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怒りのルフィナ

レイの姿を認めると、ルフィナは緊迫した表情を少し緩める。


「ああ、レイ君無事でよかったです!」


レイもまた彼女に会えたことを一瞬喜んだが、今の状況を思い出してすぐに表情を固くする。

二人の侵入者がいるこの場にルフィナが来たことは、残念ながらこの事態に対処する助けにはならないだろう。

グランはともかく、ルキアーノが相手ではどうにもならない。

むしろ逃げにくくなった分、事態が悪くなったと言えるかもしれない。


だがルフィナはダンジョン外への道を塞がれていないし、侵入者二人からも距離がある。

来た道をすぐに戻って行けば、この二人から逃げられるだろう。


「ルフィナさん!僕は大丈夫ですから、すぐに外へーー」


「ルフィナお嬢様!一体なぜこのような所に!?」


(……え?お嬢様?)


ルキアーノの予想外な発言に遮られ、レイは戸惑う。

なぜ、ルキアーノがルフィナの名を知っているのか。

それに『お嬢様』とはどういうことだろう。


「あれ、ルキアーノさん!?あなたこそ、ここで何してるんですか!?」


「話せば長くなりますが……ご説明は後ほど。まずは、この少年を拘束する必要がありますので」


ルキアーノは半身に構えた状態で背中越しにルフィナに話しかけつつ、レイをちらりと見る。


「え?なんでレイ君を……」


「彼は危険なモンスターです。なに、私がいれば問題はございません。少々痛めつける必要はありそうですが」


「い、痛めつける、ですって?」


「このまま捉えるには、少々力が強すぎるようですので。腕の一本や二本でも落とせば十分かと思うのですが……お嬢様?」


レイを見ながら話していたルキアーノは、ルフィナの様子がおかしいことに気づいて軽く振り返る。

ルキアーノの言葉を聞いていたルフィナは、俯いたまま軽く震え始めていた。


「レイ君の、腕を、落とす……?」


「あぁ、申し訳ありません。お嬢様には少々刺激が強いお話でしたな。後ほどお声がけしますので、それまで……お嬢様?」


ルキアーノが話している途中から、ルフィナは【本邸ホーム】の中へと踏み込んでくる。

やや下を向いたまま歩いてくるその様子には、ルキアーノとはまた違った迫力があった。

あっけにとられているグランの横を素通りして、そのままずんずん歩いて剣を構えている二人の方へと近づいてくる。


「お、お嬢様?あまりこちらに来られると危険ですので……」


「黙りなさい」


いつになくピリピリした雰囲気のルフィナが、ルキアーノにぴしゃりと言い放つ。

ルキアーノは驚きで完全に構えを解いており、レイに完全に背を向けてルフィナの方を向いている。

だがレイはその背中を攻撃するような気になれず、ことの成り行きをただ見守っていた。

とうとうルフィナは、剣を下ろしたルキアーノの前に仁王立ちになる。


「あの、おじょ」


「こんの、大馬鹿者!!」


「おぶっ!」


ルキアーノの右頬にルフィナの拳がめり込み、ルチアーノが仰け反る。

レイも初めて見る彼女の全力の殴打が、見事に顔面に炸裂していた。


「こんないい子にそんな酷いことしようとするなんて許しません!一体何を考えているんですか!」


「し、しかし、既に襲われて怪我をした人間が……」


「お黙りなさい!!」


「のうっ!」


今度は顎を殴られ、膝をつくルキアーノ。

先程まで剣技でレイを圧倒していた人物とは思えないほどのやられっぷりだった。


「レイ君がそんなことするわけないでしょう!」


「お、お嬢様、いくら私といえども、顔面を拳で殴られるのは……」


「少しは痛い目を見なさい!レイ君をいじめようとした罰です!」


恐ろしい剣幕で自分よりも大柄な男を叱りつけるルフィナに、レイはただただポカンと口を開けて見ていることしか出来なかった。

彼女があそこまで怒りをあらわにしているところを見るのは初めてだった。

普段温厚な人ほど怒ると恐ろしいというが、その通りかもしれないな、などとどうでもいいことを考えてしまう。


「大体、そんなこと誰に聞いたんですか!私が問い詰めてやります!」


「は、はい。そちらのグラン殿という方から……む?」


ルキアーノがグランの方を指さそうとすると、先程までいたはずのグランはいつの間にやら姿を消していた。


「つい先程までそこにいたのですが……」


「むむ、正直あんまり視界に入ってませんでしたね。ちょっと頭に血が上ってました」


「追いますか?」


「今から追いつくのは難しいでしょうし、ほっときましょう」


「かしこまりました」


ルキアーノがルフィナと話しつつ剣を収めるのを見て、レイはホッとしてその場に座り込む。

どうやらもうこれ以上戦わなくて済みそうだ。


「レイ君、大丈夫ですか?」


「まともに斬ったのは一度ですし、もう傷も治っているようですから大丈夫かと」


「ふん!!」


「おふっ!」


余計なことを言ったせいで、三度殴られるルキアーノ。

二人の関係性はまだわかっていないが、どうやら上下関係はかなりはっきりしているようだ。


「まったく……。レイ君すみません、ルキアーノさんが酷いことしたみたいで」


「い、いえ、もう大丈夫です」


レイの無事を再確認すると、今度はルキアーノに向かって先程よりは落ち着いた、そしてどこか威厳のある口調で告げる。


「ルキアーノさん、レイ君は決して危険な存在ではありません。なので拘束する必要も、戦う必要もありません。いいですね?」


「お嬢様がそう判断されたのであれば、私はそれに従います」


ルキアーノはうやうやしくルフィナに対して礼をして答える。

顔に殴られた跡が残っているが、礼の動作は優雅だった。


「やれやれ、間に合って本当に良かったです」


「そういえば呼び鈴が鳴りませんでしたけど、そのまま入ってきたんですか?」


「入り口からすぐの所にある罠が作動していて、ロープが切られているのが見えたんですよ。それで誰かが押し入ったんじゃないかと思って、急いでここまで来たんです」


「なるほど、他の罠は……」


「あれらは私が全て作動させてしまったようですからな」


「あー……。ルキアーノさんなら、あのくらいの足止め用の罠じゃ止まらないでしょうねー」


ルフィナは納得という表情でルキアーノを横目で見る。

彼女の中でもルキアーノは、あれらの罠が効かないようなイレギュラーな存在として認識されているようだ。

そのあたりでレイは、先程から気になっていたことをルフィナに聞いてみる。


「えっと、ルフィナさん。この人と、お知り合いだったんですか?それに『お嬢様』というのは一体……?」


「あ、やっぱりそれ聞いちゃいます?まぁ流石に今日は、この話をしないとダメかなーって思ってましたけど……はぁー……」


ルフィナは観念したようにため息をつく。

レイが重ねて問うべきか迷っていると、隣のルキアーノが心底誇らしげな表情で代わりに説明する。


「ルフィナお嬢様は私の仕える王都の名門貴族、メディス家のご息女であらせられます」


「……えっ!?」

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