358.父が招きかけた最悪
ゼイラルから告白の返事を受けた私は、先に残っている別の手紙を読み終えてから行動を開始した。
まずは婚約に必要な書類と貴族の爵位に関する書類に私のサインを入れていく。
各所に出すため数十はあるが、ほとんど自分の名前を書くだけだったためそれは楽だ。
ゼイラルが貴族になることに関しては、我がグランツェッタ家に婿として迎え入れれば手続き等はすぐに済むが、ゼイラルは国を出て戸籍からこの国で取り直したその変更手続きは、国にも出さねばならいものがあるため、書類の往復で時間がとられる。
まぁ、その間に別の準備が万全にできると思えば苦ではないがな。
その間に、貴族達の中で私に婚約を取り付けようとしてきた者達の家にも、婚約をしたことを通知しなければなならない。
『私は婚約者を得た。これ以上の婚約関連の話は持ってこないでくれ』といわねば、まだチャンスはあると思われる。
『婚約』は『結婚の約束』という意味である。
だが裏を返せば、まだ結婚はしないのだろうとも取れてしまうため、貴族らには知らせねばならない。
これが1番面倒だ。
何せ様々な理由を付けて私と子息達をくっつけようとした者達だ。
相手を逆上させない程度に色々と言ってでも、きっぱりと断るしかない。
だが『貴族の者達』と言っても片手で足りる程度の人数だ。
話があると全ての者達に呼び出されても1日1組にしてしまえば、1週間で終わらせられるはずだ。
「ベガ。私はこれからレオと供に馬でゼイラルの所に行ってくる」
「…え?」
私の外出を、それも馬ですることに驚いたベガに、理由を告げた。
「街の者達は噂好きもいるからな。思い人の元へ駆ける姿を見せておけば、婚約や結婚の話を受け入れられやすくなるだろう」
「街の方達に見せるのはグランツェッタ家の様式なのですか?」
「大事な領民達に、自分の伴侶を受け入れ好いてほしいと思っての行動が代々一貫してるだけだ」
「ロイ様のお父様の時は盛大だったと聞いていますが?」
ベガが『様式』と言った時点で問われると思った……。
――ロシュはその日の事が記録された本の内容を思い出した。
ロシュの父は、ロシュの母に婚約を持ちかける事になったその日。
黒い服を着た騎士がグランツェッタ家の家紋の旗を掲げ、その後ろからは音楽隊が祝福を祝うような音楽を奏ででいた。
それらに挟まれるように白馬に乗り、白い服を着たロシュ父がロシュ母の家まで赴き、『結婚を前提に』と話をしたそうだ。
…旗を掲げることは『自身の身元を象徴』すること。
音楽隊がその後ろにいたことで『その日の出来事を万民に知らせる』意味が付き、さらに稀少種に部類される白馬に乗っていたことで、『財がある』ことを見せつけた。
これはこの国が国となるために行ったとされる『建国の意志』を示すものであった。
数百年も前の事だが、王族達の間では詳細が事細かに語り継がれていたため、『反国の意がある』と思われたというお話。
今は誤解も解け、王族とグランツェッタ家は良い関係性を保てている。
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建国等の逸話はこの国のみでの話。
他国や王家主催となればパレード等に該当する。
あくまでも『領主』がやったがために、王族との関係性が最悪となりかけた。
次回更新は23日、月曜日、朝9時となります。