343.気ままに。気軽に。少しだけ。
無事目的地へと到着した我々は、ゼイラルに促され彼の自宅へと入っていった。
我が家と比べるとさすがに狭いと彼に言われたが、比べる建物が違いすぎると笑った。
我が家はいわば領地の心臓部とも言える。
見映えや広さがあるのは、接待や交渉などの仕事をする上で必要なものだ。
言い方は悪いが、金がかかっていればそれだけ領地の経営が安定している、儲かっているということだからな。
「うむ。1人で住むなら少し広いくらいだな」
だがこうして街の人が住む家に入ったのは初めてに近い。
1人用の家ではないのは、ゼイラルの周辺を調べることになった時に調べがついているが、内装までは見れないからな。
新鮮だ。
「はい。でも、料金がとても安くて驚きました」
「土地税が無いから安いのだろう」
「土地税がない…?それは…」
「領地経営としてはという心配か?しかしな税自体はある。人が住むだけならばかからないだけで、農業や産業を運営した場合引かれるぞ」
この領地では。だからこその税率。
他の場所では通常土地税もかかるため、他の領地へ引っ越すとよりお金がかかり、生活が前より悪くなるのは嫌で、引っ越す者も減るだろう。と5代前の領主が通した事案だ。
先人領主達のおかげで、領地運営の作業が減ったのは私としては物足りないが、その分家族との時間が増えるのは嬉しい。
残してくれた物が良くも悪くもあったということだな。
「なるほど…あ。副業などは良いのですか?」
「土地や物件を使っていないのならば、『収入源』として大丈夫だ」
「そうなんですね…」
「何かやるつもりなのか?」
「いえ。ですが、もしやるとしたなら知っていた方が良いかと思い…その、領主のロシュさんがいたので聞けたらな、と…すみません」
「いや。その程度の質問なら気にしないさ」
――ゼイラルはロシュに対して少し気ままに接したのだ。
領地の土地柄などは街の者に聞けばすぐに分かるはずだが、ゼイラルはあえてロシュへと質問した。
それは彼なりの『友人』としての態度だった。
さすがに気軽に何かを頼るというのは、受け入れられるにしろ断られるにしろ今のゼイラルには無理で、今回の食事もロシュが言ってくれなければ、もう少しかかっていたであろうと彼は思っていた。
ロシュはゼイラルの態度からすべてを察して、『気にしないさ』と言ったのだった。
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