49.呼び方
剣術指導された汗まみれ砂まみれのジャルとゼイラルを、騎士の住まいにて風呂に入れてやれとイブランに頼んだ。
ちょうどシリウスが、屋敷からこちらに向かってきていたのが見えたしな。
ランスロット王子の警護に関しては屋敷に入ってしまえば、大丈夫だろう。
「ロイ様!お客様のお部屋の準備、完了しましたとのことです!」
「あぁ」
「騎士のお2人は?」
「騎士の建物の方で風呂に入っている」
ジャルとゼイラルがいないことに疑問を持ったシリウスが問うてきた。
「汚れたのですか?」
「あぁ。イブランがな」
「なるほど……。では屋敷に向かいましょう。あ!アリエス、荷物は私が持つよ!」
「大丈夫よ。これくらい持てるわ」
「そう……」
アリエスに断られたシリウスは一瞬、落ち込んだように項垂れた。紳士は女性に気を使うもの。という考えがあるからだろう。
男性っぽさを求めるのは悪くはないが、いちいち落ち込むのはもう直した方がいい。
「シリウス。男性っぽさを求めるのは悪くはないが、いちいち落ち込むのは直した方がいい。断るのは本当に必要としていないときなのだから」
「はっ!以後に反映させます!」
シリウスは騎士の中でも唯一の女性。
そして、私のように『女性らしく』というのが苦手の類いの人間である。
我が家の騎士となったのも、私がいたからだと面接にて言っていた。
前の職場では女性だからと気を使われていたと聞き、仮合格をだしたのち、イブランの指導に耐えたのが、シリウスのみだった。
だが、いまだにそのイブランからは、私やこども達に付くことはまだだと言われている。その分、イブランの指導に力が入っているので、いつ実力で抜かれるか…
屋敷に戻ると2階にある客室に、ランスロット王子達が泊まる部屋の前まで来た。
「3部屋あるがどの部屋も同じだ。部屋を出て左側に行くとトイレと風呂場がある」
「はい」
「荷物は全て真ん中の部屋に入れさせたから、仕分けの方はそちらでやってくれ」
「はい」
私自らが部屋の位置の説明などをしていく。
「夕食だが……そうだ。スロウという料理人はランスロット王太子殿下の元に来たか?」
「いえ…」
「なら今からいこうか。好き嫌いを聞きたいらしいからな。ランスロット王太子殿下ならジャルとゼイラルの好みも知っているだろう?」
「はい……」
スロウの元へと行くという前に、ランスロット王子の声のトーンが落ち込んでいたのが分かった。
「どうした?」
「あの。ランスロット王太子殿下と呼ぶのは…やめてほしいです」
まさかやめてほしかったとは。
「では王太子殿下と呼べば?」
「ランスでお願いします」
「ただのランスでいいのか?」
「はい」
「ならもう少し早く言ってほしかったな。こちらも呼びにくかった」
ランスロット王太子殿下と、最初に呼んでしまったからな。途中から王太子殿下と呼べば、一線を引いたと思われるのは嫌だったしな。
「すみません。僕も途中から嫌だと思ったので……」
「そうか。なら使用人達にもランスと呼ばせよう。様付けはされるだろうが」
「お願いします」
「だそうだ、アリエス、シリウス。皆に伝えてきてくれ。私達はスロウ達のところへ行く」
「かしこまりました」
「はっ!」
側に黙っていたアリエスとシリウスにも、ランスと呼ぶように言っておき、他の使用人達にも『ランス』呼びをするように伝えてきてもらうことにする。
いちいち私やランスから呼んでくれと言うのは面倒だからな。
…私も呼び方を変えてもらった方が良かっただろうか?
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