349.思い立ったが吉日。
あれからゼイラルの身の上話を聞いていくと、剣術や魔法などの身体を動かすことは、苦手とする分野できっと才がなければ護身程度しかみにつけなかっただろうと。
かといって、騎士の時代に職務怠慢をしていたわけではない。自分のできる範囲でやっていたという。
今は筋力が落ちない程度に動いているだけで、あとは料理や刺繍などをしているらしい。
ただそれを仕事にするつもりはない。と。
仕事をする上で必要とする能力を趣味から取り、趣味を苦痛と感じるのが嫌らしい。
私もその気持ちに同意した。
働くためなら何でも使うべきだろうが、やはり『苦痛』と感じてしまっては、好きが嫌いになってしまう。
好きなものには好きという感情と理解したいという考えがあれば、ひとまずは十分だ。
食後の休息も十分取り、そろそろ帰るかという運びとなり、アリエスが馬車を引いてゼイラルの家の近くへと来るまで待機となっていた。
「アリエスが来たら教えるね」
「あぁ」
レオは家の外で、アリエスが引いてくる馬車が来るのを教えてくれるらしい。
フッ。彼女に『レオ。あなたはちゃんとドアの前で待機していてください(ロイ様とゼイラルを2人きりにするな)』という意図は全く伝わらず、私とゼイラルは家の中で2人きりとなった。
「あの。今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。うまかった」
「お口に合って良かったです」
「そうだな」
ぽつりぽつりと出てくる言葉を会話にしながら、ゆったりとした時間が過ぎ。
外にいるレオからノックで、アリエスが来たという合図があった。
「ではな。ゼイラル」
「はい。また機械がありましたら」
私はゼイラルへと背を向けドアへと手をかけた所で、彼へと振り返った。
「ゼイラル・ムーロン」
「はい?」
――突然フルネームで呼ばれたゼイラルは疑問(符)のニュアンスを発した。
「私も君が好きになったようだから、今後の事を考えておいてくれ」
「…………え?」
「別れ間際ですまないな。だが今、伝えたくなった。受け入れるならば、色々と手続きが発生する。考えが纏まってから答えの手紙を出してくれ。面と向かってはお互い恥ずかしいはずだからな。それではな」
――ロシュは、そのまま呆然と立ち尽くすゼイラルを気にかける様子はなく、去っていった。
言ってしまったなと、恥ずかしくも嬉しい感情で相手を気遣うということができなかったからこそ、撤退だった。
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今週末より投稿日を変更いたします。
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又、これは活動報告にも記載しています。
今後とも領地を愛する私はを宜しくお願いいたします。