85.学ぶため
家に帰ると土産をベガには執務室に持っていってもらい、私はライラの部屋で行われている勉学の様子を少し覗こうと思う。
真剣な顔は良く社交で見られるが、真面目に勉学をしている姿は中々見られないからな。
出迎えたサジリウスに今後の日程を伝えると、2階にあるライラの部屋の前に行き、そっとドアを開けて中を覗いた。
「「・・・」」
中には真剣にソファーに並んで座るライラとランスが、テーブルにある紙に悩みながらもペンを動かしていた。
「……!」
それをじっと見つめていたレオが、私が覗いているのに気付き、足音と気配を消し、ドアまで来た。
「どうしたの?ロイ様」
「少し様子を見たかっただけだ。集中力を切らせたくはない、もう失礼する」
「分かった。ちなみにランス様、ついて来れてるから」
レオとは小声で会話し、そっとドアを閉めた。
「ついて来られているのか…」
さすがは王太子。どこの国でも最高の教育を受けているということだな。
私はそう納得をし、1階の執務室に向かおうとした。
「ロシュさんっ」
「ん?ゼイラルか。どうかしたのか?」
ゼイラルは筋肉痛で痛んでいるであろう身体を、壁に支えさせながら私に話しかけてきた。
「その、私にも何かお手伝い出来ることはないかと思いまして…」
「手伝い?」
「はい。この通り身体全体を動かしての行動を制限されていますが、やはり剣術や宿、それにランスロット様の教育までお世話になっては、こちらからも何か出来ることはと思ったのです」
別に見返りを求めているわけではないし、客人に何かをやらせるのはな。せっかく異国から来てもらったのだし。それに…
「そうは言ってもな。休める時に休むのも騎士としては必要な事だからな。何かをさせる気はない」
無理が祟れば筋を痛めたりすることもあるのだ。魔法などで簡単にはなおるかもしれんがな。この国では普通に痛めた身体は、効能のある薬草を貼ったり飲んだりし自然治癒力を高め待つのがいいとされているのだ。
騎士は守ることを仕事や使命としているのに、故障してはダメだろう。
「そう、ですか…では。私もランスロット様のように学ぶため、本をいくつかお借りしたいです」
「分かった。バルナに持っていかせるからどんな本を見たい?」
「この国に関するものならば何でも」
「ジャルにも一応持っていかせたいが何を読むか聞いておくか?」
「…いえ。物語でいいかと。勉学のための本より集中して読むと思いますし」
「ならゼイラルはもう、部屋に戻っているといい」
「はい…失礼します」
少し落ち込んでいる様子で部屋に戻っていく後ろ姿を見ると、何かを手伝いさせた方が気も晴れるのか?と思う。
使用人に意見を聞いてみるか。奉仕に関しての作業や忠義は彼らに聞くのが1番だからな。
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