350.沈黙の馬車の中~語り~
――ゼイラル・ムーロンへと突然の告白をした。ロイヴァルッシュ・ヴィ・グランツェッタ。
本人的にも言うつもりはなかったのだが、ふと。ゼイラルの帰る場所となりたいと思っての発言らしい。
どんなに疲れていても、労り安らぎを与えてくれる者がいれば、まず気持ちが少し軽くなり、『今日も頑張った』のだと思える。
1人きりの部屋に帰り、また明日を迎えるのは例え慣れていたとしても、蓄積し精神的に辛くなる。
仕事での会話だけでは人との接触も少ない。
近隣に知り合いができても、話相手となれば予定が会えばとなる。
ただ自分が伴侶になれば……。思い立ったが吉日とばかりにロシュは告白したのだった。
――しかしロシュは馬車の中で今後の事を考えた時に、ゼイラルの帰る家になれるが、彼が仕事を続けるのかも分からないな。
と、突然したことに反省点をみいだしていた。
ただ反省点はあるようだが告白したことに、ロシュは後悔していなかった。
それからロシュはとりあえず気持ちの整理と、今後の行動について考え始めた――
――その様子をアリエスは見ていた。
ずっとロシュに仕えてきた彼女は、ロシュの悩む姿に直感的な違和感を感じていた。
いつもは何に悩んでいるのかも、ロシュが隠さない限りは少しは分かっていた。
ただ目の前で考え込んでいる様子を見て得られた情報から、アリエスは引っ掛かりを見いだしたのだ。
目を瞑って考え込んでいるロシュが、たまに瞼を開きアリエスを見る。
その行動をするときはだいたい意見を求められていたはずだった。
しかしロシュは、アリエスと視線が合うと悩ましげな表情をして、また目を瞑った。
アリエスもまたロシュと同じく考え事をし、そして結論をだした。
『私に言えないことがある。それもゼイラル・ムーロンのとこで』
間違ってはいるかもしれない。
だが。いつかは言ってはくれるだろうと思ってはいても、自分の知らぬところで、ゼイラルとの親交が進んでいるかもしれないと思うと、一体ゼイラルはどうやってロシュを魅了したのだ、と。疑問でしかなかった。
アリエスはロシュとゼイラルは結ばれることはない。と。
あったとしても親友くらいだろうと考えていたが、現実ではロシュからゼイラルへと告白していた。
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ゼイラル・ムーロンはロシュが去ったドアを見つめしばらく呆然としていた。
そして現実をようやく受け入れられた時。
彼の涙腺からでた涙が頬を伝った。
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次回更新は、11月9日朝9時となります。
またお会いしましよう。