353.平常心と乱れる心1
――イブランの謝罪があったそのすぐ後。凛とした声が発せられた。
「もし。そんなことになりましたら、私が代役を務めアリエスを下げさせます」
――他の2人がロシュが不安を抱いていること『アリエスにゼイラルとの進展を伝えること』に関して、言葉をいい淀んでしまっていた中、バルナはアリエスが、職務中に不機嫌になることでロシュに不都合が生じるなら、すぐに仕事を中断させ、自分が入ると言った。
「アリエスが大人しく引き下がるとは思わないが……」
『いえ。仕事ですから』といって、その場を離れようとしないやもしれん。
命令を出せば引き下がるとは思うが、できれば納得して仕事を休んでほしい。
「グランツェッタ家の使用人は良く言えば仲が良い、悪く言えば使用人としては、馴れ馴れしいという判断がされるでしょう。ですので、そこを再度徹底的に分からせます。自分の感情が制御できないのならば、仕事がなくなるのだと」
全てのメイドの師はバルナだ。
教育し直すという意味で言っているのならば、アリエスも命令で仕事を中断することになるよりは、幾分か納得してくれるだろう。
「そうか……。希望としては数日間部屋にこもって、感情制御に励んでもらいたいがな」
精神統一するのなら、中途半端に動くより静止か躍動が1番だろう。
そういえば最近、剣を前より振れていないな。
「まだ一理、アリエスの感情が荒れない線もありますよ」
「ははっ、それが1番平和だな」
イブランの言葉に乾いた笑いをし、言葉を紡いだ。
――ロシュはアリエスを理解しているかこそ、それはないのだと分かっているからこその乾いた笑いだった。
あれから3人が帰った自室に、アリエスが入ってくる。
バルナに近くの部屋で待機している彼女を部屋に呼ぶよう指示をだしていた。
「ロイ様。いかがなさいましたか?」
「アリエスにも話があってな」
「…それはバルナ様達に話されたことですか?」
やはり気になってはいたようだ。いや。
『にも』と言ったために、前に話していた3人に聞かせた話をされると考えたのか。
「あぁ。内容は少し違うが、頃合いだということになってな。伝える者を制限してだが、話すことになった」
「私もその1人なのですね」
「あぁ。さて――」
「お話が長引くようでしたから、飲み物をご用意しましょうか?」
――早く話してしまいたいという気持ちが少なからずあるロシュと、前の3人が入っていった時に飲み物がなく、ロシュが喉が渇いているであろうと、気遣いをしたアリエス。
2人の心の乱れはこれから反転することになるだろう。
「…そうだな。頼む」
「それでは少々お待ち下さい」
それから1度部屋を出て、飲み物を作りにいった。
ちなみに部屋の外で警備をしているレオには、アリエスの痕に伝える。
2度手間だが、アリエスとレオでは多分、反応が違い過ぎるかもしれない。
そうなると本音を聞き逃す可能性もあったため、ここは分けて伝えることになった。
他の者達にはひとまとめで伝える。
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