73.髪を拭いて
私は部屋に戻ると、アリエスが持ってきたタオルで髪を拭かれていた。
レオに。
アリエスは風呂の掃除などをしたいと、ゼイラルを部屋までは送り届けたレオと合流し任せて行ったのだ。
「レオに髪を拭かれるのは新鮮だな」
「うん。オレも新鮮」
レオは私の髪を拭きながら同意の言葉を発した。
「人の髪など普段は拭かないのではないか?」
「いや?アルタの髪、毎回拭いてるよ」
「…毎回はやりすぎではないか?」
さすがにアルタも自分で出来るだろうに。
「だってあいつ、いつも風呂入り終わると寝るんだ。だからせめて風邪引かないように髪だけ拭いてるんだ」
体が暖まってすぐに睡魔が来るのか…
「なら毎回レオがやる必要はないだろう?他の者はどうしてるんだ?」
「皆力加減出来なくて起こすから、俺になった」
「…そうか」
ベガなら力加減出来そうなのだがな…人となると出来なくなるか?
「だからライラ様に付いていった時、申し訳ないとは思ったけど、ライラ様にアルタの髪を拭いてもらうように頼んでた」
「他の貴族なら、やらせていると知っただけで癇癪を起こしそうだな」
「そうだね。でもグランツェッタ家の人は、手伝ってくれるから」
「出来ることなら手伝うだろう。他の貴族が見ていなければな」
『他の貴族』が見ていなないという条件下なら手伝うのが、私達に取っては普通になっているからな……。
まぁ、使用人達がそれを普通とさせないようにしているから、頻繁には頼まれ事はされない。
「今回は、アルタとライラ様が一緒の部屋で寝るってことだったから」
「それで頼んだのか。寝てしまうアルタのために」
「でも今考えたら、ライラ様自分で髪拭くはめになってた」
「ライラは自分で出来るから大丈夫だ」
「でも、メイド達に聞かれたら怒られる?」
「その時は謝ればいい。咎めるほど怒るわけではないのだから」
咎めるとは言うなれば忠告だな。主となるものにやらせるなという。
「ん、終わったよ。この後どうする?」
「少し体を動かそうと思う」
「お風呂入ったのに?」
まぁ、私もそう思ったが。
「汗だくにはならない程度に済ます」
「じゃあ、付き合う。どうせ剣振るんでしょ?」
「あぁ。頼む」
私とレオは打ち合いをするため、騎士寮の広場へと向かった。
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