86.情報と実践
あれから執務室に行く途中にバルナに本の選出を頼み、視察で得た事を纏めていく。
もとからあった資料と照らし合わせたり、改善案を練ったりを繰り返していた。私の屋敷から1番近くにある街のことは、なるべく詳しく情報を取って置き、他の街の改善に役立たせるというのが私のやり方だ。
もちろん、街や環境によっては出来ないこともあるため、役立たせるまでが大変だがな。
ふと窓の外を見ると陽が暮れているのが分かる…夕刻になっていたようだな。
「んっ……」
肩を解したり、背筋を伸ばしたりすると床に散らばる資料を避け、部屋を出る。…まぁ、仕方ないだろう。これは。
「お疲れ様です。ロイ様」
「あぁ。少し仮眠を取る。30分したら起こしてくれ」
さすがに集中しすぎて色々と疲れた。いつもなら執務室のソファーで仮眠を取るが今は散らかっていて無理だ。
1度部屋に戻らなければな。
執務室の前で待っていてくれたアリエスには悪いがな。
「かしこまりました」
「それと執務室はまだ片付けるなよ。夜に最終確認するからな」
「…はい」
私が部屋を出たときに見たアリエスの表情は、『あぁ、また散らかっている』と私の後ろを見ていたようだからな。私も片付ける気はあるが、片付けるより仕事の方が楽しくなってしまうからな。片付けが二の次になってしまう。
そんなことを考えながら2階に向かうための玄関ホールに来ると、
――茶色い髪に、茶色い瞳で執事服を着ている――
アルタと出くわした。
その手もとにはティーセットがトレイに乗せられていた。ティーカップが2個あるということはランスの分も含まれているのだろうな。
「あっロシュ様!」
「アルタも休暇から復帰したのか」
アルタはライラに付く執事見習いだ。年はライラの2個上で現在成長期真っ只中だ。
「はいっ!今日からまた、ライラ様のお世話っ頑張ります!」
「あぁ、よろしく頼む」
「はいっ!それでは、僕はこれを調理場に持っていくので失礼します!」
「あぁ」
元気さでは使用人の中では上位に入る。純粋過ぎてなのかよくオリオンにからかわれているのに、それすら遊びだと解釈してからかわれているとも思っていない。
だがその性格は、ライラを連れての社交で起こる精神的疲れを癒すのには十分な素質がある。
レイラに付けたジェミネもその役割で見習いでも側に置いている。
まぁ、その分一緒にいる指導者にも手厳しくと言ってある。それに多くの他者から見られる現場で、メイド・執事の役割を実践するのが1番早く学べる。
うちの使用人の中には緊張し易い者はあまりに少なく、あったとしても慣れてくるようだから出来る手法だがな。
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