369.とある日の1幕~ふく~
その日もロシュに、メイドの彼女が饒舌に話しかけ続けていた。
「――ロシュ様の袖口のボタンは金の方がいいですよね~?それから――」
――その者の名はクエリア・。ロシュとゼイラルのお披露目パーティーの衣装と、結婚式に使用する服の主だった製作を任された者である。
補佐にアリエスとバルナ、ジェミナが入っているが、デザインや装飾も1人でやる勢いである。
「ふふふ~」
上機嫌に私が仕事をしている机の真向かいのテーブルで、ゼイラルが着る上着の製作に励んでいるクエリア。
デザインの製作段階からここで製作を始めていたクエリアに、『何故ここでやるんだ』と私の他にもアリエスやバルナがいるときに聞いたことがあった。
『何故ここで衣装を作る?自室やメイド寮でもできるだろう』
『完璧な衣装を作るためですよ~!それに~?ロシュ様はもう少し服に興味を持って、センスを磨くべきなんですよ~!ですからまずは服に興味を持ってもらうために、1から服が出来上がっていく様子を間近でお届けしたいんです~』
そう語ったクエリアの言葉に、私を含む3人は語られたことを肯定をするように口を噤んだ。
センスは良く分からないが、興味は持ちたいと思っていた所だった。
自分の着る服はもう選ぶことはないだろうが、誰かに贈る際には役立てられるだろう。
ただ、仕事の邪魔をされると困るので、話しかけるのは私の休憩中だけにしてくれと。
それに対してクエリアは、
『私が作っているときは、多めに休憩を取ってくださいね~?』
と、過多な休憩を要求してきた。
まぁ、集中をしつづけなければできないことはないなと、了承をして今に至るのだが…
私が休憩を取るのを察知して、こちらが話しかける前に喋り出すのは少しだけ怖くはあった。
「ロシュ様~?休憩中でしたらこちらに来て見てみてください~」
「あぁ」
――ロシュは仕事をしていた机から離れ、クエリアいるソファーへと腰かけ、衣装の製作風景を話しかけながらしばし見ていたのだった。
それを見続けていたロシュだったが、装飾に関しての意見を求められ返答した際、それはないという意見を出し、クエリアに『ロシュ様は、多分服を選んだり製作に関わっちゃいけないですね~』と、バッサリと見限られ、それ以降彼女は衣装完成までロシュに衣装を見せることはなかったのだった。
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クエリアは母・バルナと同様に服を1から作れるほどの技術を持っています。
今は、バルナもやらなかった靴の製作をするため専門店へと赴き、修行に励んでいるそう。