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頑強なる戦士

ルキアーノをレイ討伐に誘導することに成功したグランは、そのまま例のダンジョンへ向けて出発した。

グランよりもルキアーノの方が急かそうとするくらいの勢いだったので、あっさりと目的のダンジョンがある森に到着することができた。

いつぞやのように乗ってきた馬を引いて、森の中へと入っていく。

二人だけで来ることになったのは想定外だったが、それでもグランは自分の幸運に内心ほくそ笑んでいた。


これといったコネがない王都のギルドで、偶然にも有名な剣士を見つけることが出来た。

おまけにその剣士はやけにお人好しで、自分の話をすんなり信じてあっさりと依頼を引き受けてくれた。

レイを冒険者に討伐させようと考えたはいいものの、金も人脈も足りていなかったグランにとって、ルキアーノの存在はまさに渡りに船だった。


(ようやく俺にも運が向いて来やがったか……これであのクソガキに……!)


グランはレイに切り落とされた右手首を忌々しげに見つつも、これからその復讐が果たせると考えて溜飲を下げる。

どんな手を使ったかは知らないが、レイはあの腕を手に入れたことで得体のしれない力を身に着けたようだ。

だが所詮は自分にあっさり騙された駆け出し冒険者。

モンスター相手でも十分戦えるという実績のある手練の剣士を連れてくれば、討伐は難しくないだろう。


万が一返り討ちになりそうなことがあれば、ルキアーノを置いて逃げればいい。

一人でも問題ないと豪語した以上、自分が助けてやる義理はない。

また別の冒険者を探せばいいだけの話だ。

もっとも、この男は冒険者ではなく王都の有力者に仕えている私兵のようだったが。


「……なぁ、そういやお偉いさんお抱えの剣士なんてどうやってなったんだ?」


「む?私のことですかな?」


「ああ。やっぱりあんたもいい家の出身で、そのツテだったりするのか?」


単純な興味で話を振ってみると、ルキアーノは笑いながら答える。


「ハッハッハ……いやいや、とんでもありません。私はそんな立派な出自ではありませんよ。むしろその逆といってよいでしょう」


「逆……?」


「ええ。恥ずかしながら私、昔は野盗のようなことをしていたのです」


そのままルキアーノから、今の主人に雇われることになった経緯を聞かされる。

ルキアーノは野盗をやっていた時からほとんど負け知らずで、好き放題に暴れまわっていたらしい。

だがある日豪勢な外装の馬車を襲った際、同乗していた魔法使いに完膚無きまでに叩きのめされたそうだ。

これといった怪我を負わされたわけではないのだが、御者と護衛を倒したあたりで謎の魔法によって体が思うように動かなくなり、あっさりと取り押さえられてしまったそうだ。


そのまま処刑されるだけだと思っていたのだが、その馬車の持ち主が何やら自分を気に入ったらしく、私兵として雇われないかと持ちかけられたそうだ。

それが今の主人らしい。

最初は野盗よりはマシな暮らしができそうだと考えて承諾したのだが、部下として働いているうちに主人の人柄に惚れ込み、今では心から尊敬するようになった、とのことだ。


「そんなわけで今はその恩返しをするべく、日々精進しているというわけです」


「はーん、なるほどな。ご立派なことで」


自分には縁遠い話だと思ったので、グランは適当に返事をする。

要するにこの男は、主人への忠誠心であれこれ人の世話を焼いているのだ。

そのあたりの理由はどうでもよかったが、結果的にその活動はグランにとって都合がいい方向に働いた。

引き受ける者がいなさそうな割りに合わない依頼をこうしてあっさり引き受けてくれたのだから。


ルキアーノの話聞いているうちに、例のダンジョン入り口へとたどり着く。

以前来た時と比べて特に変わった様子はない。


「着いたぜ。奴はこの中にいるはずだ」


「ふむ。入り口を見ると洞窟のように見えますが……」


「奥に進むと遺跡型のダンジョンになってるはずだ」


以前中に入った時は、巨灰熊ギガントグリズリー以外には大したモンスターはいなかった。

レイやここを訪ねてきたルフィナと呼ばれていた少女が入って無事に出てきていることからして、どうにかして巨灰熊ギガントグリズリーは追い払ったのだろう。

ならレイ以外に障害になるような存在は特にいないはずだ。


「では早速参りましょう!」


明かりを持ったルキアーノが先導し、中へと踏み込む。

すると数メートル進んだあたりで突然、ルキアーノが「むおっ!?」と言って勢いよく転んだ。

足元を見ると、輪になったロープがルキアーノの足に絡みついていた。


「ぬぅ、罠ですか」


「やろう、こんなものを仕掛けやがったのが。警戒して進まねぇと……」


「心配ご無用!この程度……ふんっ!」


