転生冒険者の獣人奴隷入りハーレムへ設立の道(終)
連載中の長編小説の最終回です。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
ミリル……村娘18歳、茶髪、幼馴染で魔力無し
アキュレイ……女冒険者38歳、白金髪で魔法は不得手、姐御
クロ……黒柴の犬獣人19歳、人見知り、割と賢い
ヴィエレナ・ゴズフレズ……侯爵次女20歳、赤髪の火属性、くっ殺
ウィプサニア……聖女517歳、金髪碧眼、全属性チート、エロい
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この国全体を治めている王様と北方領域をまとめるラグンフリズ侯爵のお二方。彼らより連名で俺達を指名し依頼された、開拓地を襲う災厄こと超巨大な熊の魔物退治。
その討伐は今までの旅において、繋がりを作ってきた大勢の仲間の協力により、辛くも成功させることができた。
五百年振りに復活したといわれるそいつは、もはや魔物というよりも神獣と呼ぶに相応しいとんでもない強さだった。今回は封印ではなく完全に止めを刺し、息の音を止めることができた。
勝利を祝う宴で、その命は美味しく俺達の腹に収まったので、今後もう北の大地が災厄に怯えることは、二度とないだろう。
その戦いで俺は一度完全に死んでいたらしいが、サニアの超級の治癒魔法により何とか助かったみたいだ。それってもう蘇生魔法じゃないですかね。
「父上からの速報によると、今回の功績によりレノは開拓地に広大な領地を得て、伯爵に叙されることが決まった……らしい」
「本当に!? レノ貴族になるの!?」
ラグンフリズ侯爵の屋敷、あてがわれた俺達の部屋の中で、エレナが読み上げた手紙の内容にミリルが驚く。
ああ、やっぱりそうなるか。名誉なことなんだろうけど、嬉しいやら面倒くさいやらだな。
「冒険者でなくなるということは、班である我々も……今まで通りの曖昧な関係という訳にもいかないねえ」
「貴族の妻として正妻と妾、序列を設ける必要があるわけですね……うふふっ」
今まで何だかんだと誤魔化し、目を逸らして来た問題にアキュレイさんがついに言及する。……サニアさんは絶対に混ぜっ返す気だわアレ。
「こ、こっここっここは! 今後のこともも考えると私が正妻というのが、も最も相応しくはないだろうか! いや序列と言っても形ばかりだ。我々の間に上下などはないが!」
「異議ありよ! レノの正妻に最も相応しいのは私に決まってるじゃない!」
「今後のことを考えるならあたしが正妻ね。あの獣王はまた獣人が軽んじられてるとか言って難癖つけてくるから絶対めんどくさい。対策するべき」
正論を唱えるエレナと、力強く指を指しながら物申すサニア。それと珍しく我儘を言うクロ。
……お前本気か? あの獣王んとこの姫さんに自慢したいだけじゃあないだろうな? あのお姫様も親父さんと同じで、人族の領域での獣人の地位をけっこう気にしてるみたいだからな。
俺達が獣人領に行った時には……確か無用のトラブルを避けるため、俺が奴隷の立場でクロが主人として獣人達の村や町を旅したんだったな。何とかして俺をクロから奪い取ろうとする虎獣人の姫さんは愉快な子だったな。
人間の領域の貴族の正妻なんて獣人史上初の存在、クロがそうなったら悔しがるだろうな。
「……エレナはお家の人に認められるの? 伯爵とは言えこんな辺境の開拓地の家の妻なんか。お兄ちゃん二人からは、終わったら実家に帰ってこいって言われてんでしょ? 貴族社会で通用する正妻の格なら私にもあるわよ」
「そ、それを言うのならサニア様も、王都で今代の聖女としての務めがあるはずではないですか!」
「私はレノのそばか、住んでた山の上じゃないと死ぬもの」
「それならば王都には王太子殿下に嫁いだ私の姉上がおります」
「嫌よ。同性愛はダメ。非生産的よ。それに聖女の役目もその子でいいじゃない」
王国内に現れた聖女の生まれ変わりとされる、六人の女魔法使いがその座を手に入れんとした運命の聖女位争奪戦。優勝者がご本人だったというのはチームメイトだった俺達と一部の人間にしか知られていない。
王国最強の魔法使いと名を馳せながら決勝で敗れ、さらに生まれ変わりであるという前提も崩れたのだから、あのプライドの高いヴェルフィリアさんが繰り上げの補欠合格などで聖女の座につくわけがない。
……ふふっ、エレナのお兄さん方も元気かな。王国において最強戦力と謳われる武闘派貴族ゴズフレズ四兄妹。下のお兄さんは初めてお会いした時に既に患ってたから心配だな。
聖女候補でありながら戦闘民族なお姉さんは俺のことも気に入ってくれてるが、妹エレナが大好き過ぎるお兄さん方とは、まだちょっとぎくしゃくする。二人とも思慮深いから俺は好きなんだけど。
ちなみにサニアは他人から魔力供給を受けなくても、聖なる山に自生する霊木の皮で作ったマスクを被っていれば、実は下界での活動は問題ないのだが。
