63.太刀筋
朝食後の時間は、それぞれ単独で見て回るという事になった。
ジャルはイブランとの稽古をしに。昨日の内に約束を取り付けていたのかもしれない。……イブラン側が。
ランスはスロウに料理の事について聞きたいと。変わった王太子殿下だと思ったが、まぁそれぞれだろう。
ライラも私と同じように思ったのか、ランスに付き添うことに許可をもらっていた。
そしてゼイラルはというと……。
「はぁーっ!!」
――カン!カンッ!
私自らが再び稽古をしていた。彼からは、
『お時間がありましたら、打ち稽古にお付き合いいただけませんか?』
と言われて引き受けたのだ。先程の落ち込んでいた彼はもういなかった。今、謝ったとしてもなぜと言われそうだな。謝るのは終わった後に回そう。
ただ私からは打ちにはいかない。木刀を動かして、ゼイラルの当てる場所を変えているだけだ。
……そう言われたからな。
――カン!カン!カンッ!
しかし。見ている限りどうも少し似ているな……私が先程ゼイラルに見せた剣の軌道に。
もしや彼は同じ動きをしようとしているのか?
少し話をしたいな。私は打け続けた剣を払い、距離を取らせた。
「ゼイラル。聞きたいが、その剣の軌道は私を真似ているのか?」
「はぁ、はぁ、はぁい……」
「呼吸が整ってからでいい、詳しく話してくれ」
息が切れるのも仕方がない。朝の打ち稽古よりさらに長く私に向かってきていたのだから。
しばらく呼吸を整えたゼイラルが口を開き、言葉を紡いだ。
「ふぅ……ロシュさんの剣術は、私に取って理想そのものだったんです」
「そうか」
ゼイラルという人物の理想の体現者だったというのは、嬉しくもあり恥ずかしくもあるな。そこまで綺麗な太刀筋だとは思っていなかったからな。
「はい。ですから、どうしても習得をしたかったのです」
「なるほど。そういうことなら打ち稽古でなく、動作を1つ1つ覚えていった方がいいんじゃないか?」
「…教えてくださるので?」
「むしろ私なんかの太刀筋が、ゼイラルの能力向上に繋がるならば協力しよう」
「ロシュさんの勝手なイメージで、自らの剣術などを真似されるのは癪かと思っていたので……」
「はははっ。私がこだわりを持っているのは飲み物くらいだ。その他は真似されても多分だが、癪には触れん」
さすがに姿形から性格の隅々まで真似しようとする者がいたならば、叱咤するがな。
そこから私はゼイラルと共に昨日イブランと対峙していた騎士寮の場所まで移動をし、そこで伝授を開始した。
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ポッキー
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