357.お返事
――数日後。ダイニングにて。
――未だに専属メイドであるアリエスは、精神安定に励んでいるらしくロシュの側にはデネヴィーが控えていた。
アリエスが休んだ初日だけはバルナが側に控えたが、アリエスの話を聞き、前向きにさせるためバルナもロシュの側を離れたのだ。
代わりに側に控えているベガだが、アリエスがいるためなかなかロシュに長期間仕えることができなかったのだが、今回久々に毎日仕えることができて嬉しいという反面。
アリエスが、ロシュとゼイラルの関係性ごときで休むなどと内心彼女に呆れていた。
ベガの『仕事を全うする』という考えは、プライベートと仕事を切り離してでも遂行する。
これはベガが執事と騎士を兼任しており、騎士には守るためには無駄な思考はいらないという考えを、イブランから教えられているため、こういう時はアリエスよりできる使用人だろう。
ただし、欠点としては突然には弱く、内容を引き摺りやすい。回復も早い。
そのため、執事の仕事よりは騎士の仕事を割り振られることが多いらしい。
「ロイ様。こちら本日のお手紙となります」
「あぁ」
銀のトレイに乗せられて渡された手紙達を1通1通読んでいく中、この数ヵ月で見慣れた手紙を発見した。
「これは…」
「ゼイラル様からの手紙ですね」
「あぁ」
私は手早く手紙を開き読んだ。
……。
――ロシュはゼイラルからの手紙を読み、朗らかな笑みを浮かべた。
「ロイ様?」
「ん?あぁ。読むか?」
「良いのですか?」
「いつも読んでいただろう?」
「…では失礼します――」
『ロイヴァルッシュ・ヴィ・グランツェッタ様へ。
お返事か遅くなりすみませんでした。
突然の告白に動揺してしまい、すぐに返事ができなかったことを後悔しています。
その。
お付き合いの件ですが、勿論了承したく思います。
又、婚約をするのでしたら全てロシュさんにお任せしたく思います。
私にどんな役目が備わっても、ロシュさんと供に いられるのならば何でも構いません。
細かなお話は日を改めてしましょう。
追伸。
あの。できればで良いのですが、私からも告白させていただけませんか?
ロシュさんより告白を先にできなかった後悔を引き摺りたくはないので。
ゼイラル・ムーロン』
「これは…」
「了承は得た。だが私としては追伸で書かれている内容が気になるところだな」
「それにしては楽しそうですね」
「ゼイラルとしては想いを成就するために来たのに、私に先を越されて複雑なのだろうというのが、この文面から見てとれた。告白をされてそれを受けた状況で、どんな想いを告げてくるのかが楽しみなのだ」
想いは繋がっている。その上での告白は恥じらいもあるだろう。
それでも伝えたいと言ってきたゼイラルは、受け身な考えだけを持っているわけではない。
それを実感する手紙であった。
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