快活金髪碧眼ポニテ美人女子。
冷静になって考えてみるとこの部室は他の部室と異なる点が多い。まず、明らかに広すぎる。
部室棟にある部室は小さな空き教室を利用しているのがほとんどなので、部室とは名ばかりの教室とほとんど変わらず、どこの部室も似たり寄ったりの光景のはずなのだが……。
まず、俺たちが座っている物からして通常の部室のそれではない。
俺たちは少し古びているがふかふかなソファに座っている。
普通の教室にある机といすは見当たらず、中央には大きなデスクが置かれていて、腕の置き場があり高さが調節できるキャスター付きの椅子まで置いてある。
公立高校の部室にしては明らかに分不相応だ。
文化部の部費がいくらなのかはさすがに分からないが、それで賄えるような設備ではない。
さらによく見れば部屋の端には様々な用途不明の段ボールが積み立てられている。
そして一番の違和感は、部室にカードゲームの類が全く見当たらないという点で──
と、二宮のせいでとんでもない空気と化したカードゲーム部室で一人、黙々と思考を進めているとついに彼女の自己紹介が始まった。
「私は二人と同じ1年の更科さら。よろしく! 趣味はえっと、楽しいこと全般! かな!」
「よろしくです。結構活発なんですね」
「同学年だからタメ口で話さない?」
「そう……だな。よろしく」
「よろしく!」
眩しい笑顔が似合う元気な子だ。
金髪というだけでどこか近寄りがたいものを感じたが、少し話してみるだけで心理的距離は近くなった気がする。いい流れだ。
「あ、あの、おいくつですか?」
いい流れを跡形もなく断ち切るような質問が隣のやつから繰り出された。
(お前まだテンパってんのかよ!? 今聞くことじゃねえだろ!?)
(違うぞ山市、彼女をよく見ろ!!)
(は、え……どゆこと?)
更科をよく見てみる。
キャスター付きの椅子を俺たちの前にスライドさせて座る、快活金髪碧眼ポニテ美人同級生。
日本人にはないサファイアのような瞳はとても美しいのだが、楽しそうにころころと表情が変わる彼女は綺麗な大人っぽい女子、というよりは無邪気な幼子という印象だ。
裏表が全くなくて何をやってもつい許してしまいそうな、そんな子供特有の愛くるしさを感じるが……。
と、着目したところで特に新たな情報はない。
(駄目だ。俺は何にも分からねえぞ……。強いて言えばこのソファ結構沈むから高さ的に下着が見えそうなことぐらい──)
(それはオレも思ってた)
(即答かよ)
(だがそこじゃない)
(何!?)
「あはは……やっぱ気になるよね。17歳だよ」
更科は困ったように笑いながら言う。
「え!? 17!? ってことは一つ学年上じゃ……?」
彼女の足元を見る。
学校指定の内履きの色は一年の緑色とは異なり、二年を示す赤色だった。
(おい、この人赤色だぞ!?)
(お前! そんな堂々と!? 性欲が凄まじいな……)
(そっちじゃねえよ!? つーかこの人年上じゃん! お前もっと早く教えてくれよ!)
(すまない! オレの妹センサーにも反応が無かったから、妹対象の範囲外である年上であることは即座に分かったんだが……申し訳ない! 日頃の研鑽が甘かった!)
(妹対象とは一体)
(というか、この状況やばくないか? 更科は妹のふりをして近づいてきたんだぞ!? 絶対やばいって!)
(お前の頭もやばいって)
しかし、二宮の言うことは一理ある。相手の目的は分からない。
(とりあえずこの部活入るのは一旦止めとく……か?)
(ふむ……触らぬ神にたたりなし──いや、触らぬ姉にフラグなし、ということか。お前もなかなかやるじゃないか!)
(俺何も言ってねえよ)
「じゃ、じゃあ、俺たち今日はこの辺で──」
と、立ち上がろうとする俺たちの肩を更科はぐっと押さえつける。
そして引きつった笑顔で、
「ま、まあまあ! ちょっと待ってよ! もう少しお喋りしていこうよ!」
「い、いや、俺たちこの後予定が……」
「ち、近づくなっ! 妹の皮を被った姉ごときが!」
「お前は黙ってろ」
無理やり押さえつけてくるなんて向こうも切羽詰まった状況なのか!?
もうこの女は正気じゃない。危険だ!
無理やり更科を押しのけて部室のドアを開ける。
「失礼しましたっ!」
「そんな!? 私をまた一人にしないでよ!?」
急いで部室から出てドアを閉める。
更科は涙声になっているが、今はこの場を去ることが最優先。
強行突破したせいか、気が抜けて座り込む。
「ふう、危ねえ……」
「最後あいつ半泣きだったんじゃないか?」
悪いことをしたような気分になって心が痛いが、更科も錯乱状態と表現しても差し支えないくらいには色々おかしかった。
「うぅ……ひっぐ……ひっぐ……」
廊下まで更科のしゃくりあげる声が聞こえてくる。
……心が痛む。
「……とりあえず後日謝りに行かね?」
「そ、そうだな」
立ち上がってその場を離れようとする。
「えぐっ……た、たすけてよう、お、お兄ちゃ──」
「泣きたいならオレの胸を貸すぜ?」
俺の隣にいたはずの二宮の姿は忽然と消えていた。
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