359.派手で。素朴で。
おはようございます
――ロシュはしばらくベガの前で沈黙したのち、ようやく言葉を返した。
「…父の求婚方法は過剰だ。あれのせいで王の利権を奪うのでは?と言われるほどだったらしい。父には王族とのいざこざをぶり返すような真似をしないでほしかったな」
「そう、なのですね…知りませんでした」
――ベガはあまりにもロシュが黙ってから話始めたため、聞いてはならないことを聞いたのでは?と不安になってしまっていた。
「一時期箝口令を敷いた程、盛大過ぎたことだったからな。あれには母も引いたらしいぞ。気になるなら書庫の何処かに詳細が書かれた本があったはずた。見てみるといい」
「…そうします」
「あぁ」
――そんなベガの気持ちを分かってか、ロシュは情報は隠すほどのことではないと、後で読むことを彼にすすめた。
のちにベガは詳細を読んだため、あの時何故ロシュが沈黙した気持ちも理解できた。
自分の父があわや家を無くす可能性もあった話を、明るくは話せないだろう、言葉も詰まるだろうと。
ベガとの話を終え、扉の外に控えていたレオに予定を説明すると、彼は馬を用意しておくと言い残し、この場をあとにした。
「自分が護衛だということを忘れているのでしょうかね」
「いや。ベガがいるから自分はここを離れられると思ったんだろう」
「なるほど…」
照れたように納得したベガと供に執務室へ向かい、書類を確保するとそのまま自室へと一時期戻った。
さて。服はどうするか。
いつもなら手早く選べるが、一応ゼイラルと私の関係性が『恋情』からくるものだと街の者達には思ってもらわねばならない。
仕事でなんて思われるのは、今の私は心外にも感じる。
……が。
『仕事』と『プライベート』が区別されやすそうな服など分からん。
とりあえず、ジャケットとネクタイはやめて、カーディガンに胸元を少し開けたシャツにズボンでいいか。
外出用の服に着替え、書類を入れたつつみを再度確認した。
途中で壊れて書類が撒き散らされるなんて事がないようにな。
――案外早めに着替えを選び終えたロシュは、準備を終え部屋の外で待っていたベガと合流した。
その時、ベガはロシュの姿を見て『寝間着?』と心の中で思ったほど、ロシュの姿は普段着ている寝間着より素朴だった。
だがロシュ自らが選んだものというだけあって、ベガは何も言わず目的地へと歩みを進めたのだった。
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――箝口令は数年で解除されたが、当時領主(ロシュ父)の苦い思い出であることから、街の者達が気を使って話題に出さなかったため、当時幼かった者、産まれていない者達は知らない、もしくは噂程度の情報しかあまりないそう。
――素朴な。
ロシュは普段、暗めの寝間着にゴールドのラインがあしらわれている物を好んで着ている。
カーディガンはロシュに似合った色ではあったが、何の装飾もなく『肌寒い時に羽織るもの』という認識をされかねない服に見えた。
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