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リンの作戦

「じゃあ、作戦を説明する。今回は二段階に分かれた作戦を立てた。まず第一段階では、罠を使って相手の士気を下げるのが目的」


リンはピッと指を立てて説明する。


「罠自体は前みたいな普通の落とし穴でしたよね。レイ君がおっきいのを掘ってましたけど、あんなので士気を下げることってできるんです?」


「ただの穴じゃ無理。あの中に入れたものが肝心」


「そういえば、穴の底に何か敷き詰めてましたね。あれは一体……?」


「材料はこれ」


そう言ってリンは、余った材料を一つ手にとって見せる。

彼女の手には、紫色をしたこぶしより少し小さいくらいの果実が乗っていた。


「これは熟したヘカズラの実。別に毒はない。これをすり潰した汁を使う」


「へー。毒がないなら、どんな効果があるんです?」


「ものすごく、臭い。……試してみる?」


「全力で遠慮します!」


ルフィナはブンブンと首を横に振る。


「これ以外にもいくつかの材料をまぜた特製の液体を作った。適度に粘度があって、一度服や皮膚につきやすいように調合してある」


「それを食らうのはキツいですね……」


ルフィナはリンの説明を聞いて、げんなりした表情になる。

たしかにこれならケガを負わせることなく、部隊にダメージを与えることができるかもしれない。


「臭いで、士気ってそんなに下がるものなんですか?」


「人間は生理的な反応に勝てない。調合で臭いも強めてあるから、まず間違いなく高い士気は保てない」


「じゃあそれが落とし穴に仕込んであるなら、少なくとも落とし穴にかかってしまった人は戦力ダウンと考えてよさそうですね」


「それだけじゃない。落とし穴が発動したら、時間差でその周辺にこの汁を詰めた袋が上から大量に降ってくる罠が作動するようになっている。落とし穴で部隊の歩みが一旦止まるはずだから、そこを狙う」


「な、なるほど……」


「リンちゃん、手口がうますぎてちょっと怖いです……」


リンの罠師としての手腕に、レイとルフィナは軽く戦慄していた。

もし彼女が殺傷することを目的とする罠を仕掛けていたら、一体どれだけの人間がここから生きて帰れるだろうか。


「というか、その実を使った汁の調合とか、時間差の罠とか、一体どこで勉強したんです?」


「……そういう知識や経験を無駄に持ってる人を知ってる」


「それって、もしかして……」


「あー……」


リンの複雑そうな表情で、ルフィナとレイは誰から得た知見なのかを察した。

レイは全員の頭の中で、あの老人が愉快そうに笑っているような気がした。

役に立たなそうな研究から成果を生み出すという話を聞いてはいたが、まさか身をもって同じようなことを経験することになるとは思ってもみなかった。


「そ、それでリンちゃん。士気や戦力の低下がうまくいったとして、そこからどうやって討伐隊を無力化するんです?」


「罠が一通り作動したら、第二段階に移る。第二段階の作戦は各個撃破」


「各個撃破、ですか」


恐らくここからが重要だ。

相手に討伐を諦めさせるには、ただ士気を下げるだけでは足りない。


「レイ。明かりを目掛けて跳んで接近したり、ルフィナを抱えて移動したりする練習はしてある?」


「は、はい。落とし穴を掘り終わった後は、リンさんが罠を仕掛けてる間、言われた通りずっとその練習をしてました」


「あれ慣れるまではちょっと怖かったですねー。あとレイ君のおっきい右腕に抱えられるのは、ちょっとドキドキしました」


「ルフィナのドキドキとかはどうでもいいけど、レイが人を抱えて素早く移動できるかどうかが重要」


「どうでもいいって言われました……」


ルフィナがぞんざいな扱いに若干いじけているが、リンは構わず説明を続ける。


「暗い通路を通る以上、討伐隊の人間は明かりを持ってるはず。その明かりを目掛けて高速で近づいて、一人ずつ攫って拘束する」


「えっと、角兎アルミラージを捕まえる時みたいなことを、討伐隊の人を相手にやるってことですよね」


「そう。捕まえて、ここまで運んで、拘束する。これを繰り返して、相手の人員をどんどん削いでいく」


レイの移動速度や腕力を持ってすれば、一人ずつ攫っていくことなら可能なはずだ。

まして相手はリンの仕掛けた罠によってかなり弱っている。

通常の状態に比べれば拘束するのはかなり簡単だろう。


「確かにレイ君に運ばれるのを体験した感じでは、そう簡単には抵抗できなさそうでしたね。あれだけ速く運ばれたら、何が何だかわからないでしょうし」


「彼らがここに到達するまでに、できるだけ数を減らしておく。ここに来るまでに相手の戦力を落としきることができれば、対等な話し合いに持ち込めるはず」


「なるほど……。しかし相手からすれば恐怖でしかないですね。士気が下がっているところに突然素早い相手が襲ってきて、仲間がどんどん減っていくなんて」


「人の家に土足で踏み込んで乱暴しようとしてる人間は、そのくらい怖い思いをしたほうがいい」


「リンちゃん、いつも以上に厳しいですね……」


涼しい顔をしているが、リンはこのダンジョンを守るために全力を尽くしているのだ。


「そろそろ罠がいくつか発動してるはず。レイ、出番」


「はい!行ってきます!」

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