364.外と中の塩梅
それから立ち話も疲れるだろうということで、ゼイラルは私を家の中へと招いた。
「あ。騎士の方はいらっしゃらないんですか…?」
ゼイラルは私の後ろに騎士が1人もいないことに気がつき、あとから来るのかというニュアンスの問いかけをしてきた。
「レオはあそこの路地前で馬の世話をみてる」
私はゼイラルの住まう家から続いている住宅の路地を指差した。
3馬だけだからな。停留所へ行って置いてくるより路地で待機をさせていた方が、持ってくる手間もない。
「お2人で来られたんですか?アリエスさんも外で待たれるんですか?」
「今日はアリエスは同行してきてない」
「そう、なんですか…。ご病気で?」
「何故そう思った?」
「アリエスさんが病気以外で休むとは考え付かなくて」
「まぁ、遠からずだな。詳しくは中で話してやる」
「あ。はい!どうぞ」
ゼイラルに促され中に入るとドアを施錠する音がした。
密室で2人きりか…。
先日来たときは帰り際にこうなり、急いで思いを伝えるだけ伝えて帰ってしまったが、今日はあまり時間を焦らずに会話ができそうだな。
そんな事を考えているうちにゼイラルは私に声をかけ、私が座る椅子を引いてくれた。
「突然だな」
――ロシュは失笑の表情を浮かべた。
「えっ?」
「店などではこういうことはしてくれて構わないが、自宅という住まいでするのは今後はやめてくれ」
「すみません…」
「いや。良かれと思ってやってくれたのだということは伝わっている。が、リラックスしようとしてある場でこういうことをされると、どうもな…」
――ロシュが椅子を引かれるのはほとんどが社交界などの『貴族としての交流の場』だったため、折角の2人きりも『貴族』としてという、振る舞いを求められているようで、ここでもかという意味もこもった失笑だった。
ただ、された事に関しては嬉しかったのも事実。
しかもこれからその『貴族として』をゼイラルにも強いることになるのだが、自宅と社交界では違うのだと理解してもらおうと考えているため、今伝えることができて良かったなと考えたのだった。
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次回更新は12月3日朝9時頃です。