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学徒旅行記  作者: 亀山三河
悪夢
8/13

第一章8 B2F その腕を■■■いて

初めてに書いておきます。

この話は「正体現したね。」という感じの話であり、今までの話とは若干趣向が違います。(これも計画のうちでしたが)

それを理解したうえでご一読ください。


 水戸駅で乗り換えて、いわき駅に向かう。そこまでは予定通りだった。想定外のことといえば、途中から夏芽が口を利いてくれなくなったということくらいだ。その予定通りという状態に溶かされた僕は、車窓から入り込む夏の日差しも相まってか、いつのまにか、うとうとと眠ってしまっていた。――そこまでは、なぜだか覚えている。そして今、夢の中で教室にいる。

 いつもであれば、自分が眠っていることはおろか、夢を見ていることすらも認識することができない。しかしどうしてか今は、自分が眠くなってしまった経緯と夢を見ているという事実を認識することができているのだ。これほど不思議なことはないだろう。


――なんだか、気分が悪い。全身麻酔から醒めた後の、まだ身体中に管がつながっているときのようだ。吐気。頭痛。そんな生易しいものじゃない。――それは、人間は死ぬときにこんな痛みを経験するのかと、本気で思ってしまうくらいのものだ。



「俊二君。」そう僕を呼ぶ夏芽の声がする。そこには男の腕が落ちていた。

「俊二君…私。」聞きたくない。そう思い耳をふさぐ。しかし。

「俊二君…私、痴漢されたの。」その直後、僕の前に男が現れた。ガリガリとやせ細り、背は低く、醜悪な顔面の。きっと僕以上に誰にも相手にされなかったであろう、そんな男が。その男には、あるはずの腕がなかった。――いいや、腕はあった。ただそれは、原形をとどめないくらいに平べったくなっていた。そしてその腕についているのは間違いなく僕の足跡だ。

「まだ腕が残っているとはね、驚きだよ。もう二度と何にも触れることができないように、君の腕は引き裂いたはずなのに。」そう僕の口が自然と動いた。そして僕の手にはナイフ。僕の腕は男の腕へと降りかかり、男の平べったい腕は切り離された。僕の足はそれを踏みつけた。ぐちょ、ぐちょという音が教室中に響き渡った。

――腕が。腕が、腕が、腕が!!

 そう叫んだのは、男ではなく僕だった。僕の脳の奥深くに眠いっていたはずの記憶が呼び出された。

――嫌だ、思い出したくない。

 かろうじて覚えていた綺麗な事実と、思い出した汚い事実が()ざりあう。

 恐怖に塗れた、真っ黒な夏芽の顔が頭に浮かぶ。

――痛勤電車。朝。夏芽。痴漢。腕。

 そんな単語が僕の頭の中を 繰り返し 繰り返し 繰り返し 繰り返し 繰り返し、何度も何度も駆け巡る。

――怖い。怖い。怖い。

 僕はもう、そんな単語しか頭に浮かばなくなっていた。いっそもう、何もかも吐き出してしまいたい気分だ。




――――その瞬間。

「俊二君、大丈夫…?」


 僕の頭上から、夏芽の声が聞こえた。ハアハアという呼吸音が、僕と夏芽以外誰もいない列車に響き渡る。そよ風のような夏芽の声を聞いた後、僕はようやく自分が解放されたことを認識した。

 いつもであれば、夢から醒めた後には独特の気持ち悪さとともに、「ここは夢の中ではないのか」と疑う気持ちが現れる。しかしなかなかどうして、今目覚めた時にはそのような感覚は一切なかった。ここが現実なのだと、気持ちが悪いくらいすぐに認識することができた。


「酷く(うな)されていたみたいだけど、何か怖い夢でも見たの?」

 返事をしないで目を閉じている僕に対して、再び夏芽が問いかけた。――怒っているのではない。彼女は純粋に心配してくれているのだ。


「ああ、大丈夫だ。ちょっと、思い出したくないようなことを夢で見ただけだから。」


 僕はようやくゆっくりと目を開けて、とっさにそう答えた。――僕の視線の先には夏芽がいた。夏芽の眼鏡は曇っていた。――どうやら、真剣に僕のことを心配してくれていたみたいだ。


「今回は、俊二君の番なのね。

 安心して。私が絶対に、俊二君を助けるから。」


 そういいながら夏芽は、僕の頭をその温かい手で優しく撫でた。――今はどうしてか、悪い気はしない。まるで猫にでもなったかのようだ。夏芽は眼鏡を曇らせてこそいたが、その口は確かに微笑んでいた。そんな夏芽の笑顔を見て、僕はなぜかほっとした。それほどまでに僕は疲れてしまっていたのだろう。――ぼさぼさになった髪を整えつつ、僕は車内を見渡した。幸いにも、この車両には僕たち二人以外に誰も乗客がいないようだった。電光掲示板を見ると、最初の目的地――いわき駅の名が表示されていた。――しかし、なぜだか世界が横向きに見えてきた。ここまで来てようやく、僕は頭の下から感じる柔らかさに気が付いた。――これは俗にいう、膝枕というやつだ。――そしてもう一度夏芽の顔を見ると、夏芽は笑い返してくれた。その笑顔は、僕が直前まで見ていた悪夢を忘れさせてくれるようなものでさえあった。

 この状態から起きるのがなんだか勿体ないと思ってしまった僕は、そのまま終点のいわきに着くまで身体を夏芽に預けることにした。本人には言わないが、夏芽の身体に遮蔽物がないので、こうしていると普段は見えない角度から夏芽の表情を覗くことができる。――もちろん、悪口ではない。万物は、ほどよい大きさが一番なのである。

前までの展開からかなり変わってしまうので、今回は予防線ガチガチ仕様とさせていただきました。

元々このような展開にすることは予定しており、事前にいくつか伏線も張っていましたが、如何でしょうか。

今回話がかなり変わったように(少なくとも私個人は)思いますが、「旅行」という趣旨は一切変わりませんのでその辺はご安心ください。



どうでもいい話ですが、今回初めて夏芽が貧乳という設定が明かされましたね。(笑)


亀山三河(この話の公開が不安で、複数の友人に確認してもらいました)

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