキュリティに細心の注意を払うべきという教訓を学ばせていただいた。
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