363.噂を招く行動を
おはようございます
――ロシュ達が街の中に入ると、彼らの顔を知っている大半の者は、街の中に馬で、いつもより装いがガッチリとしていないロシュに、驚いていた。
『領主様、今日はどうされたのかしら?』
『街中にあんな普段着みたいな姿で来るなんて…』
『どうした?』
『ロシュ様が馬に乗って街へ来たんだ』
『ほぅ?』
『見て!ロシュ様の装いがいつもと違うわ!』
『あれも使用人様の手製かしら?』
『『『でもいったい、何をしに来たのか』』』
人々はそんなロシュ達の行く先を、想像した。今後彼らはロシュの想定通りに良くも悪くも『噂』をたて、そして『真実』を知ったとき今より驚くだろう。
街の者達からの視線を受ければ、交流として軽く会釈や挨拶を返しながら、ようやくゼイラルの自宅前へと辿り着いた。
馬から降り、先に降りていたレオに手綱を任せ、2人に待機を命じると、ゼイラル宅のドアにノック音をさせた。
――ガチャ。
「はい、どち――ロシュさん!?」
――ゼイラルは開けた先にロシュがいたことに驚いた。
「数日ぶりだな。時間があるようだから少し話をしたいのだが?」
「え。えぇ、と。確かに今日は仕事は休みですけど……あの?」
――ゼイラルは、ただでさえ驚きから抜けていない所に、ロシュが何故自分の予定を知っているような口ぶりに、戸惑いを隠せなかった。
「…あぁ。何故休みを知っているか気になるのか」
「その、私は伝えた記憶はなかったので…今度の手紙にしたためようかと思っていましたし」
「ここの街のことの情報ならすぐに手にはいるからな」
ここの街の者の店主達だけだろうが、私か使いの騎士が『店員には内密に全ての者の出勤日の記帳を見せてくれ』と伝えれば、何も言わずにスッと出してくれる。
これは私に『店に後ろめたいものがない』というのと『労働者に不審な者がいるなら連れていってくれ』という表しだ。
出し渋るからといって、経営状況や労働制に不正があると判断する訳ではないのだがな。
――街で経営する者は、ロシュが領主へと着任した年度に起こした、非効率な事柄に対する『振るい』を身に染み実感したことも行動の理由だった。
だが彼らの感情全てがロシュを末恐ろしく思ってそうしているわけではない。
むしろ情報を渡してもロシュならば、良い方へと持っていくだろうという信頼もあったのは確かだ。
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――振るい。
ロシュが行った駄目だと判断された者達の解雇を意味している。
なお、その際働き口の情報をいくつか渡しており、その者達は余程の事をしていない限りは街で新たな職につけている。
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