354.平常心と乱れる心2
飲み物も揃い、アリエスもソファーへとかけた。
私は短く息を吐き、語り出した。
「まずこれからする話は確定しているものと、してないものがある。それを覚えておいてくれ」
「かしこまりました」
「――今日、私はゼイラル・ムーロンへと告白した」
「……はい?」
――ロシュの言葉を理解できないとばかりに首をかしげたアリエス。
「もう1度聞くか?」
「は、い」
「今日、ゼイラル・ムーロンへと告白した」
「っ!それはゼイラルの気持ちに答えたということですか!?まだお知り合いになって半年も経っていないですよ!?もう少し様子を見てもよろしいでは?!その間にもっとロイ様にふさわしい方が現れるかもしれません!」
――アリエスは動揺し、ロシュへと捲し立てた。
動揺の理由3つ。
ひとつは今日の馬車での中で隠していたことは、これだったのだという驚愕。
もうひとつはゼイラルに、ロシュを魅了するだけのなにかがあるとはいくら考えても、思い付かなかったからだ。
剣の技術もそこそこ、知識はあるがロシュほどではない。彼の国でのような特定のものはあるが、それだけ。
年下で、身長もロシュより低い。
他にもアリエスは可能性を低く見積もる考えしかしていなかった。もしゼイラルが再度告白してきても、断るだろう。と。
最後に。
ロシュが、ゼイラルに、告白するなど考えもしていなかった。
その事が重なり、ロシュへと捲し立てるように進言した。
『結ばれるにはまだ早い。それにゼイラルは貴女に相応しいとは思えない』と。
丁寧な言葉になっているだけ、まだ冷静さはあるらしい。
「そうだな。だが、私はきちんと気持ちを整理し、これが『恋情』だと判断した。告白したとこは衝動だったがな」
「衝動?ゼイラルへ抱いた気持ちは衝動ではないと?」
「あぁ。彼へ抱いた恋情は前からあった。が、気持ちに波があってはと、落ち着くまでゼイラルに伝えるつもりはなかったのた」
「それで衝動へとなる意味が分かりません――」
――それからロシュは、アリエスにゆっくりと自分がゼイラルに恋情を抱いた経緯について語った。
アリエスはその間、眼光を鋭くしながら話を聞いていた。
彼女はロシュが抱いた気持ちが、偽物か否かを見定めようとしていたようだった。
ただ、聞けば聞くほどロシュの気持ちは自分が抱いたことがある『恋情』と遜色ないものだと思い至ったのだった。
しかし。
それでゼイラルを受け入れられるかと言われれば、『否』と唱えるだろう。
アリエスは容易に受け入れられはしない。
彼女の中ではロシュの夫となる者は、ロシュと同等の地位を得ると考えていた。
そのため自分が仕える主が、ロシュ以外にもできるなど考えたくもないのだ。
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