67.この先は言わせん
オリオンが執務室に来てから早数十分。
「――でしょ?」
「あぁ、そうだな」
「で、そのあと――」
適当な相づちしか打っていないが、話はきちんと聞いている。
オリオンが話しているのは、騎士寮でイブランにしごかれているジャルの話だった。
――【ここは軽減してもよさそうだな。
午前中はオリオンもそこで身体を動かしていたようで、
――【野獣被害か。どんな動物か分からないが対策をいくつか見繕おう。
ジャルの願いは早々に叶えられたことになるな。
そのジャルを思いの外気に入ったオリオンも、時々イブランと共にジャルに指導していたらしい。私より酷い扱きだが、まぁ、1日だけでも酷な日があっても、怪我をするわけではない。
――【これは…解決書類ではなく、貴族商人の商品一覧だな。ふむ。色々と品揃えも増えたな。
だが、その前に2人は骨や筋を壊す前にやめさせるだろう。
前もこんなことを考えていた気がするな。
――【よし。あとはここに判子を押して……よし。終わった。
「――でさ、ロシュ」
「なんだ」
「話は聞いてたと思うんだけどさ、あのジャルの情熱が俺にはキツいんだけど。もっと気楽にって思ってるんだけどさ、憧れ?的な目で見られたらさ、言いづらくて…」
「はっきりと伝えてやればいい。遅かれ早かれオリオンの心遣いという外郭は剥がれる」
「えー。俺だって演劇団の役者くらいの演技力はあるはず――」
「いや、ない。オリオンからは厳格な騎士の威厳は感じない。むしろふざけているようにしか」
言い過ぎだとは思わない。オリオンは本当にそう見えるのだからな。まぁ、オリオンの事をよく知らない女性は、凛々しい騎士に見えるだろう。ジャルも今はその状態だな。
「そこまでロシュに言われるとさすがに悲しいんだけど?」
「そうか」
「いやそうかって…」
「オリオンの悲しみの顔は今のではない」
「え。俺ロシュの前でそんな悲壮な顔した?」
口が滑った。私がオリオンが悲しみの顔を見たのは……バルナに叱られていた時だ。
もう色々な感情を通り越して瞳が潤んでいた、いや涙を流していたな。あれがオリオンの悲しみの顔だろう。
そういえばなぜ叱られていたのかはわからないが…まぁ、あそこまで叱られていたことを掘り返す気はない。
「さぁな。いつだったかは忘れたが、見たということだけ覚えている」
「なにそれー。あ、でも俺も見たことあるよ、悲しい?顔!」
「なに?」
「成長期が来ても育たない胸を指摘さ――」
バキッ。
――万年筆が折れた。
「すまない、よく聞こえなかった」
「えーと、ナンデモナイヨ」
「そうか。オリオン、書類整理ありがとう、助かった。こちらも片付いた。騎士寮に行こうと思うがお前はどうする?」
「あぁ、うん。俺も行くわ」
オリオンが先に部屋から出ると鍵を閉め、執務室から目的地へと向かった。
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オリオンが叱られていた理由は、ロシュの姉にアプローチを夫がいるのにしていたからだ。
しかしそのアプローチは「あんな男じゃなくて俺にしない?」というのをバルナに聞かれ、叱られてなくなった。
ロシュが見たときはすでに姉はその場からいなかったため、姉関係だとは思いもよらないだろう。
それからオリオンはむしろ夫の方と意気投合していったという。
これはロシュは知らない話。いつか知るかもしれないが。