あと、彼女も聖女だから当然教会の信者だ。先ほどのセリフは神の教えにもある彼女の思想信条に基づくものであり、俺とは一切関係がない。
「……ねえアキュレイさん、貴族の妻って難しいの?」
「ああ、やめとけやめとけ。村娘だったらゼロから死ぬほどの勉強だぞ。血の滲む努力の末でもそれができて当たり前、周囲の目は氷のように厳しい。食って寝て股開いてりゃいい妾のほうが絶対ラクだ」
……相変わらずあなたのその貴族観は偏見に満ち過ぎです。しかしミリルのあの顔は諦めてないな。マジか。まあエブールの町では、しばらく領主様の館で働いていたから知識ゼロでもないんだけど。エルミラさんが手を貸せばワンチャンどころではないかもな。
「アキュレイさんは正妻でなくてもいいの?」
「あたしはほら、齢だから。本当は班解散なら、もらったこの報酬でどっかの町で飲み屋でもやるつもりだったんだけどねぇ。……そいつがどぉーしても一緒にいてくれって頼むからさ。ま、実際行くあてもないし、そこまで言うんならね。だから端っこで十分さ」
「ちょっとぉ! 齢の話は無しって決めたでしょうが! あなたの年齢自虐は私にも刺さんのよ。どうせモトから居座るつもりのくせに殊勝なこと言ってんじゃないわよ!」
「こんのクソ女マジで聖女様か!? あたしには今だに信じられねえよ! お前がいらんこと言わずにさっさと折れりゃ、エレナで丸く収まるんだよ。クロもミリルも最初から無理筋だってわかってんだから! なあ?」
「えっ?」
「えっ?」
「……えっ?」
……おおう。口を挟む隙もないし、挟みたくもない。
ミリルは自分が幼馴染で出会いは一番先だと言い、クロは背を預けて共に戦った時間は自分が一番だと主張する。
これ正妻が決まっても、まだ順番で揉めるなあ。俺席外してもいいかな?
「レイノルド様、よろしいですか? ミヌエ様がお別れの挨拶をしたいと」
おおう! ナイスタイミングだよ、レオンハルト君。行こう行こう。
「もうケガはいいのか?」
「はい。聖女様に癒していただきました。おかげ様で全員無事です。あまりご主人様を不安にさせるわけにも行きませんので、名残惜しくはありますが、お暇させていただきたく」
猫の獣人達は素早いから、あの限界を超えた激しい戦いでも致命傷を受けた者はいない。アーローム伯爵に悲しい想いをさせずに済んでよかった。
彼が送ってくれた西方の獣人達と、東の獣王からの援軍がいなければこの勝利はなかっただろう。
「ありがとう。また時間ができたら西方領域へも遊びに行くよ。ホント君達が来てくれて助かった。伯爵様にはよろしく伝えといてね」
まだ彼とは決着がついていない。犬系獣人と猫系獣人のどっちがより魅力的なのかを、夜通しでも語らねばならんのだ。
ちなみに劣勢なのは俺だ。犬が超かわいいけど猫もメチャかわいいんだよな。
それにもう一度西へ行くのなら、港町で働いているクロの妹分のチャコには金が出来たら迎えに行く約束をしている。
あと港の花街のボスの狐獣人のアカネにも会う必要がある。彼女の母親で、東の獣王の奥向きをまとめているシロガネさんの無事は伝えてあげないとな。
そうだ、色んな所に散ってたクロの同郷の子達にも声だけはかけてみるか。俺の領地では獣人の差別は無しだ。国王様や教会は難色を示すかもしれんが、何よりもこれは譲れん。
「ということだレオンハルト君。調整を頼むよ」
「ふざけないでください。これから戦いの事後処理も、叙爵の準備も挨拶回りも、領地の視察も開発も、あっちの正室問題も婚礼も、あなたの仕事は山積みですよ。国中を回るような旅なんかできるわけがありません」
ええー……。マジですか。それって終わるのに何年くらいかかる?
「ほいほーい。お呼びとあらば即参上だよ。今晩って私だっけ?」
「違うよ。その用事じゃなくてちょっとサニアに聞きたいことが。君は“技能”って使えるの?」
「あれ? 私その話あなたにしたっけ? 誰にも言ってないはずなんだけど」
「“門”と言ってここと他の場所をどこでも繋げられるんでしょ?」
「あ、あなた……一体どうしてそれを?」
昔夢で見たとか言ったら、この人はまたうっとおしい絡み方してくるから黙っておこう。
「“門”があれば移動や運搬には困らない。狩りの獲物を運びたい時は、町の肉屋でも、北の氷穴でも、自宅の冷凍庫でも……繋げられるんだよね」
「…………」
「繋げてほしいのは……二千十七年、十二月十五日。俺の、前世の地球の日本だ。できるよね?」
「…………そうね。こうなったらもう、自重しても仕方ないか! 行けるとこまで行っちゃおか!」
領地となった北の開拓地の地下には石油資源がある。俺と彼女達の魔法と魔力があれば採掘は難しくないが、開発や加工の知識が全くない。
前世の自宅にはパソコンがあったから、車に轢かれて命を落とす前の俺を助けて協力を仰ごう。領地経営をするのなら知識チートは必須だよな。
持てる力、使える手段を惜しむつもりはない。領主を引き受けるからには全力で取り組む。最高の仲間と最高の領主を目指すのだ。
柚子麻呂先生の次回作にご期待ください!