365.補佐役任命
「そういわれると、ロシュさんの自宅で使用人のどなたかが椅子を引いているところは…見たことがないですね」
――ロシュがされるはずであろう行動を見たことがなかったなと、納得をしたゼイラル。
「まぁ、今後はそういう機会も増えるだろうからな。社交界と我が家とで緩めているマナーや気遣いを理解していってくれ」
「増える……?」
「未来の夫となるならば、私の事を使用人と同じかそれ以上に理解してほしいところだな」
「おっ…!」
――ゼイラルはロシュの『未来の夫』発言に動揺して、『夫!?』という前に言葉を詰まらせた。
確かに自分で判断は全てロシュに任せると綴った手前、貴族へと戻ることはロシュが来た時点で心が決まっていたが、『夫』という伴侶を表す言葉がすらりと出てきたため、ゼイラルは急に当たり前な現実を突きつけられていた。
ロシュと付き合うということは…遠くない将来。
彼女が妻で自分が夫となるのだということを。
そんなゼイラルの気持ちなど露知らず、ロシュはゆっくりと今後について話し出していた。
「――では。この書類らに書名を頼む」
「分かりました」
ゼイラルへと書名を頼むと、先程の話を思い出していた。
振り替えることでより、実感が沸くしな。
彼に話したのは『貴族になってもらうこと』『婿養子になってほしいこと』そして『副領主を勤めてほしい』という内容だった。
貴族と婿養子に関してはゼイラルも理解も納得もしてくれたが、副領主を勤めることは全く考えてもなかったらしい。
夫という立場になったとしても、せいぜい書類整理や代筆などだろうと。
私としても別に副領主はいなくとも良いと思っている。
だが、結婚をする上で生じる領地にかかるかもしれない不安材料が出てきた。
妊娠と出産だ。
いや。まだここまで考えるのは早いかもしれないが、夫婦となれば自ずと出てくる話だ。
だが私の場合は『領主』だ。後継ぎが必要となるため、絶対ではないだろうが、時期をみて産むことになるのは確実だろう。
となれば。つわり、陣痛、出産後などの身体を満足に動かせない期間が出てくる。
怪我をして休んでいた場合とはわけが違う。
予想の範疇でしかない現段階で、ここまで心配が出てきているのだ。
その身になったなら、より実感を得るのだろう。
しかしそれを避けるために、ゼイラルを伴侶とする、出産をしないという選択は選びたくはない。
ならば、領主とほぼ同じ権限を持たせられる副領主に任命しておけば、色々と安心だ。
まぁ、それまでに教えておくべきことも多くなるのだが、ゼイラルは勤勉だから多分、問題ないはだろう。
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――副領主
領主の指揮権、発言権などを担うことができる領主の補佐。
副領主にできないのは、土地権の売り買い、人の雇用・解雇などである。




