闇を抱えし少女。
「先生、いい加減なんの部活か教えてくださいよ」
「実際に部室に行ってみた方がいいと思ってな」
俺たちを引き留めた後、先生はその部活の部長に許可を取るために一旦職員室を離れ、5分後に戻ってきた。
現在、何の情報も与えられず旧校舎の文化部部室棟に連行されている。
「二宮は何の部活か知ってんのか?」
「いやオレも知らない。オレはかわいい後輩さえいればいいのだが」
「いや俺らが後輩だからな?」
そもそも12月という時期に部員を募集している部活があるだろうか?
文化部の部室棟の時点で運動部の線は消えているが……。
「何か緊張してきたな……」
「だな……とりあえず美人で健気な金髪の妹が出迎えてくれるイメトレしとく」
「健気な金髪とかいうパワーワード」
いきなり部室に押しかけるというのは心理的ハードルが高いんだよなあ。怖い先輩がいませんように。できれば優しくて癒しを与えてくれるような美人の先輩がいいなあ。
「そう硬くなる必要もない。部員は1年生だけだ」
「「え!?」」
(そんな部活があったか……?)
互いに顔を見合わせる。
「着いたぞ」
先導していた先生が足を止める。
文化棟の突き当り。そこには
カードゲーム部
と書かれた札があった。
先生がコンコンとノックする。
「私だ。入部希望の生徒を連れてきた」
がちゃ、とドアノブを回す。
ゴクリと息を飲む。そして俺たちはついに部室に足を踏み入れる。すると──
「ようこそ、カードゲーム部へ!」
美人で健気な金髪の碧眼美少女が、聞き心地のいい甘く透き通った声と眩しい笑顔で出迎えてくれた。
本来であれば喜ぶべきことだったに違いない。
横目に一瞬テンションが爆上がりした二宮の顔が見えた。
かくいう俺も、金髪と制服という矛盾した組み合わせに対して、何か心にときめくものを感じた。
しかし、その部室には彼女一人以外誰もいなかった。カードゲーム部なのに。
◇
「じゃあまずは学生同士、親睦を深めておいてくれ」
気を遣ってか、二宮先生は部室に入らずに足早に去っていった。
「「……」」
二宮と目配せする。
(おい山市、はっきりさせておかないといけないことがある。分かってるな?)
(ああもちろんだ。ここは俺がいく!)
同じ境遇に立たされた者同士による阿吽の呼吸で会話を行う。
「えっと、自己紹介の前に一つ質問が」
「何? 何でも聞いて!」
陽気で快活なポニテ金髪女子が笑顔で返してくれる。
「今日は他の部員の方は……?」
「他の部員なんていないよ? 部員は私一人」
「……」
(聞いたか二宮!?……やばい、やばいって!! この人絶対やばいって!!)
(活発そうな金髪生徒が放課後一人でカードゲーム……闇が深いな。過去にトラウマを抱えた妹ヒロインといったところか。フラグを立てるべきか……? オレ好みのシチュではないが悪くは……)
こっちも存外やばかった。
(つーかお前イメトレしてたんなら間を埋めてくれよ! でも絶対地雷は踏むなよ!?)
(よし、とりあえず様子見に徹するぞ!)
(了解!)
何が埋まっているのか分からないこの状況で迂闊な行動はできない。
この地雷原で慎重な立ち回りが俺たちには要求されている。
「あ、そうだ! せっかく来てもらったんだからお茶でも出さないと。ほら、立ってないで座ってよ!」
と、俺たちはソファへ案内される。
そして彼女は電気ケトルのスイッチを入れた。
「……」
「……」
「……」
電気ケトルがお湯を沸かす音だけが部室に響く。
(だからお前間を埋めろよ!?)
(無理だ……中途半端にイメージ通りでなんかテンパってて……)
(イメトレの意味)
思わぬイメトレの副作用が二宮を苦しめることになるとは……。
(しょうがない。ここは俺が流れを作る! 俺に合わせろ!)
(了解!)
「と、とりあえず自己紹介しましょう! 僕は1年の山市凛空です。趣味はゲームですかね。子供の頃からゲーム好きなんですよ」
「へえ、そうなんだ!」
「オ、オレは二宮陸。しゅ、趣味はえっと、あの、い、い妹! 妹です! 16歳です!」
「あ、あはは……面白い冗談だね」
彼女の顔が引きつっている。
(流れぶった切ってどうすんだよ!? 俺に合わせろっつったろ!?)
(フォローしてくれ! 頼む!)
(こんなのフォローできねえよ!? ……まあ何とかやってみるから今度こそ俺に合わせろよ!?)
(任せておけ!)
二宮の肩に手を置く。そしておどけて明るい口調にチェンジする、
「ちょっとこいつ緊張してるみたいで。趣味は……」
──何と言うべきか?
妹という単語が出ても不自然じゃないような趣味は?
初対面の人にも引かれなくて、変態的なニュアンスも含まれないような表現は──
「──妹をあやすのが趣味みたいなんですよ」
よし、これならどうだ?
リアル妹とは言ってないし嘘ではない。我ながら完璧なフォロー!
(さあ、俺に合わせろ二宮!)
「そ、そうです。しゅ、趣味は妹を……あ、あやめることです!」
電気ケトルのカチッという音が部室に響いた。
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