ルキアーノは立ち上がり、足に絡みついたロープを強引に引きちぎる。

明らかに人の力で引きちぎれるような太さではなかったのだが、ルキアーノはなんでもないように再び歩を進める。

しかし数歩踏み出したところで、再び「ぬおうっ!?」と声を上げ、今度は胸のあたりまで地面に埋まる。


「ぬぬ、今度は落とし穴ですか。小癪な……」


落とし穴はかなり深いようだったがルキアーノほどの体格の人間を想定していなかったようで、途中で胴体がつっかえていた。

ルキアーノは即座に抜け出して、変わらぬ足取りで再び前進していく。

その後も数多く仕掛けられた罠にルキアーノはことごとく引っかかっていき、しかし全くダメージを受けていない様子だった。


「私にこのような小賢しい手は通じませんぞ!鍛え方が違いますからな」


「いや、あんたのそれは鍛え方がどうってレベルじゃねぇと思うんだが……」


グランの目から見ても、ルキアーノの頑丈さは尋常ではない。

これだけのタフさに剣の腕も加わるとなれば、相手がどんな怪力でも勝てるに違いない。

グランはレイが切り伏せられる場面を想像して、再び内心でほくそ笑む。


(これであのガキも終わりだな……ざまぁ見ろ)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


本邸ホーム】でいつもの農作業と投石の練習をしていたレイは、罠が作動する音が聞こえることに早くから気づいていた。

その音は徐々に【本邸ホーム】へと近づいてきており、侵入者が罠にもひるまず進んで来ていることを示していた。

その侵入者がグランなのか偶然迷い込んだ人間なのかはわからないが、レイは戦闘の準備をしておくべきだと考えた。


すぐさま冒険者時代に使用していた装備を整えて、ホームの中心近くで相手を待ち構える。

隠れてやり過ごすことも考えたが、罠が作動していることからも相手には自分がここにいることはわかっているだろうと思い、潔く正面から迎え撃つことにする。

そしていよいよ侵入者が【本邸ホーム】の出入り口から姿を表した。

その姿を見てレイは、グランが諦めてくれるのではないかという自分の見通しが、やはり甘かったということを認識する。


(ルフィナさん達の予想通りだったな……一人じゃないみたいだけど)


侵入者はグランと、見覚えのない大男の二人組みだった。

大男の方はグランに雇われた冒険者か傭兵だろうか。


ヘッケル卿よりも更に高い身長に、筋骨隆々とした体格。

そして頭髪の無い頭に、立派な口ひげの生えたいかつい顔。

レイと比べるとまさに大人と子供といった感じの、かなり威圧感のある外見をしていた。


「ふむ。たしかに右腕以外はごく普通の少年に見えますな。とても凶暴なモンスターの顔つきとは思えませぬ」


「見た目に騙されるなよ」


「グラン殿が右手を落とされているのは事実ですからな。ひとまず構えておきましょう」


グランと軽く会話を交わし、大男は腰の剣をスラリと抜いて構える。

体格の割には力にものを言わせるような雑な構えではなく、無駄のない洗練されたものであることが感じられた。


「一応名乗っておきましょうか。私はルキアーノ・パオローニ。あなたに名はあるのでしょうか?」


「……レイです」


「ふむ、会話はできるようで。あなたがグラン殿の右手を落としたモンスターで、間違いありませんかな?」


「確かにそうですが、でもそれは……え?モンスター?」


"モンスター"と言われて、思わず聞き返してしまう。

自分はモンスターに分類されてしまうのだろうか、と素直に疑問に思ってしまったのだ。

アンデッドに分類されるのだとしたら、モンスター扱いされてしまうのかもしれない。

だがヘッケル卿によると、じつはそうとも言い切れないようで……。

と、のんきにそんなことを考えていると、ルキアーノと名乗った男の目が怪しく光る。


「なるほど、否定しないのであれば是非もなし」


そういうとルキアーノは、剣を構えたまま一歩踏み込む。

たったそれだけの動作で、レイは巨大な壁が迫ってくるような強烈な圧迫感を感じる。

かなりの距離があるはずなのに、まるでもう目の前に迫っているかのような迫力があった。


戦いは避けられないと覚悟を決めたレイは左手で短剣を抜き、同時に右手の爪を構える。

殺したりはしたくないが、撃退するには多少怪我をさせてしまうかもしれない。

だが、自分はここで倒されてしまうわけにはいかないのだ。

再び会うと約束したルフィナやリンと再開するためにも、この場はどうにか凌ぎ切る必要がある。


レイが覚悟を決めたのが伝わったのか、ルキアーノは構えたままレイに向かって更に踏み込む。


「我が主の正義のためです。お覚悟を!」

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