348.趣味の始まり
――食後。
アリエスが再度入れ直した紅茶を飲みながら、食後の休息をとっていた。
もちろん皆で。
ただゼイラルが食器を洗いに席を立とうしたのを、雑談くらいしようと言い、引き止めた。
「あの…雑談とは何を話せば……」
「そうだな…。私達は手紙では良く語り合ってはいるが、こうして言葉でというのは、前回我が家へと来た以来だからな。話題もないか」
まぁ話している限りそれすら雑談だ。話題など探すものではない。
ちなみにアリエスは口を挟むつもりはないようだ。完全に聞き役だな。
「そう…ですね。手紙はその日の事を書けますが、直接となると料理のことしか語れませんね……」
料理……。うむ。
話題は探すものではないが、出てきた話題が興味のあるものならば、使うに限る。
「ならばそれにしよう」
「え?」
「男で料理というのは料理人を目指していなければ、珍しいことだ。ゼイラルはなぜ料理を覚えた?」
簡易的な料理だったのならば、騎士の時代に野宿などで経験しているだろうが、ソースを1から作るというのは、料理を学ばなければできない代物だ。
「何故……。子供の頃。生の野菜がとても苦いだけで食べられたものではないと、そう思っていた時に料理人が作ったソースをかけただけで食べられるようになったのが不思議で…自分でも作ってみたいと思ったのが最初です」
「そのまま料理人になれば、もっと追究できたのではないか?」
「私の家は代々王族に仕えてきた家系でした。それが騎士でも官職国の中枢のために役立てることならば、仕えてきたのです」
「ゼイラルは騎士としても官職としても才があったのだな」
「…幼い頃はそれが普通だと思っていました…。そのため努力で身に付いてしまったのです」
――ゼイラルは苦笑いを浮かべた。その表情は不本意だったと語っていた。
もちろんロシュは、アリエスはそれを読み取った。
「幼い子は何でも吸収してしまうからな…肉体が試練に適していれば合格はもらえるほどには」
「えぇ。その通りです。ですから料理は趣味となりました。振る舞う機会は少なかったですが、今日のためだと思えば色々と作ったかいがありました」
――ロシュはゼイラルの気持ちの部分は知らなかったが、その他の情報はオリオンが持ち帰った調査結果で知っていた。
だが、それは周りからの主観でしかないため、ゼイラルの口からも聞きたかった。
『興味があるもの』とは、ゼイラル主観での日々のことだった。
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苦いだけの野菜が『苦味があって美味しい料理』となったことは、子供ゼイラルには大きな発見と疑問であった。
明日はお休みです。
次回更新は11月5日朝9時となります。