第一章13 BRTという選択肢
僕たちを乗せた列車は、一ノ関駅へと進んでいく。そしてそれに比例して車窓は暗くなっていく。その静寂の中に響く走行音。――時刻はもう十八時半だ。
日中に歩き回ったのが堪えたのか、夏芽は眠たそうにこくこくとしている。
頭を下げているので、夏芽の髪が前に無造作に広がり、幽霊のようになっている。そんな姿を見ていると、なんだか夏芽が子供の様に見えてくる。
それからしばらくして外は真っ暗になり、そこに映っていたのは僕と夏芽だけになっていた。
僕たちを乗せた列車はようやく、一ノ関駅に到着した。――今回の旅行で、唯一の岩手県である。
そこから、うとうとしている夏芽を起こして連絡通路を渡り、十九時半発の多船渡線に乗り込んだ。
――キハ1000系。今回の旅程では唯一の気動車だ。
静かなプラットホームに響き渡る、「ピー!」という警笛。電車のそれとは一味違うエンジン音。そしてほのかに感じる軽油の香り。
――正直なところ、僕は電車よりも気動車の方が好きだ。
そこからドア開閉ボタンを押して車内に入り込む。今まで乗ってきた車両とは一味違い、まずドアを開くと一段ステップがある。そして車内に入り込むと視界に入る、二人掛けと四人掛けのクロスシート。そして今までの車両とは一線を画す、横引のカーテン。
いつもの通り夏芽は、二人掛けのクラスシートに真っ先に座ると「こっちにこい」という視線を送ってきた。
もちろん僕は「はいはい」と答えて彼女の答えに乗ってやることにした。
僕たちがふかふかとした座席に座ると、列車はちょうど動き出した。
そして一時間ほどこの列車に揺られて、気仙沼駅に着いた。――また宮城県に戻ってきたのだ。少々遠回りをしているような気がするが、これも旅情を味わうためのものだ。
すっかり暗くなってしまった車窓を覗くと、反対側のホームには堂々とバスが停車していた。――今回の旅行の第二の目的地、多船渡線BRTだ。
「さあ、着いたよ。夏芽。」
僕はそう言って夏芽の手を引いて列車から降りた。
「なんだか、同じ駅に列車とバスが並んでいるなんて異様な光景ね。」
夏芽が不思議そうな顔でそう言った。それについては僕も同意見である。だから今回の第二の目的地として、多船渡線BRTを選んだというわけだ。
目の前にいたバスに乗り込む。――夏芽はやはり、バス後方の二人掛けの席に座っていた。
外観も車内も普通のバスであり、この情報だけではこれが普通のバスとは一味違う面白い路線ということを理解できる人はいないだろう。
ここ――気仙沼駅から盛駅までの区間は、もともとは先ほどまで乗車していた多船渡線の線路が敷かれていた。しかしながらあの震災により、この区間は相当な被害を受けてしまったために、線路があった区間をバス専用の道路に切り替えた、というわけだ。
バス専用道となっているために渋滞や信号待ちが起こらずに、安全とスピードを両立することができている、というわけだ。
そんなことを考えているうちに、いよいよバスが出発した。
乗り込んでしまってもやはり、今までのバスと同じでこれといった特別性を感じることはできなかった。
本音を言ってしまえば、僕はこの区間も列車で移動したかった。しかし迅速な復興にはそれでは対応することができなかったのだろう。そして一編成あたりの定員が減っていても、本数が増えたことにより以前よりも輸送力が増強されていることを考慮すると、地元民からすればもしかすると列車だった頃よりもBRTとなった今の方が利用しやすいのかもしれない。
――本来このような地方路線とは、僕たちのような旅行客ではなく地元の方のためのものなので、列車を廃止したことは正しい選択肢だったのかもしれない。
しかしこの路線を見ると、日本国内の他の路線もこれに置き換わってしまうような気がしてならない。
――ローカル線の終焉。そんな時代は近づいているのかもしれないと僕は思った。だからこそなくなってしまう前に、日本中のローカル線に乗りたい。
僕はそう一つ、心に留めた。
そんな僕の気も知れずに、バスは時刻表通りに進んでいった。
時刻はもう二十一時三十七分。もはや夏芽は、バスの雰囲気を楽しむことなくぐっすりと眠ってしまっている。
そしてようやく、今日最後の目的地――奇跡の一本松駅に着いた。
今回は、なんというか評論文っぽくなってしまいましたね、、、
私はディーゼルカー、好きですよ?()




